小説その2

□毛づくろい★パニック!
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そんなこんなでヒバリとオレが顔を合わせるのは、朝か日中が多かったのだが。
今日は珍しく夕方に訪ねてきやがったと思ったら、やたらめったらごろごろぐずぐずして一向に帰ろうとしない。
こいつは野良じゃなくて世間知らずの家ネコのはずだから、帰る家はあるはずなんだが。

夜になっても帰らないヒバリに、スクアーロたちやジジイはそれはもう喜んで下にも置けないほどのもてなしぶりだった。
夕食にマツタケ尽くしの和会席に、フカヒレのステーキとフォアグラのテリーヌキャビア添えって…張り込みすぎじゃーねーのか、おい。
特にジジイの喜び方は異常なくらいで『ヒバリくん、このままうちの子にならないかね? ザンザスと一緒にずっとここに住めばいい』などと猫なで声でご機嫌を取っていて、見ていてヘドがでそうだった。チッ、くそ面白くもねぇ。
今もベルがヒバリにちょっかいを出しに来ていて、お互い減らず口を叩きながら部屋中を走り回っていたが、二人とも案外と楽しそうだった。

「おい、もう夜も遅いんだ。ちったーおとなしくしろ。…ったく、どこをどうすればこんな事になるんだ」
オレはヒバリの首ねっこを掴んで持ち上げてぷらぷらと揺すってみた。
ヒバリの頭やらほっぺやら手やらに、生クリームがべっとりとついている。一緒に遊んでいたベルは小奇麗なままだったから、更に謎だ。

「うん? 今日のケーキは悪くないね。なかなかのもんだったよ」
ぺろり、とヒバリが桃色の舌を出して手の甲についたクリームを舐め取っていた。
「あなたも味見、する?」
ぺろぺろ自分の手を舐めながら、反対側の手をオレに差し出してくる。
「〜〜〜このバカ!」
オレは夕食の場を後にして、ヒバリを引っつかんだまま浴場へと向かった。
こんなピントのずれたヤツ、まともに相手してられっか!


とりあえず風呂場に放り込もうとしたら嫌がってしがみつかれて、オレの首にもべったりクリームが付いちまった。
「こーら、離せ」
「やだやだ、熱いのは嫌い」
「んなこと知るか。ほーらー」
無理やり引き離して宥めすかして、すったもんだの末に結局オレまで一緒に風呂に入ることになっちまった。
あぁ、めんどくせぇ!


「ほら、じっとしてろって」
「…んん。くすぐったい」
黒いビロードみたいなねこみみの後ろをスポンジで擦ってやれば、瞳を眇めてぴくんと身体が跳ねる。
それを無理やり押さえつけて体中を綺麗に洗ってやった。なんでオレがこんな子守みたいな真似をさせられてんだ…。

「さすがだね」
なにがさすがなのか知らないが、ヒバリは感心したように尻尾をゆらゆら揺らしながらオレを見上げてきた。
「でもちょっと乱暴だよ、あなた。ラウのほうが丁寧に洗ってくれるもの」
―――また『ラウ』かよ!

「うるせぇ、文句いうな」
オレはむっつりしながらヒバリを膝の上に乗せて浴槽に浸かった。
「あなたの膝の上はなかなか居心地がいいよ。知ってた?」
ヒバリはご機嫌でそういいながら、首をうんと後ろにそらして俺を見上げてきた。
きらきら光る切れ長の瞳が真っ直ぐにオレに向けられて、一瞬息が詰まる。

「自分の膝の居心地なんざ、知らねぇよ。それよりほら、もぞもぞ動くな」
「あ、ん、んう…?」
ちっともじっとしていない身体を無理やり押さえつけたら、鼻にかかったような妙な声を出しやがった。
…変な声、出すな!





入浴を終えた後、オレはバスタオルを頭から被ったままベッドに腰掛けてため息を付いた。
なんだか精神的に疲れ果てたぞ。もうぐったりだ。

ヒバリはそんなオレの心境を知ってか知らずか、オレの横に腰掛けると当然みたいな顔つきでオレの頭に手を伸ばしてきた。
「おい…おまえ、帰らなくていいのか」
ぴたり、とヒバリの動きが止まって、上目遣いにオレを睨みつけてきた。
「……なに? 僕の毛づくろい、気に入らないの?」
「そんなこと言ってねーだろ。遅くまで居たっていいし、泊まりたきゃ勝手にしろ。ただオレはおまえの都合を聞いただけだ」
そう言うと、ヒバリはゆっくりと尻尾を揺らしながら考え込むそぶりをした。
たっしたっしと尻尾をベッドに叩きつけているところをみると、あまりご機嫌は良くねーみたいだな。
「…いい。少しは困ればいいんだ」
ぷんとそう言って顎を反らすと、ヒバリはごろごろとオレの背中に擦り寄ってきて毛づくろいを始めた。

どうやら誰かと仲たがいして、顔を合わせづらいとかそんな感じなのか。
その誰かってーのは、多分―――。

「ラウとケンカでもしたのか」
「…ケンカじゃないよ」
オレの襟足の毛をぺろりと舐めながら、ヒバリがむっとした口調で答える。
しかし『ラウと』何かあったのは否定しないんだな。

―――チッ、やっぱりあいつか。クソ面白くもねぇ。
オレは若干イラつきながら、背中に引っ付いているヒバリの身体を捕まえてベッドに押し倒した。
「時間もあるみてーだし、今日はオレがおまえの毛づくろい、してやる」

いつも時間に追われてぱたぱた走り回っているヒバリは、自分のやりたいことだけをやったらさっさと消えてしまう。
それが珍しく長時間居座ってお泊りまでしようって気になっているみたいだから、オレもたまにはコイツにご奉仕してやるか。

そんな殊勝な気分でそう言ってやったのに、あろうことかヒバリは嫌そうに顔をしかめて
「…いい、いらない。毛づくろいくらい自分でできる」と言いやがった!
これにはかなりムッときた。
そういいながらお前、『ラウ』とやらには嬉々としてさせてんじゃねーだろうな。

「僕があなたの毛づくろいをしてあげるんだから、早くどいて」
不機嫌そうにそう言ってオレの身体を押しのけようとするヒバリに、不意に悪戯心がむくむくと湧き上がってきた。
「…ただの毛づくろいならテメーで出来るだろうが、『大人の毛づくろい』は一人じゃできねぇよな?」
ん? と思わせぶりに囁いてやったら、興味を惹かれたらしくぴくんと如実に反応を返してきた。
「なに? 『大人の毛づくろい』…だって?」

オレは返事の代わりに、ヒバリのビロードみたいな黒いねこみみにねっとり舌を這わせながらくちゅくちゅ甘噛みしてやった。
「ひぁ! ちょっと! …なにそれ、ゾワってした!」
ヒバリは叫び声を上げて身を捩ると、ねこみみを押さえてオレを睨みつけてきた。
「なにって……『大人の毛づくろい』じゃねーか。…あぁ、お子様にはまだ早ぇか?」
わざと馬鹿にしたように鼻でせせら笑うと、案の定ヒバリは「そっ、そんなわけないだろ。ちょっとびっくりしただけだよ」と、むきになって食いついてきた。
「どうする? 続き、するか?」
子供をあやすみたいに低く囁いてやれば、一瞬戸困惑した顔つきをした後「あたりまえだろ」とツンと口を尖らせて答えてきた。
……本当にバカなやつだな。

ねこみみの後ろを散々可愛がった後は、首筋や胸元に舌を這わせて時々甘噛みしたりちゅうっと吸ったりしてやった。
「…んっ、ん」
ヒバリは戸惑ったみたいにぴくぴく身体が跳ねていたけれど、また『お子様』と言われるのが嫌なのか、暴れたりはせずにおとなしくしている。

ちょっとした悪戯のつもりだったのに、ヒバリの鼻にかかったような甘い声を聞いているうちになんだか奇妙な気持ちになってきた。
ヒバリのほうも、初めての感覚についていけてないのか、オレにされるがままで抵抗一つしてきやがらねぇ。
オレはヒバリのちょっと半開きになった唇をぺろりと一舐めして、そのまま深く口付けた。
くちゅくちゅ絡み合う舌の感触が、頭の中をぐずぐずに溶かしていく。
…くそっ、すぐ止めるつもりだったのに、気持ちよすぎてとまらねぇ。
ここまで来たら後はもうなし崩しだ。
オレはヒバリのバスローブを勢い良く肌蹴させると、その華奢な身体に覆いかぶさっていった。


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