小説その3

□こっそり『ねこ』裏話 〜カレーパーティ後日談 ツナくん奮闘記〜
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こっそり『ねこ』裏話 〜今夜はカレーの日〜 のつづき。


うららかな日差しの中、沢田綱吉はお隣の屋敷の庭先で白い椅子に腰掛けていた。
ガーデンパーティで華やかに飾り付けられていた中庭は、今はその名残は全く無く、普段の静かな落ち着きを取り戻していた。
綱吉は軽いため息をついて目の前に置かれた皿の上のサンドゥイッチとビーフシチューの壺焼きを見つめた。
はぁ、ともう一度ため息をついてから、横に置いてあった紅茶を口に含む。
「あ、いい香り。これ、星ねこミルクティーかな」
たしかこの紅茶は、きょーやさんが大好きだったっけ。
愛しい子『ねこ』の飼い主探しのパーティでの大騒動を思い出して、綱吉は紅茶のカップを両手で包んだまま苦笑をもらした。


雲雀にすげなくドアを閉められて呆ける山本を引きずりながらリボーンたちの元へと急いだ綱吉だったが、パーティ会場の側を通りかかると、庭の一角に人だかりができていた。
どうやら余興としてアラウディの飼い主の一人のジョットがマジックを披露している真っ最中のようだった。
くるくると目まぐるしく動く手元を二人の子『ねこ』たちが夢中で覗きこんでいる。
そのぴくぴく動くねこみみやしっぽの動きがあまりに愛らしくて、綱吉はその場で立ち止まり「うわ〜二人とも可愛いなぁ〜」とうっとりと眺めてしまった。
その声に山本も反応してぼんやりとその光景を見ていたが、やがてぽつりと「…アラウディ、ヴィートさんがいいのかなぁ…」と呟いた。
「え? は?」
意味がわからず首を傾げた綱吉だったが、山本はそれには答えず、うつろな目をして子『ねこ』を眺めている。

丁度マジックを披露し終わったヴィートが、膝にすり寄ってきた子『ねこ』を軽々と抱き上げるのが見えた。
子『ねこ』の副飼い主になったばかりのヴィートには、まだアディは自分から寄って行くことがあまりなかったのだが、今回は嬉しそうにぐるぐると喉を鳴らしている。
「あぁ、あんなに懐いて…やっぱりヴィートさんに決めたのかなぁ」
はぁ、と山本が肩を落とす。
どうやらアラウディがパートナー候補をヴィートに絞ったのだと思い込んでいるらしい。
「えっ!? 別にそんなこと無いでしょ」
なぜ子『ねこ』のアディがマジックに夢中になったぐらいでそう思い込むのか、綱吉には訳が分からなかった。
そもそも、アラウディと山本はどう見ても相思相愛だと思うのだが。
山本はアラウディが愛しくて仕方が無いのを隠そうともしないし、アラウディは山本が気になって仕方が無いのが丸わかりだ。
そんな感じなのに、どうしてここまで山本が落ち込むのだろうか。

ヴィートが喜々として子『ねこ』を抱っこしている間に、次の余興が始まっていた。
今度は今回のパーティのホスト役を務めていたジョットが、ギターを片手に椅子に座りなおした。
途端に周りのゲストたちからざわめきが広がり、期待と興奮が高まってくるのが綱吉にも感じられた。
そういえばいつも奇行ばかりするのでつい忘れてしまうのだが、ジョットは世界的に有名がシンガーなのだった。
今まで彼の生の歌声を聴いたことが無かった綱吉は、その圧倒的な声量にまず驚き、そして朗々と響くテノールに圧倒された。
歌はスローテンポの優しい旋律の曲で、古い民謡を思い出させた。

それはあまりにも予想外に素晴らしい歌声で、つい聞き入っていた綱吉の側にいつのまにか獄寺が立っていたのにも気づかなかった。
「ジョットさま…なんという素晴らしい歌声。さすがプリーモと呼ばれるだけのことはありますっ」
感動にむせび泣きながらうっとりとジョットを見つめている獄寺の出現に、綱吉は文字通り飛び上がった。
「うわぁっ獄寺くん、いきなり背後に立つからびっくりしたよ!」
「すっすいません10代目。あまりにも遅いので様子を見にきたのですが、そこでジョットさまの至上の歌声が聞こえたもので」
「あ、ごめんね。ついここで立ち止まっちゃって」
慌ててダイニングへ足を向けようとした綱吉を制して、獄寺は晴れやかな笑顔を見せた。
「せっかくジョットさまの生歌です、存分に嘗め尽くすように聞いてから帰りましょう」
「な、なめつくすようにって…獄寺くんなんか怖いよ」
「気のせいです」
きっぱりと言い切った獄寺は、すぐにジョットの歌声にうっとりと陶酔しだした。
綱吉も肩をすくめると、歌に集中することにした。

ジョットが曲の途中で、同じフレーズを繰り返し歌いながら誘うように右手を差し出していく。
その先にいたのはヴィートと、彼に抱っこされていたアディだ。
アディが身を乗り出して降りようとするそぶりをしたので、ヴィートがそっと地面におろしてやると、子『ねこ』は誘われたようにちょこちょことジョットに近づいていった。
そしてそのまま歌っているジョットの膝に小さな手を掛けると、ぱたぱたとしっぽを振りながら膝をよじ登りだした。
どうやら普段のジョットのことは『なんか変なやつ』認定していたアディだったが、歌を歌っているジョットのことは気に入ったらしい。
途端にジョットは破顔一笑して、歌を続けながら子『ねこ』をそっと膝の上に抱きかかえた。

微笑ましくて可愛い光景だなぁ、と綱吉が眺めていると、横で山本がまたぼそりと呟いた。
「…アラウディ、ヴィートさんじゃなくてジョットさんのほうがいいのか。そうなのな…」
完全に目が泳いでいる。
「あのさ山本。歌にちょっと聞きほれただけでしょ。しかもあれはアラウディさんじゃなくてアディちゃんじゃない。アラウディさん、ちびっこの時の記憶はあんまり無いんでしょ?」と綱吉が声を掛けても全然聞こえていないようだった。
「なんすか、コイツ」
獄寺が胡散臭そうな顔をしたが、綱吉は「あ、いや〜ちょっとねえ、あはは」と誤魔化しておいた。
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