小説その2

□想紫苑(おもわれしおん)
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捏造ちょっと未来。ヒバツナ・ツナヒバお好きなほうに取って下さい。雲雀さん独白






僕の恋人はマフィアのボスだ。

昔はひょろひょろして頼りない子だったけれど、今では畏怖と賛美の的となっているドン・ボンゴレ。
とても慈悲深くて聡明で美しいと巷で有名らしい。


僕は彼の側に居たくて故郷を捨て、一番信頼している部下を残してきた。
小さな並盛の町を出て世界を見ておくのは必要だったし、他にも色々と絡んでいるから、厳密に言うと『彼のため』だけでは無いんだけれどね。

僕の居場所は今ではここ―――ボンゴレ屋敷の隣に建てた、風紀財団の地下にある。

イタリアに来たばかりのとき、僕たちはお互いの組織を地下通路で繋ぎ、行き来できるようにした。
そして風紀財団側の地下に、居心地の良い居住スペースを作って、そこを二人の住処と決めたのだ。

ただ、お隣同士といってもそれはそれは広大な土地での話なので、徒歩で地下通路を通るとかなりの時間が掛かってしまう。
地下通路を通らずに、車で行き来するほうが時間的には楽なのだが……そうすると今度は体面だのセキュリティの問題やなんやかんやが関わってきて、結局面倒くさいことに変わりは無い。

それでも綱吉は、僕たちの住処に向かって散歩がてらに地下を歩いてくるのがとても好きで、いつも瞳をきらきらさせながら跳ねるようにやってきたものだ。
それを風紀財団側の扉の前で待っているのが好きだった。
さも偶然の振りをして待ち伏せて、彼が飛びついてくるのを抱きとめるのが嬉しかった。
そして二人で取りとめの無い話をしながら、自分たちの住処に二人で入るのが……密かな楽しみだった。


お付き合いなるものを始めたとき―――僕と彼の間では、一つの約束事が交わされた。

そのことを、君はもう、忘れてしまったのだろうか。





赤ん坊(今はもう赤ん坊では無いけれど、慣れてしまったものは今更戻せない)に緊急の用事があったので、ボンゴレ屋敷に久々に足を踏み入れた。
がちゃがちゃしていて煩いから、ここへは滅多に寄り付くことはないのだが、仕事だから仕方が無いね。

サロンの扉を開ければ、むわっと酒臭い匂いが鼻についた。
辺りを見回してみれば、大量の書類と共に、いくつもの酒瓶があちこちに転がっている。
床にだらしなく寝そべっているのは、ボンゴレの同盟マフィアのヘラヘラした金髪男、跳ね馬だ。
その隣には跳ね馬の従者のヒゲメガネと、自称ドン・ボンゴレの右腕の銀髪の駄犬が折り重なって転がっているし、近くのソファーでは綱吉が半分ずり落ちながら寝こけていた。

………仕事しながら酒盛り? 忙しいんだか暇なんだかよくわからない状況だね。

ソファーに近寄ってふにっと綱吉の鼻を摘んでみる。
「……うに〜、あ、ヒバリしゃんー……ゆめでも、あえてうれしいでしゅー…」
変な顔。実に面白い。
ボンゴレの咲き誇る白薔薇だとか、俗世に舞い降りた戦乙女だとか。
そんな素面では口にできないような恥ずかしい(と僕は思う)異名を持つとは思えないような顔で、綱吉はへにょりと笑った。

僕が大好きな、ちょっと情けないへらへらした顔だった。


しばらくぼんやりとその光景を眺めていたら、背中をぽんと軽く叩かれた。
振り向くと、背中に刀を担いだ山本武が立っていた。その後ろに赤ん坊も見える。
全然、気がつかなかったな。

「よっす、ヒバリ。屋敷に来るなんて珍しいのなー」
「やぁ、…そうだね」
「あ〜ぁ、すげー惨劇だな。なんか最近忙しかったみたいでさ、ツナも獄寺も殆ど寝ずに仕事しててさー。結局なんとか目処が付いたってところで、別件で駆けずり回ってたディーノさんが祝杯挙げようとか乱入してきてこうなったらしいぜー」
「ふぅん」
「あ、俺は小僧と二人で野暮用だったのな。ヒバリは?」
「赤ん坊と仕事の打ち合わせ」
「あ〜、なるほど」

山本武、別に聞いてもいないのにペラペラと良く喋るね。

「な、ヒバリ。あんた夕飯食ったのか?」
「……どうして?」
「いや、俺たち今帰ってきたところだからさ、食ってねーなら一緒にどうかと思って。簡単なものになるけど俺がつくるぜー」

ちょっと興味を惹かれて思わず山本の顔をまじまじと見てしまった。
実家が寿司屋だったこの男の料理は、ちょっとしたもんだったような記憶がある。
だけど―――。

「いいよ、遠慮しておく。長居はできないんだ」
「………そっか」
気のせいか、男の顔が痛ましそうに歪んだように見えた。

僕と赤ん坊は酒臭いサロンを後にして、執務室へ向かった。
山本はさっきの言葉通り夕食を作ってくると言って途中で立ち止まり、赤ん坊の指示に何やらうんうんと頷いていた。
「了解なのなー。んじゃ〜ヒバリ、あんま無理すんなよ」
彼はそう言って、ぽんと軽く僕の髪を撫でていった。

その言葉は、僕よりもサロンで延びている人たちに言ってあげたほうがいいじゃないの?
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