小説その3

□こっそり『ねこ』裏話 〜カレーパーティ後日談 ツナくん奮闘記〜
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「そ、それよりもさ。ジョットさんってどうしてプリーモって呼ばれてるのかな」
「そりゃ、バンド名が『初代(プリーモ)』だからでしょう」
いくらか強引に話題を変えてみると、獄寺は思った通り山本を放置して食いついてきた。
「でもそれじゃバンドのメンバー全員プリーモじゃん。ジョットさんだけプリーモ呼ばわりっておかしくない?」
確かジョットは10代目(デーチモ)になる予定だったのに出奔してしまい、そのせいで遠縁の綱吉にお鉢が回ってきてしまったのだ。
それなのにボンゴレの使用人たちは皆、ジョットを見ると『プリーモ』『プリーモ』と連呼するため、最近綱吉までプリーモと呼ぶようになってしまった。
「え…でもそれ昔っからですよ。食堂のオバちゃんも用務員のおっさんも『プリーモ』って呼んでましたし、そもそも9代目がジョットさまをずっと『プリーモ』とお呼びでしたから、自然と全員がプリーモって呼んでいましたけど、何か不都合でも?」
満面の笑みを獄寺から向けられて、しばし綱吉は沈黙したあと、ひきつった笑いを返した。
「……………いえいいです。なんだか触れてはいけない話題だとオレの超直感が告げてるんでこの話題はここまででお願いします」
「そうっすか? なんだったら直接ジョットさまに聞いてみるって手もありますよ。良かったら俺が…」
「うわーっ、いいのいいの、そこまでしなくていいから獄寺くんっ、それよりも早くリボーンのところに帰ろう!」
ジョットに話しかけるきっかけが出来たとばかりに飛んでいこうとする獄寺を必死で制して、綱吉はそう叫んだのだった。


その後のことはもう、思い出したくもない。
白蘭は簡単に騒ぎが収まると勝手に思い込んでヘラヘラしていたが、それは騒ぎが収まらなかったとしても痛くも痒くもないからであって、とてもそんなわけにはいかない綱吉側はあちこちに頭を下げて回る羽目になった。
リボーンの罵声を浴びながら馬車馬のように働いて、やっと数日ぶりに小休止を取っているところだった。
ちなみに獄寺は綱吉以上にあちこち奔走した挙句、ひと段落したところで豪快にぶっ倒れてベッドの住人になっている。

もちろん山本はしきりと謝って、綱吉たちの手伝いを申し出てくれたのだが、綱吉はそれをやんわりと断った。
「こっちは任せておいて。それよりも、山本はしっかりトレーニングに励んで体調を万全にしておいてほしいんだ。いざ山本に仕事が回ってきたときに、クタクタのヨレヨレじゃ困るからさ」
山本は体が資本なんだから、と励ますように肩を叩く。
「あとさ、アディちゃんがアラウディさんになったら……一度二人できちんと話をしたほうが、いいとおもうなぁ」
そう言うと、山本はみるみる肩を落としてしょんぼりしながら「………うん…」と頷いた。

雲雀から釘を刺されていることもあるし、綱吉はもうこの二人に関しては、長い目で見て余計な口出しはしないでおこうと決めていた。
アラウディは一度勘違いすると、信じられないくらい明後日の方向に暴走するし、山本は綱吉もびっくりの超絶鈍感だし、口を挟んで余計に飛んでもないことになったら大変だ。
日本のお屋敷での騒動の数々を思い出して、綱吉はぷるぷると首を振った。

そういえば、あのお見合い騒動のときにアラウディは何故だか、『山本はとても怒っている』と思い込んでいたことを綱吉はふと思い出した。
そういえば自分はそのことを山本に言っただろうか。多分、言ってない気がする。
「う〜ん? でももう随分と前のことだしなぁ。今更な話題かな」
綱吉は勝手にそう結論付けると、その事を頭から追い出してしまった。

この時綱吉が、二人はお互いに盛大な誤解をしまくったままだ……ということに気付いていれば、新たな展開があったかもしれない。
しかし綱吉はこの件はそれっきり忘れてしまったので、運命の神は山本とアラウディをもうしばらくこのままにしておくことにしたらしかった。

「デーチモは傍観者に徹することにしたのだな。といっても、それは以前からだったよな気がするが」
綱吉の横に優雅に腰を掛けていたジョットが、これまた優雅な仕草でビーフシチューの壺焼きにスプーンを入れながら言った。
「何言ってんだ。俺らだって素敵な美人ちゃんの恋の行く末を見届けてやろうって決めたばっかじゃねーか」
その隣で、ヴィートが口を開いた。こちらも実にスマートにビーフシチューを口に運んでいる。

そう、綱吉は何故だかお隣のお庭で、『ねこ』仲間とお食事の真っ最中なのだった。

同じものを食しているはずなのに、この二人の無駄にきらびやかな印象は何なんだろう、と綱吉は思った。
自分は平平凡凡な庶民で良かったなぁ、と思いつつ、はたから見れば立派に綱吉も二人の仲間入りをしているとは露程も思っていないのが彼らしいところだった。

「それでは腹もくちくなったし、第7回『ねこ』仲間会議を始めるとするか」
「プリーモちょっと待ったぁ! いつの間に7回目ってことになってるんですか。今までオレたち集まって話し合いなんてしたこと無いですよね?」
「いやそれは気分の問題だ。なんとなくその方が重みがあって素晴らしいではないか」
「っていうか、いつの間に会議ってことになったんですか。せっかくオレはここでのんびり息抜きしてたのに、勝手にお二人がやってきて居座っただけじゃないですか〜」
綱吉は情けない声をあげた。どうして自分は静かに休むこともできないのだろう。
「居座ったとは人聞きの悪い事言うねぇ、ツナヨシくん。そんなつれないそぶりをすると、構ってあげたくなるのが男のサガってもんだぜ」
ちっちっち、とヴィートがウインクをしながら大人の色気全開で指を振る。さすがプレイボーイと名高いイタリア男(しかもあのディーノの血縁)なだけのことはある。
「あー、そういうのは間に合ってますので他を当たってください」
イタリアに来てから女性と間違われてナンパばかりされていた綱吉は、少しも動じずにさらりと流してしまった。
「まぁ、冗談だよ冗談。ぶっちゃけ、俺らの目当てはアレだし」
ヴィートは快活に笑って視線を左手に向けた。

その先にはふわふわ揺れるしっぽとおみみの可愛い小さな仔『ねこ』の姿があった。
芝生の上に座っている山本に纏わりついて遊んでいる。
時たま鈴を転がすような笑い声が聞こえてきて、機嫌良く過ごしているようだ。
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