小説その2

□勿忘縷紅(わすれなるこう)
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想紫苑(おもわれしおん)の続きっぽい。綱くん独白




ヒバリさんが怪我をした―――らしい。


らしい、というのは。
連絡を貰ったときにオレは電波状況の悪い場所にいて、しかも取り込み中で大混乱していたところだったのだ。


「ちょ、十代目、電話、緊急回線入ってますよ!」
「ええっ! この忙しいときに……緊急!?」
通信傍受の問題やなんやかんやで、複数のセキュリティコードを打ち込んで掛けてくる緊急回線は、本当に切羽詰ったときにしか鳴らないはずで。
すわ一大事かと、オレは大慌てに慌てながら電話に出た。

「ツナ!? ツナ、大変なんだ、ヒバリが……!」
電話を掛けてきたのは山本だった。
「大変なのはこっちもだよ! ……ヒバリさんがどうしたの?」
オレは一発触発の状況の中、獄寺くんのフォローのお陰でなんとか電話を続けつつ叫んだ。
「…………で、俺のせいで………なんだよ! だから、ツナ……てくれ……!?」
「なに? なんだって? 聞こえないよ!!」
「だから………ヒバリが………いけど……だからさ!」
「電波悪いんだよ、ここ! 何言ってるのか殆どわからないよ〜〜!」

オレが半泣きで叫んでいると、獄寺くんが鬼のような形相で振り返ってきた。
「十代目、電話まだ終わらないっすか!? もう持ちこたえられないっすよ!!」
「っごっごめん、直ぐ終わる、山本〜〜簡潔にお願いできないかな!? ヒバリさんがどうしたの!」
「ヒバリが怪我して入院………」
「ええっ!? ヒバリさんが怪我して入院!? ―――珍しいね」
ヒバリさんは多少の怪我では入院したりしない。怪我でよりも病気で入院するほうが多かったりするのだ。
「命に別状は無いけど…………ってるから、ツナ、帰って来て………」
「無理だよ! こっちもてんやわんやなんだってば! 命に別状無いんでしょ? ヒバリさんなら大丈夫だからさ! こっちが片付き次第帰るようにはするけど、今すぐは無理〜〜!」
「………でもツナ! 俺のせいでヒバリが……」

山本も必死で電話先で何か叫んでいるけれど、こっちだって必死だ。
超直感に従ってひょいと首を竦めると、頭上すれすれを銃弾が飛んでいく。
〜〜〜うわ、今のは冗談抜きでヤバかった。

「だったら、山本がオレの代わりに付いててくれる!? それならオレも安心だからさ! とにかく目処がついたらすぐ帰るから!! ごめん、本当にごめん! 後よろしく山本!!」
叫んだ直後に携帯を叩き切って、オレは獄寺くんの後について全力疾走した。


そんなわけで、ヒバリさんが怪我をしたらしい―――というのは聞いたのだが、詳しい状況はオレには全く伝わって来なかったのだった。





オレが久々にボンゴレの屋敷に帰り着いたのは、その電話があってから数日後のことだった。

一瞬『お隣さん』の風紀財団のお屋敷に顔を出そうかと思ったが、ややこしいチェックをいくつも通らないといけないことを考えると気が滅入って止めにした。
入院していると言っていたから、風紀財団を訪れてもヒバリさんは居るはずが無い。
それよりもボンゴレの屋敷で病院の場所を聞いてそちらに向かったほうがいいだろう。

ざくざく砂利道を踏みしめて歩いていると、中庭から誰かの笑い声が聞こえてきた。
メイドたちが休憩でも取っているのだろうか。
中庭は確かに気持ちのいい風が吹いていて、この時期なら色とりどりの花が咲き乱れていることだろう。
どうせ最終的にたどり着くところは一緒なので、何となくそちらのほうに足を向けてみる。

ふっと渡り廊下を歩きつつ中庭に目線を向けてみて―――オレは驚いて立ち止まってしまった。

遠くのほうにテーブルと大きなカウチがしつらえられている。どうやらだれかが特別にそこに運んだらしい。

中庭に置かれたその長めのカウチにゆったりと腰かけていたのは、なんとヒバリさんだった。
何故ヒバリさんが風紀財団ではなくてボンゴレの中庭にいるのかは分からなかったが、とにかく彼はそこでのんびりと休んでいるようだった。
ちょこちょことヒバリさんに纏わり付いているのは、ヒバリさんが可愛がっている黄色い小さな小鳥だった。
一生懸命訴えるように囀っているようで、ヒバリさんは笑いながら優しい瞳で小鳥の仕草をじっと見つめている。先ほどオレが聞いた声は、ヒバリさんのものだったようだ。
命に別状は無い、と聞いていたけれど、実際に無事な姿を目にすることができて、じわじわと喜びが溢れてきた。

ただ、無傷というわけではないようで、ヒバリさんは首から三角巾で右腕を吊っていた。
どうやら利き腕を怪我してしまったらしい。
他に怪我しているところは無いのだろうか?
オレは急いで廊下から中庭に降りて、ヒバリさんのところまで駆け寄ろうとした。

「ヒバリ、お待たせ〜〜」
その時、丁度オレとは反対方向から声が掛かって、山本が満面の笑みを浮かべながら現れて、オレはつい樹木の陰で立ち止まってしまった。
そうしたことに特に意味はない。ただ何となくそこから様子を伺う形になってしまっただけだ。

山本は手に大きなトレイを持っていて、その上には所狭しと食べ物が乗せられていた。
「遅いよ、きみ」
「ごめんごめん、ついつい色々作りすぎちまってさー」
ヒバリさんはツンとした顔でちょっと口を尖らせたが、すぐに柔らかな笑みを見せた。
「……うそ。この子がいたから、退屈はしなかったよ」
ヒバリさんは人差し指に止まった小鳥を愛おしそうに見つめた。


―――付き合い始めた頃に、よくオレに向けられた眼差しを思い出してしまった。
ヒバリさんは口数が本当に少なくて、一緒に居てもほとんどがオレが一方的に喋るだけだったけれど、その代わりによくあんな目つきでオレを見たものだ。
目は口ほどにものを言う……とは良く言ったもので、オレはいつもその眼差しを感じるとほっこり心が温かくなった。

最近、オレを見つめるヒバリさんは、あんな目をしていただろうか。
ぼんやりと思い返してみたけれど、そういえば久しく見ていなかったような―――気が、した。
そもそも、ヒバリさんに前会ったのって…何時だったかな。
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