小説その2

□花ならつぼみ 〜天使さまの並盛滞在記の巻〜
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花ならつぼみ 〜桜の下の天使の巻〜の続き。



並森山のお社の、そのまた奥には、神様が翼を休める泉があるといいます。

泉を守る並森神社に、最近白い翼の天使が一人遊びに来ました。
いつもならすぐに自分の氷の国に帰ってしまうのに、今年はずいぶんと長い間並盛に滞在しています。
どうやら神子の一人、ふかふかの耳と尻尾の天狐のツナがことのほかお気に入りのようで、今日も二人で仲良く御本を読んでいるようです。

「ねぇつなよし、この人たちは何をしているの?」
天使のアラウディは白い翼をぱさりと振りながら、うつ伏せに寝転んで本の挿絵を指差しました。
同じように寝転んで本を覗き込んだツナは、う〜んと首を傾げました。その拍子にアラウディの肩に頭がぴとっとくっ付きます。
「ん〜と、車に乗ってお出かけしてるんだと思います。」
「くるま?」
「はい、ふもとの町で人間たちが使っている乗り物です〜」
「こっちの子は何してるの?」
「えっと、これは自転車に乗っているんですね。車ほどじゃないですけど、自転車も結構早い乗りものですよ〜」
「ふぅん、そうなんだ。」



アラウディはずっと一人ぼっちで氷の国で暮らしていました。
しかも1年の殆どを眠ってすごしており、今回は何と10年も眠っていたために、あまり世間のことを知りませんでした。


アラウディはゆっくりと切れ長の瞳を瞬かせると、さらさらの絹糸のような髪を揺らしながらじっとツナの顔を見つめました。
「つなよしってなんでも知ってるんだね。ねぇ、じゃあ早く子供を授かるのってどうしたらいいの?」
「え…えぇ!?」
びっくりしたツナは零れ落ちそうな瞳を更に大きく見開いて、アラウディを顔を見つめました。

並盛神社で一番偉い天狗の雲雀と全く同じ顔をして、でも全く違う色彩の雪のような翼の天使さま。
この天使さまは少々世間からずれておられるようで、時々ツナでさえも首を傾げてしまうことを良く口にされます。

「子供ですか? オレ、そもそも子供ってどこからやってくるのかも知らないですよー? ラウさんはご存知ですか?」
「ううん、知らない。その辺の畑に生えてるのを引っこ抜くんじゃないの? 確か引っこ抜くときにこの世のものとは思えないすごい悲鳴を上げるらしくて、その声を聞いた人は一緒に死んじゃうんだとか……」
「それ昨日一緒に見た御本のお話ですよね? 確か南のほうのジャングルの…」
「あれ? そうだったっけ?」
アラウディは不思議そうな顔をしながら、こてっと首を傾げました。長い睫毛がふるふると揺れています。
「そうですよぅ〜、それって確か、お薬を作るときの材料を集めるときの『まんどらごらを採る方法』でしたよね!?」
ツナは寝転んだまま足をぱたぱたさせてくすくす笑いました。

神社にはたくさんの人たちが天狗様にお仕えしていましたが、ツナと同じ年頃の子はおりません。
だからアラウディが来てくれて、一緒に遊んでくれるのがツナにはとても嬉しかったのです。

アラウディは優しい手つきでツナのあっちこっちに飛び跳ねた茶色の髪の毛をぽふぽふと撫で付けて、ふわふわの狐のお耳の後ろをくすぐってくれました。
「じゃあ僕、子供の授かり方を調べてくるから、また後でね。きみ、もうすぐ恭が帰ってくるからそのお世話しなくちゃだろ?」
「はいっ、もうすぐヒバリさんのお世話の時間ですっ! がんばってきますねー。」
ツナはそう元気良く返事をして、ふかふかの茶色のしっぽをふりふりしました。

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