小説その2

□憧竜胆(あこがれりんどう)
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銀のトレイに片っ端から料理を乗せて、足早にヒバリの元へと向かう。

案の定、ヒバリは放置されたことにおかんむりだったが、いつのまにか小鳥が側に寄っていたため退屈はしなかった、と案外機嫌良さそうだった。
ヒバードさまさまだな、と俺はほっとして、小鳥にも美味しいパンを千切って放ってやった。
それからヒバリの側に座って、ポタージュスープをスプーンでかき混ぜてからヒバリの口へと持っていく。
今日のスープは合格だったらしく、ヒバリの瞳が満足げに細められた。

取り留めの無いことを喋りつつ、口の端についたポタージュを指で拭ってやる。

ボンゴレの本部はやっぱり嫌だと駄々を捏ねると思っていたのに、ヒバリは文句一つ言わずにおとなしく俺のされるがままだ。
普段のヒバリからすると、あまりにもおとなしすぎる…とも言える。
本来ならまだ入院していなければいけない状態なのに、無理やり早期退院してきた上に移動したりしたもんだから、具合があまり良くないのかもしれない。
それに思い当たって、思わず額に手を当てて熱が無いか見ようとしたときだった。



「ヒバリさん! 山本!」
突然呼びかけられて、反射的に振り返る。
…この、声は。
そこに予想通りの姿を見つけて、俺は嬉しくてたまらなくなって「ツナ! 帰ってきたんだ」と叫んでぶんぶんと手を振った。


あぁ、ツナがやっと帰ってきてくれた。

きっと連絡する間も惜しんで、急いで帰ってきてくれたに違いない。
ツナが出向いていた国はここ数日でかなり治安が悪化していて、飛行機が飛ぶのかどうかも怪しいと言われていたので、こんなに早く会えるなんで思っていなかった。
ヒバリもきっと大喜びに違いない、これで一安心だ…と俺は単純にそう思って、ツナと取り留めの無い話をしながらにこにこと笑った。

そして何気なくヒバリの顔を覗き込んで―――言葉を失った。

ヒバリは、機嫌悪そうに口をきゅっと結んで、じろりとツナを睨んでいた。
ツナは申し訳なさそうな顔で、すぐに飛んで来れなかった非礼を詫びていたが、それに対しても始終無言のままで。


その見覚えのありすぎる態度に、俺はじわじわと不安が襲ってくるのを感じた。
いや、ただ、ツナがなかなか会いに来れなかったから、ちょっと拗ねているだけ―――だよな?

…っていうか、ツナは俺の伝言を受け取ってないのか? 
ボンゴレにヒバリが来ていることも知らなかったようだし、風紀財団にいる草壁さんにも当然会っていないのだろう。

ということは、ヒバリの今の状況も殆ど知らない……下手をしたら、怪我の程度も知らない、かもしれない。

俺はヒバリの容態をツナに説明しようとして、すぐに諦めた。
一体何をどう話せばよいのやら……。
要領の悪い俺が、きちんとツナに説明できるとはとても思えなかった。

そしてヒバリはただただ、ツナのことを睨みつけている。
拗ねているだけなんだよな? そうだよな、ヒバリ?

「あ、えと、えと、ヒバリ……! ほら、待ちに待った『恋・人・の・ツナ』が帰ってきたんだぞ。もーちょっと嬉しそうに……なぁ?」
俺はどうにかヒバリのご機嫌を直してもらおうとがんばったのだが、ヒバリは唯一言
「………知らない」と言ってツンとそっぽを向いてしまった。

その態度だけじゃ、ツナのことが分からなくなっているようにも、単に拗ねているだけにもどちらとも判断がつかなくて、俺はますます混乱してきてしまった。
本当に、なんで俺ってこんなにバカなんだ。

結局つまらないことでツナと言い争いをしてしまった上に「風紀財団の草壁さんに話を聞いてくれ」と他力本願なことを言った後、ツナをただ見送ることしかできなかった。

ツナはしきりとヒバリのことを気にしている風ではあったけれど、それでも足早に執務室のほうへと向かってしまった。

ヒバリは、ツナが去っていくときも、あさっての方向を見て全く関心を持とうとしていなかった。
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