小説その2

□『決闘を前提としたどつきあい』と『結婚を前提としたおつきあい』の違い
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「雲雀ちゃんが僕の城に来てくれて嬉しいなあ♪ もうずーっとこのままココにいてよ。ねっ?」
「……やだ。」
『攻撃するな』『暴れるな』などの命令には逆らえないけれど、こういう『お願い』にまで頷く必要は無いから、即答で断った。
そもそも無理やり攫ってきておいて、『来てくれて』も何も無いじゃないか。

「えー? だって雲雀ちゃん、僕と『結婚を前提としたお付き合い』するって頷いてくれたじゃない。」
「僕には『決闘を前提としたどつきあい』って聞こえたよ?」
本当にそう聞こえたのに、男はさもおかしそうに笑い出した。
「雲雀ちゃんらしい聞き間違いだねー。でも、聞き間違いでも何でも、雲雀ちゃん『いいよ』っていったんだもん。それに誓いのほっぺにちゅーもしちゃったし!」
「そんなの…知らないっ。」
ぷいって顔を背けたら、また笑われた。一体なにがおかしいんだろう、この男は。



男はある部屋の前で立ち止まって、扉を押して中に入った。
かなり豪華なつくりの大きな部屋で、奥にもまだ部屋があるみたいだった。
「……? お風呂に行くんじゃなかったの?」
「うんー、でもその前にさ、ちょっと雲雀ちゃんに妖力あげようかなって。思ったよりも弱っちゃってるみたいだしさ。こんなにくったりしちゃって…。」
可哀想にって言われて髪を撫でられて、ちょっとムっとした。
「それは貴方が、僕のなけなしの妖力奪い取ったからじゃないか。」

ケーキだとかシチューだとか、そういう食事はほとんど嗜好品扱いで、妖力の補充としてはほとんど役に立たない。
僕は神社の神子だから、今まではご神木などから分けてもらったり、泉に溜まった神気を吸収したりして、妖力に変換していた。
それがここの場所だと一切効かないから、妖力の回復にとてつもなく時間がかかってしまうのだ。

「だから僕の妖力、分けてあげるから。それからお風呂、入ろう?」
…まぁ、分けてくれるというのなら、もらえるものはもらっておこう。
僕はそう思って、こくっと頷いた。
「…でも、どうやって、分けてくれるの?」
この男は水晶珠をつかって僕の妖力を奪い取った。分け与えるときも水晶珠を使うのだろうか?

男はそれには答えず、足を進めて奥の部屋に入った。
そこは更に広い部屋で、天蓋つきのベッドなんぞが置いてあってちょっとびっくりした。
基本和室で畳に布団の生活だから、変わった形のベッドが物珍しくてまじまじと見つめてしまった。
こんな広いベッド、真ん中に行くのも大変そうだな…。
そう思っていたら、そっとベッドの端っこに座らされて、男も横に座ってきた。

「ねぇ。」
「うん、何?」
にこにこ笑われて、また髪を撫でられた。…なんだか猫や犬みたいなペットと間違えられている気がする。
「ここ、貴方の部下たちの部屋?」
「違うよ? どうして?」
「だってこんなに部屋が広いしベッドも大きいから、集団で使っているのかと思って。」
そう言ったら、けらけら笑われてしまった。
「あはは、雲雀ちゃんって面白いなぁ。ここは僕の私室だから、僕以外だれも入ってこないよ。」
「ふぅん。」
ちょっと首を傾げて、再度尋ねる。
「ねぇ、じゃあ貴方すごく寝相が悪いの?」
「え? どうして?」
「一人なのにこんなに大きなベッドだから。」
「あはは、違うよ雲雀ちゃん。今は一人だけど、そのうち二人で寝ることになるからさ。」
「へぇ?」
用意周到なんだな、と思っていたら、肩を捕まれてぐいっと引き寄せられた。
僕は今あんまり力が入らないから、自然と男の胸に凭れかかるような格好になってしまう。
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