小説その3

□綱吉くんの平凡な休日
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「いつまで寝てやがる。起きろ、ダメツナ!」
ガンガンと耳元で物凄い音がして、うとうととまどろんでいた綱吉は仰天して飛び起きた。
目の前に鍋のフタを麺棒で叩いている赤ん坊の姿が映る。
「なっ、なにすんだよ、リボーン」
耳を押さえて叫ぶと、リボーンはしれっとした表情で「さっさと起きないからだ、ダメツナめ」と言い捨てて、するりと目の前から消えてしまった。

「う〜〜〜、リボーンのやつ、たまの休みなんだからもっと寝かせろっての」
ぶつぶつと呟きながら綱吉はベッドから起き上がると、のろのろと身支度を始めた。
確か、以前にもこんなことがあったような気がする。
あの時はいきなり家族全員が旅行に出かけてしまい、平日にひとり取り残されるという憂き目にあったのだ。
「工事するからトイレと風呂も使えない、とか飛んでもないことを言われたんだよなぁ…」
綱吉は遠い目をして呟いた。
「ママンが説明してる時に、ゲームに夢中で生返事してたお前が悪い」
いつの間にか戻ってきたリボーンにそう言われ、綱吉はむうっと口を尖らせた。
「そんなこと言われたってさぁ…」
「さっさと起きてさっさと朝飯を食ってくれ。お前がぐずぐずしてるとママンの支度が遅れちまう」
その言葉に、綱吉は嫌な予感を覚えた。
「…ってことは、ひょっとして、またお前ら、オレを置いてどっか出かけるのか!?」
「ひょっとしなくてもそうだゾ。今回は泊まりで周遊のモニターツアーだ。ちょうどお前を除いた全員分の旅行代が無料だってことなので、お前には留守番をしてもらうことにした」
「ちょっと何だよそれー!? オレの意思に関係なく決定なのかよ」
中学生ともなれば、家族旅行についていきたいとも思わないのだが、それでも一切の相談なしに決められるのは癪に障る。
「霜降り和牛のすき焼き食べ放題、鮮魚の活け造り船盛付きに、客室露天風呂付の離れに泊まる豪華絢爛な休日のひとときコースだゾ。お土産も奮ってて、地元で消費されて出回らないといわれている幻の米おひとりさま1キロずつ。これはもらってこない手は無いだろう」
「怪しい、怪しすぎるよー! 普通モニターツアーって当事者一人だけ無料で、同伴者はお金払ってね♪ …って感じなんじゃないの。それ、騙されてる、絶対に騙されてるよーっ!」
「うるせーな、ダメツナ。世間は広いんだ。グダグダ言ってないで支度を整えて見送りの一つでもしやがれ」
リボーンはそう捨て台詞を吐くと、またするりと消えてしまった。

しぶしぶと起きだした綱吉は、のろのろと服を身に着けるとため息をつきながら下の階へ下りて行った。
「リボーンのやつ、それならそれで前もって言っててくれればいいのに。そうしたら獄寺くんか山本のところにでも泊まりで遊びに行く約束したのになぁ」
そう呟いてはみたものの、確か今日は山本は練習試合、獄寺は野暮用(詳しくは敢えて聞かなかった)があると言っていた。今日いきなり泊めてくれは相手も迷惑だろう。
「う〜ん、夕方にでも連絡して、うちに泊まりで遊びに来てもらうのはどうかな」
それがいい、と綱吉は勝手に決めて、鼻歌まじりに台所に入ろうとした。
「母さ〜ん、今日オレんちでお泊り会してもい……」
そこで綱吉はあんぐりと口を開けたまま固まってしまった。
なぜなら、てっきり母親がいると思っていた台所で、当然のような顔をして雲雀が朝食の支度をしていたからだ。

「やぁ」
雲雀は立ち尽くす綱吉に向かってあっさりした挨拶を送ると、鷹揚な手つきでテーブルに付くように促した。
「あ…ああぁあうあう」
どうして雲雀が沢田家の朝の食卓でオムレツなんぞを作っているのか。
何がどうなっているのかさっぱりわからない。
金魚のように口をぱくぱくさせている綱吉を見て、雲雀はくすりと笑みを浮かべた。
「それが朝の挨拶? 変な子」
言われて綱吉ははっと我に返った。
びしりと姿勢を正して挨拶の言葉を口にする。
「お、お、お、お、おはようございます、ヒバリさん」
今の状況がさっぱりわからないものの、雲雀の機嫌を損ねて咬み殺されるのは真っ平ごめんだった。
「お、が妙に多いけど、まぁいいや」
早く座りなよ、と促されるままに綱吉はすとんと椅子に座った。
きつね色にこんがりと焼けたパンケーキ、カリカリのベーコン、ふわふわとろとろの黄色いオムレツ、横に添えられた温野菜とポテトサラダ。
思わず綱吉の喉がごくりと鳴る。
「冷めると美味しくないから、早く食べなよ」
そう言われて、慌てて綱吉は「いただきます」と手を合わせた。
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