小説その2

□『決闘を前提としたどつきあい』と『結婚を前提としたおつきあい』の違い
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座敷わらしと天狗さまシリーズ(会話文) 派生のお話ですが、単独でもあまり問題無いかと。
設定はあいかわらず珍妙です。(変態でおっさんな白蘭さま×ぽやっとしている青年雲雀・両方とも有翼族の妖魔)

◇◇◇


「ムカつく…。」
僕の呟きを聞いて、給仕をしていた気弱メガネがびくっと首を竦めた。
それをちらりと見ながらお替りのお皿を差し出したら、びくびくしながらもシチューの追加をよそってくれた。

「ほんとムカつく…。」
再度呟くと、気弱メガネがひいっと情け無い声を上げた。
「そんなにシチューの味付け気に入りませんでした!? でもそのわりにもう三杯目ですよね!?」
僕は思わずきょとんとして彼をまじまじと見返してしまった。
「………? シチューはすごく美味しいよ。あ、もう少しちょうだい。………そうじゃなくて、みんな楽しそうなのに、僕だけつまんないなって。だから、ムカつく。」



僕は今、ベッドに寝たきりだ。
怪我をしたとか病気になったとかいうわけでは無くて、妖魔の力の源である妖力がすっからかんに近い状態で動くことが出来ないのだ。要するにガス欠というやつだ。

3時のお茶を始めたころに、何故か僕の寝ている部屋で、この城の主らしい白い髪のへらへらした男と赤ん坊が手合わせを始めた。
僕も参加したくてうずうずしたけれど、妖力が無い僕は起き上がることも出来ず、ただケーキを食べて見物しているしか無くてとてつもなく退屈だった。

その後、僕と僕の弟二人で封印していたはずの金毛白面九尾が封印を破って現れた。
これは、封印の舞を踊っていた途中で僕を誘拐なんぞした、この城の主が悪い。
だから彼が責任を取ればいいんだ。僕には関係無い。
そう思って、幾分意地悪い気持ちで事の成り行きを眺めていたんだけれど……。
屋敷の主と、赤ん坊と、白面九尾は、なんと3つ巴でとても楽しそうに手合わせを始めてしまったのだ。

それは夕食の時間まで延々と続き……僕はベッドの上で上体を起こしてシチューを食べながら、ムスっと不機嫌全開でそれを眺める羽目になってしまった。

あんなに楽しそうなのに参加できないなんて、一体なんの拷問なわけ!?



「ねぇ雲雀ちゃん、退屈?」
突然ふわっと後ろから抱きしめられてびっくりした。気配なんか全く感じなかったのに…。
この城の主はかなり得体の知れない男だ。

「あ…なた、闘ってたんじゃないの?」
「んー? だっていい加減飽きちゃったし。おなか空いたから、適当に交代してシチュー食べてた♪」
「交代…?」
「白蘭さん、僕は給仕係りで手一杯ですからスパナに代わりに行ってもらいましたよっ。新開発した手乗りモスカを試したいって嬉々として行ってくれて助かりましたよ、まったくもー。頭脳派の僕に無茶振りしないてくださいっ!」
「あっはは、ごめんごめん。シチュー美味しかったよ、正チャン。他の人たちも欲しがったら適当に振舞ってあげてね。それでさ、雲雀ちゃん。退屈ならお風呂にでも入る?」
「お風呂…?」
温泉好きの僕は、思わずぴくっと反応してしまった。どんなお風呂だろう。

「ライオンの像からお湯が吹き出てる大きなお風呂あるよ?」
「本当?」
「うんうん。お湯もちゃんと秘湯の温泉から直接汲んできてるんだよ。」
「まったく無駄にも程がありますよ。この天空の城までお湯を汲みげるのに、どれだけの労力と資金を割り当てていることか…!」
横から気弱メガネが口を挟んできてぷんぷん怒っていた。別に気弱メガネ本人がお湯汲みに行かされているわけでも無いだろうに。

「お風呂、入りたいけど…。」
僕はムスっとしたまま答えた。自力でベッドから起き上がることも出来ない僕が、風呂に入れるわけ無いじゃないか。
「了解〜。じゃあ行こうね、雲雀ちゃん♪」
「ちょ、ちょっと!」
いきなり抱き上げられてびっくりして、ぱたぱた足をばたつかせたら、
「はーい、暴れない暴れない。」ってあやすように言われてしまった。

妖魔の掟で、戦って負かされた相手には基本逆らえないため、不本意ながらも言うことを聞くしか無くて、僕はしぶしぶ暴れるのを止めた。

この男は訳が分からなくて苦手だ。
一見大事におもてなししてくれているように見えるのだけれど。
でも良く考えたら僕を誘拐したのはこの男なわけだし、水晶珠の中で僅かながらも妖力を残して眠りについていた僕を、無理やり叩き起こして限界まで妖力を奪い取ったのもこの男なのだ。
優しそうな物腰なのにやることは情け容赦無くて、えげつないというか何と言うか…。

「はい、落ちると危ないから首にぎゅってして?」
「…うう〜。」
睨みつけてみたけれど、にこにこ笑われてどうにも調子が狂う。
諦めておずおずと首に腕を回してしがみついたら、ものすごく嬉しそうな顔をされた。
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