小説その2

□薫風薊(くんぷうあざみ)
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勿忘縷紅(わすれなるこう)の続きっぽいかんじ。リボさま独白

俺にはボンゴレに『生徒』と『弟子』がいる。

どう違うのか、と言われても困るのだが、とにかく俺の『生徒』のツナと、そして『弟子』の山本、そのどちらもが俺の頭を悩ましつづけている。


俺の生徒のツナは、現在雲の守護者の雲雀と付き合っている。

こいつらはまぁなんと言うか、中学時代からお互い意識しまくりのくせにいざ顔を合わすと、ツナはもじもじしすぎて挙動不審だし、雲雀は照れ隠しのつもりなのか暴力の権化になるという至極はた迷惑な二人だった。
『もうおめーら付き合っちゃえよ』と、よくもまぁだれも言わなかったもんだとしみじみ思う。

二人がくっつくきっかけになったのは、ツナが日本を離れてイタリアに行くことになったことだ。
その時二人のどちらが「こんなことしてる場合じゃない」と気がついたのか知らねぇが、とにかく二人は気持ちを確かめ合い、目出度くお付き合いなるものを始めることになった。


もちろん、遠距離恋愛で、だ。


驚いたことに、並盛命のはずの雲雀がツナを追いかけてイタリアに来ると言いだしたので、期間はそんなに長い間では無かったのだが。
だが……今思うと、この遠距離恋愛しているときが、そしてイタリアで一緒に暮らし出したほんの僅かなときが、二人とも一番楽しく過ごしていたときなんじゃないかと思う。

ツナは「ヒバリさんからメールが来たんですよ! ほら!」と、俺に得意げにいちいち見せに来たし
(内容は「うん」「いいよ」「おやすみ」など全て5文字以下の短文メールだったが)
雲雀は雲雀で、日本に居ながらにして色々手を回してボンゴレの隣の土地に風紀財団支部を作っちまうし
(しかも地下通路まで作ってボンゴレ本部と繋げちまった!)
一緒に住みだしたら住みだしたで、今日は雲雀さんの髪がぴょこっと跳ねてて可愛かっただの、綱吉は意外と寝言が豪快だの…
勝手にやってろよこのバカップル! という感じだったのだ。

それが、雲雀が『お隣』に住みだしてまもなくのことだったが、正式にツナがボンゴレのボスを継いでから事態が一変してしまった。
それまではまだ『ボス見習い』ということで、大変だとは言っても忙しいに毛が生えたようなもんだったのが、文字通りまともに家に帰ることも出来ないほどになってしまった。
それでも、最初のうちはツナも必死で『雲雀との家』に帰ろうと努力していたのだが、努力だけではどうにもできず、力尽きて執務室でそのまま朝を迎えるということが多くなってきた。

どうやら二人の間には『どうしても忙しくて家に帰れないことが続いても、週1回、最低でも月一回は必ず家に帰って二人で過ごす』という約束があったらしい。
どうしてもツナがそれを守れそうにもなく疲れて潰れていると、雲雀がやってきては肩に担いで連れて帰る、という光景を見かけるようになった。


ある日のことだった。
その日はツナは早朝に出張に出かける予定だった。
なので、前の晩に家には帰らずにボンゴレの執務室にしつらえてある仮眠室で寝ていたのだが。
いつものごとくセキュリティをものともせずに窓から入り込んできた雲雀が、ツナを肩に担いで悠々と地下通路を通って帰っていってしまった。

雲雀とて風紀財団という組織のトップだ。仕事の大変さは良くわかっているだろう。
しかし、雲雀は基本的にやりたいようにしかやらないし、そもそも風紀財団というのは雲雀の個人的な組織だ。
個人の意見だけではどうにもならない部分のあるボンゴレとは違い、スケジュールはいじり放題、雲雀の一存で商談を潰したところで誰からも文句など出るはずも無い。

しかしツナの場合は違う。
雲雀に強制的に家につれて帰られてしまったツナは、その家までの僅かな行き来の時間のロスのために、商談に大穴を空けてしまうという失態をやらかしてしまった。
もちろん、ツナが余裕を持って行動して、きちんと時間を守りさえすれば良かった話なのだが、人間の身体には限界というものがある。
そのためにツナと獄寺は恐ろしい残務処理を背負い込む羽目になり、殺人的なスケジュールをこなさなければならない事態に陥ってしまったのだ。

この時ツナは一言も雲雀を責めなかった。結局のところツナも雲雀と一緒に居たいという気持ちが強かったのだろう。


しかし、ここで余計なことを仕出かしたアホがいた。

「てめー、この野郎! よくも十代目のお仕事の邪魔をしやがったな、雲雀!!」
3日以上殆ど寝ずに処理に当っていた獄寺は、目を真っ赤に充血させて雲雀に食って掛かった。
「なに? 文句があるならいつでも相手してあげるよ。まぁ君じゃ相手にもならないけどね。」
雲雀はツンと澄ました顔でふんと鼻を鳴らした。
「何言ってやがんだ! テメーのせいで十代目がどれだけしんどい思いされてるか分かってんのかこの野郎! 今が一番大切な時期なんだぞ。十代目はこれだけ出来るお人なんだって周りに知らしめないといけないって時に、この大失態だ。ボスとしての面目は丸つぶれで、『やっぱりジャッポーネの若造なんて軽く捻り潰せる』ってナメられまくっちまったんだぞ! そのせいでこの数日ほとんど一睡もせずに残務処理に走り回っておられるし、もう十代目は限界寸前、このままじゃお身体を壊しちまうんだからな! 何もかもテメーのせいなんだよ、雲雀! いちいち家に十代目を引きずり込まずに、心安らかに休ませて差し上げろ!」
ぴく、と雲雀の身体が揺れた。

「………赤ん坊、本当なの?」
ふいっと猫のような切れ長の瞳が、俺に向けられる。
「あぁ、まぁ、間違っちゃいねーな。ちょっとツナは馬車馬のように働きすぎかもしれんが……まぁ若いんだから今のうちに働けるだけ働いておけと俺は思うがな。」
俺はボルサリーノを深く被り直しながら答えた。
「ふぅん。」
雲雀はつまらなそうな顔で呟くと、こて、と首を傾げた。
「…ふぅん。」
もう一度そう呟くと、雲雀はくるりと踵を返して足早に去って行ってしまった。
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