小説その2

□ランタナ(七変化)
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憧竜胆(あこがれりんどう)のつづきっぽいかんじ。リボさま独白





愛弟子から半泣きの電話が掛かってきたのは、俺が一仕事終えてのんびりとホテルで寛いでいる時だった。


「小僧!? リ、リボーン…!良かった、繋がった、なぁ、なぁ……!」
俺の愛弟子の山本からの電話は殆ど意味を成さない、言ってみればパニック状態そのままの電話で。
「…なんだお前、ちっとは落ち着け。どんなときでも平静を保てとあれほど教えただろうが。」
「だけど…だけどリボーン! ヒバリが…ヒバリが!」

山本は普段は冷静沈着で優秀な自慢の弟子だったが、ある人物絡みになると、途端に冷静を欠いて全くと言っていいほど使い物にならなくなる。
そう、やつが取り乱すと言ったら、大抵ヒバリが絡んだときだ。
ついこの間もヒバリが怪我をしたと大騒ぎをして、必要も無い緊急回線を開いた挙句に減俸をくらっていた。
なんという馬鹿なヤツだ。

またか、と内心俺はため息を付きながら、話の続きを辛抱強く待った。

「ヒバリ……そういえば小僧さぁ、ヒバリとツナのこと、知ってる、よな、なぁ?」
「はぁ?」
今にも泣きそうな声の山本は、突然トンチンカンなことをほざいてきた。

なんで今ここで、ツナの名前が出てくるんだ。

「ヒバリとツナがどーしたって? もっと要領良く喋らんか。それから俺の名前は『小僧』じゃねぇ。」
「ご、ごめん小僧…じゃない、リボーン。だからリボーンはさ、ツナとヒバリが、そのう……あのう………し、知ってるよなぁ?」
ごにょごにょ語尾を濁されて、何がなんだかさっぱり訳がわからねぇ。
「なんだ? 知ってるかってーのは、あいつらのおままごとみてーなお付き合いのことか? ええ?」
俺は最大限の忍耐を発揮して、適当に当たりをつけて答えてみた。

…ったく、普通なら3秒で電話を叩き切っているところだぜ。
俺の機嫌が良いときで命拾いしてんだぞ、お前は。

「うっ…うんうん、そう、そうなんだよリボーン、あんた知ってんだよな?」
山本はそりゃもう盛大な安堵のため息を漏らして、電話口でべそべそすすり泣き出した。
「俺、言っちゃいけないのか、大丈夫なのか、もうわけわかんなくなっちまってさ…。いいんだよな? ツナとヒバリが付き合ってるって、あんたには言ってもいいんだよな? なぁ?」
「……………。言っていいのかどうかって問われりゃ、駄目だとしか答えようがねーけどな。あいつらが住んでいる地下の『家』だって、表向きはボンゴレデーチモの身辺警護を風紀財団が請け負っている、という名目になってるしな。」

ツナとヒバリが居を構えている地下の家は、もともとシェルターという形で建設させたものだった。
敵の襲撃があってボンゴレの屋敷にやれバズーカだのミサイルだのをぶっぱなされても大丈夫なように、一番無防備になりやすい就寝時をそこで過ごす、というわけだ。
そして風紀財団とはきちんと契約をしていて、毎月ツナの警護料がきっちり支払われている。
尤も、最近ではめっきりツナがそちらで過ごすことが無くなったので、経費の無駄遣いじゃないのか…という話が持ち上がっているのはいるのだが。

「や、やっぱ駄目なのか…ううう、じゃあ小僧には相談できねーのか? 俺、もう、どうしていいんだか……」
また俺の呼称が『小僧』に戻ってやがる。こりゃ相当混乱してるな。

大体、ツナとヒバリのことなんざ、一般のやつらはともかく、守護者連中には丸わかりというか公然の秘密だってーのに、そんなことにも気づいてないのか、こいつは。
ツナが山本にのろけとしか思えないような『ヒバリさんとの出来事』を話している時だって、俺が側にいることが多かったはずなのに……すっかり頭からそういう事実が飛んでやがるな。

「……………。いやだからもう、お前は小難しく考えるな。それで、ツナとヒバリがどうしたってんだ。」
「い、いいのか?相談に乗ってくれんのか!? あのな、あのなぁ! ヒバリが……俺のこと、『恋人』だって言うんだよ!」
「……………。お前、一度電話切って、深呼吸して屋敷の周り一周してこい。そんで落ち着いたらもう一回かけて来やがれ。」
俺はそう言って電話を耳から離そうとした。
「ま、待って待って待ってリボーン! ヒバリ、病院で様子おかしかったろ!? なぁ、明らかに変だったろ!?」
そう叫ばれて、俺はすんでのところで電話を切るのを思いとどまった。

確かに、見舞いに行ったときのヒバリの様子はおかしかった。
他にも色々とごたごたしていたので、すっかり忘れていたのだが…。
こりゃもう腰をすえて、長期戦で聞くしかねぇな。

「………お前、慌てなくていいから、順番にゆっくり喋れ。」





「ほう? 記憶混濁…ねぇ。」
「そうなんだよ、でも草壁さんがなるべく秘密裏にしたいっていうから、だれにも言ってなくてさ。それに俺、説明下手だし、必要があればそのへんは草壁さんにお願いするってことに取り決めてたんだ。だけど……本当に俺、どうすりゃいいんだか……」
電話の向こうの山本は、べそべそと同じようなことを繰り返している。

まぁ、草壁がなるべく秘密裏にしたかったのはよくわかる。
怪我だけならともかく、そういうメンタル面での状態が芳しくないなどと、口が裂けても公表したくないだろうな。部下の士気にも関わるしな。

「ツナはどうした。さっきまで居たんだろう?」
「それが……ちょっとヒバリと昼食取るのに時間食いすぎちまって…。俺が気づいて追っかけたときには、もう既に空港向かった後でさ。取り次いでもらおうとしたんだけど、俺じゃまともに取り合ってもらえなくて…。なんせ前科持ちだからさぁ。」
山本の声はなんとも弱弱しく、情けなかった。
確かにこいつの要領を得ない説明では、誰も『緊急』とは判断してくれないだろうな。


俺は急いで頭の中のスケジュール帳を捲ってみた。
確かツナの今度の仕事は、さる小国のロイヤルファミリーとの懇親会だったはずだ。
時間が掛かるだけで退屈だが、失敗することは許されない重要な仕事で、代理を立てるわけにはいかない。
…まぁ、俺ならツナの代役でも遜色ないとは思うのだが……狐と狸の化かしあいみたいな商談の場は、はっきりいって性に合わねぇ、お断りだ。
それにツナにはこういう場の経験も、今後のために必要不可欠だ。

以上の事を鑑みるに、俺なら強引にツナと連絡を取れないこともなかったが、取ったからといってツナを呼び戻すのは得策とは言えないだろうという結論に達した。
そんなことをすれば、ボンゴレ上層部からの睨みが一層きつくなること受けあいだ。
唯でさえ守護者の中でも別組織のヒバリに対する風当たりは強いのに、ここぞとばかりに噛み付いてきてあの手この手の難癖をつけてくるに違いない。
…となると、ツナにヒバリの状況を伝えても仕方が無い。
駆けつけることもできないのに知らせても、注意力散漫になるだけで、良い事など一つも無いだろう。

…ったく、どいつもこいつも手間ばかり掛けさせやがって。俺の弟子と生徒は本当にボンクラの集まりだぜ。


「なぁ小僧…じゃない、リボーン、俺、一体どうしたらいいんだ? このままヒバリの側にいてもいいのかな?」
「いいもなにも、お前以外が看護できねー状態なんだろうが。」
ヒバリは持ち前の気まぐれさを最大限に発揮しているらしく、『恋人』と認めた山本以外をほとんど側に寄せ付けないらしい。
「いや…うん、そうなんだけどさ…」
山本は未だ電話口でもごもごするばかりだ。

どうにもコイツは、ツナへの遠慮というか罪悪感というか…に不必要に苛まれているらしく、ヒバリヒバリと大騒ぎする割には、一向に自分の気持ちに向き合おうとしないんだよなぁ。

未だに自分がヒバリに惚れていることにさえ、全く気づきもしないんだから…真性のアホだ。

「……………。あのなぁ、山本。ヒバリは今、怪我している上に病気だ。そうだな?」
「う、うん…」
ため息をつきながら俺がそう言うと、山本は戸惑いながらも同意してきた。
「つまり、本調子じゃねぇ。お前が側にいることをやめれば、もっと悪くなる可能性だってあるよな?」
ヒバリは確か病院でも同じようなことで揉めて、大騒ぎになったはずだから、今の山本にはこの言い方は効くはずだ。
「お前はこの際、余計なことは考えずに、ヒバリの身体が少しでも回復するのに尽力すべきなんじゃねーのか? ああ? それともヒバリの身体のことはどーでもいいのか?」
「そっそんなことねー!」
案の定、山本は大慌てで否定しだした。
「どーでもいいなんてこと、ないぜ! 大事だ、ヒバリのことすっげー大事だ!」

…よくもまぁそんな台詞を恥ずかしげも無く叫べるな。
いい加減アホらしくなってきたので、適当に切り上げることにした。

「だったら四の五の言わずに、ヒバリの側で『恋人』やってろ。とにかく怪我を治すのが先決だろ。」
「でも…でも……小僧、じゃない、リボーン! 俺、俺…」
山本はしばらくもごもごと口ごもった挙句、震える声で続けてきた。
「俺、こ、恋人やってろとか言われても、何をどーしたらいいのかさっぱりわかんねぇよ!」
「……………。そんなもん適当でいいだろ適当で。」
「適当って、適当って、どんなかんじ!?」

はあーと俺は盛大なため息をついた。
そういえば、確かこいつは中学高校と野球三昧な上にイタリアに来るための準備に追われて、恋愛経験が皆無だった。

「今まで通りでいいだろう!? それで何か不都合でもあったか? ええ!?」
「いや、でも、あの…その…」
電話越しにでも、戸惑いと照れと焦りが手に取るように伝わってくる。
「恋人だったら、キ、キス……とかしなきゃいけねぇ?」
そのトンチンカンな言い草に、ついにぶちーんと俺の忍耐がぶちきれた。
「知るかそんなこと! どうせツナとヒバリだって、プラトニックに毛が生えたような付き合いしかしてねーんだから、おめーが強引にヒバリに迫らなきゃ大丈夫だよ!」
叫ぶと同時に電話を叩き切ってやった。
―――あぁ、すっきりした。

それと同時に、自分の仕事のスケジュールを考えると頭が痛くなる。
なんとかやりくりして、早急にあのアホ弟子の下へ駆けつけなきゃいけねぇのか…。ったく、何で俺がこんな目に合うんだよ!
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