小説その2

□憧桜(あこがれさくら)
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薫風薊(くんぷうあざみ)のつづきっぽい感じ。

※ヒバリさんのことが好きなことを自分でも気づいてない馬鹿山本のお話。ツナヒバ(ヒバツナどちらでも)前提の山ヒバ※





並高の野球部に所属していて、念願の甲子園出場を果たした俺のことを、みんなプロ野球の道に進むと信じて疑っていなかった。
親友のツナですらそうだったみたいで、俺がイタリアに来たとき瞳をまん丸にして驚いていたっけ。

しかし実は中学に在学していたときから、そのことは決めていた。

ツナの自称家庭教師の小僧ことリボーンは「てめーにもイタリア語その他もろもろを叩き込みてぇのは山々なんだが、俺はダメツナの面倒見るので精一杯だ。というわけでてめーの面倒は他のヤツにやらせる」
と言って、最初は獄寺に俺の面倒を押し付けたのだが……俺ははっきりいって勉強はからっきしだ。
「うがーっ! なんで、テメーは、こんな初歩的なことができねーんだよ!! どうやったら、その軽い脳みそに詰め込むことができるんだーっ!」
気が短い獄寺とは根本的におつむの出来が違ったようで、即効根をあげられてしまった。


次にリボーンが俺の面倒を押し付けた相手は―――ヒバリ、だった。
何故だかヒバリは語学がとても堪能らしく、中学のときから既に何カ国もの言葉を流暢に操れた。

といっても、毎日マンツーマンで面倒を見てもらったとか、そういうことは一切無い。
ただヒバリが風紀の仕事で机に向かっているときに、側のソファーで黙ってリボーンからの課題を広げさせて頂いただけだ。

もちろん、あのヒバリがいくらリボーンの頼みとはいえ、赤の他人を側に置くのを素直に承知するわけがない。
「いいか山本、一応ヒバリに口利いてはやるが、自分でも努力しろよ。なんとかヒバリの暴力を乗り越えて、自分で応接室に通う権利を勝ち取りやがれ」というリボーンの無責任極まりない言葉を聞きながら俺はがんばった。

最初の頃は、応接室の前の廊下に近づいただけで咬み殺された。
そのうち、扉を開けて挨拶をしては、殴られる前に退散する術を覚えた。
その後は、たまにヒバリが机に座っているときにソファーに座るようになった。勿論速攻蹴り飛ばされたが。

なぜそこまでされても尚、俺が応接室に通っていたのかは……実は自分でも謎だったりする。
おまじないか、願掛けというわけでもないのだが、どうも1日一回ヒバリの顔を見かけないと、勉強でも部活でもやる気が出ないのだ。

案外しぶとく食い下がってくる俺にヒバリも折れたのか、リボーンと裏取引なるものをしたらしかった。

それからは特に追い出されることも無く、本当にまれにだがわからない所を聞けば教えてくれるようになった。それもかなり分かり易く、懇切丁寧に。
…といっても、俺が人として認識されて対等の扱いを受けたわけでは全くもって無い。
どうやらその辺の本棚と同じように、存在を許された…というだけのことだ。
そしてヒバリは自分に懐いてくるものを、敢えて排除しようとはしない。風紀委員しかり、ヒバードしかり。
というわけで、一定の距離はしっかりと取られていて、懐に入れてもらうことは終ぞ無かったのだが、その関係は中学、高校とずっと続いていった。

ヒバリとリボーンの裏取引の内容は俺は良く知らない。
でも、ツナが高校生活半ばでイタリアに転校することになったとき、ヒバリはちゃっかりとボンゴレのイタリア本部の隣に風紀財団の屋敷を建ててしまった。





日本から一大決心をしてイタリアに渡って早数ヶ月。
俺は早くも現実の厳しさに打ち負かされそうになっていた。
今まで野球一筋、身体を使うことばかりやってきた俺に、世間の波は厳しかった。

とにかく、ボンゴレの幹部候補として求められている仕事が、俺には全くといっていいほど上手くできない。
失敗に失敗を重ねて、ツナや獄寺やリボーンその他大勢に迷惑を掛け捲り、俺は地の底まで落ち込んでいた。
俺が単純だからいけないんだろうが、どうにも人の裏の裏を読むのが苦手な俺は、すぐにカモられるわ騙されるわ体よくあしらわれるわ、散々な目にあわされて……でも一体どうしていいのかがわからない。

あぁ、こんな机の上の仕事ばっかりじゃなくて、身体、動かしてーなぁ…。
毎日のトレーニングは欠かしていないが、それにしても身体が鈍り過ぎだ。
おもいっきりバットで野球のボール、打ちてーなぁ……。

そんな折に、突然リボーンが「お前、しばらく風紀財団との共同の仕事やるか?」と言い出したのだ。
俺は渡りに船とばかりに何度も勢い良く頷いた。
めちゃくちゃ嬉しかった。
風紀財団とはすなわちヒバリの組織で、ボンゴレとの共同の仕事といえば主に匣や指輪の発掘や研究が主で。
研究を俺にしろとは言ってこないだろうから、つまりは外まわりの仕事ということだ。

それに、運がよければヒバリとの接点も持てるかもしれない。


最近のヒバリは、俺から見てもおかしかった。
ヒバリは、ヒバリは―――イタリアに来てから、ツナと付き合いだしていた。
俺はどちらのことも大好きだったから、その報告をツナがうっすらと頬を染めながら報告してくれたとき、大喜びして祝福した。
ツナが手を握ったことさえ重大事件として報告してくれるたびに、自分のことのようにドキドキして嬉しかったのを覚えている。

お互いの想いを確かめ合ったのは、ツナがイタリアに行くことに決まった時だから、もう少し前かもしれないけれど、本格的に付き合いだしたのはヒバリもイタリアに来てからのことだ。
それまでヒバリはなんやかんやで忙しく、高校を卒業してからは世界中を飛び回っていた。
俺も良く知らないが、それでも拠点は並盛で、しょっちゅう日本に帰ってはいたらしい。

それが、ツナと付き合いだしてからのヒバリは、一切日本には帰ろうとはしなくなった。
とにかくツナの側を離れたがらないのだ。
それは、ツナの状況が一変して、隣にある風紀財団の地下にある『我が家』に帰る暇が無くなってしまうほど忙しくなっても、変わらなかった。

最初の頃は強引に自分の側にツナを置いておこうとしていたヒバリだったが、本当にツナがそれどころじゃないことを漸く理解したのか、最近では無理やりどうこうすることは無くなった。
ただ、明らかにぼんやりすることが増え、食欲は落ち、睡眠もろくに取っていない感じがした。

殆ど会えなくなってしまった今でも、ヒバリはただ一人、財団の地下の家でツナが帰ってくるのを待ち続けている。

ヒバリは日本に自分の腹心を置いてきてしまっていた。
こちらのイタリアはあくまでも支部あつかいで、重要拠点ではないらしい。
ヒバリの世話をする人は側に誰もおらず、ヒバリ自身も自分のことには無頓着。

それが俺には気に掛かって気に掛かって―――学生時代、顔を見ない日は落ち着かなかったことまで思い出してしまった。

ちゃんとメシ食ってるのかな。
部屋の掃除とか洗濯とか、誰がしてるのかな。
まさか薬で無理やり睡眠とってないだろうな。


そんな風に俺の頭の中はヒバリでいっぱいになっていたから、いざ合同の仕事に出かけるとなったとき、仕事相手としてヒバリが登場したときには、夢なんじゃないかと驚いて腰を抜かしそうになった。

「ヒバリ! 組む相手ってあんただったんだな、なんか嬉しいぜ!」
俺がにかっと笑って日本語でそう言うと、一瞬ヒバリはまじまじと俺の顔を見つめた。
イタリアに渡ってからは、日常でもイタリア語で話すことが暗黙の了解だったから、なんだか久々に日本語を喋った気がする。
「ふぅん、まぁ、精々足を引っ張らないでよね」
幾分ツンとした物言いになっていたけれど、ヒバリの口元は柔らかく緩んでいた。

ただそれだけのことが、何故かすごく―――嬉しかった。
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