小説その3

□こっそり『ねこ』裏話 〜雲雀さまは苦労性? その2〜
1ページ/16ページ

こっそり『ねこ』裏話 〜雲雀さまは苦労性?〜のつづき。

『ねこ』の雲雀さまと白蘭の馴れ初めっぽい話なので、生ぬるいですが二人がいちゃいちゃする予定。
苦手な方はご注意ください。








それから何度も同じようなことを繰り返した。
今日こそは…と嬉々として戦いを挑む僕を、男はあっさりとかわしてするりと逃げてしまう。
ムカつく。ほんっとうに、ムカつく。
どうしてあんなにあっさりしてるの。まるで…僕のことなんか、全然興味無いみたいじゃない。


屋敷に帰ってソファーの上でクッションに顔を埋めて不貞腐れていたら、草壁がしりきと咳払いしながら近づいてきた。
「エヘン、オホン。えーとですね、恭さん。えらくご機嫌斜めのようですが、どうなさいました?」
「……別に」
僕はツンと顎を反らして澄ましてみたけれど、しっぽが苛々とソファーを叩いていたから、機嫌が悪いのは草壁には丸分かりだったのだろう。
毛づくろい用のブラシを手にして、ねこみみや髪を梳いてくれだした。
「最近はご自分で毛づくろいされるようになりましたから、こうしてお世話させて頂くのも久々ですね」
妙にしみじみした声色で言われると、なんだかくすぐったく感じて返答に困った。

草壁はしばらくそうやって僕のねこみみの後ろを撫でていたが、またわざとらしい咳払いを始めた。
「エヘン、オホン。あのですね。最近よくお出かけになられているようですが…」
「まぁ、そうだね」
「そのー、オホン。特定の方をよく、追いかけておられるようですが…」
「うん」
あの男と思う存分戦ったら、さぞかし楽しいだろうな。
そう思いながらこっくりと頷くと、何故か草壁は「……ああ、やっぱりそうですか!」と天を仰ぎながらがっくりした声を上げた。
「この間はアディさんに『パートナーを探す』とおっしゃったそうですし、そうですか、そうなんですか……もうそんなお年頃なんですかねぇ…。ついこの間まで、よちよち歩きで『てつー、だっこさせてあげてもいいよ』なんて甘えてこられていた貴方がもうそんな時期に…!」

そういえば、アラウディにそんな話もしたっけ。今はあの男と戦ってみたい気持ちでいっぱいだったから、すっかり忘れてたや。
でも、それと草壁の思い出話と一体どういう関係が?
……さっぱり意味がわからない。

僕が首を傾げていると、草壁は妙な目つきをしながらまた咳払いをした。
「えーと、エヘン。あのですね、再度確認なんですが…オホン、祖父が呼んだ金髪碧眼の家庭教師ではなくて、あの白髪の目のつり上がった留学生を追いかけておられるんですよね?」
「そうだけど…」
僕は返事をしながら、はっと顔を上げた。『白髪の目のつり上がった留学生』…って。
「哲、ひょっとしてあの男のこと、知ってるの?」
「あ、はい。存じ上げておりますよ。うちの大学の交換留学生ですからね。学年は向こうが上ですが、特別講師の合同ゼミで一緒になりますのでよく見かけます」
灯台下暗しとはこのことだろうか。まさか草壁と同じ大学だったなんて…。
あても無く町をうろつくより、ずっと有益な情報をあっさり貰えてしまった。

「ふぅん、そうなんだ」
あえて興味無さそうに振舞ってみたけれど、草壁にはお見通しだったようで、一枚のメモ用紙を手渡された。
「はい、これが彼の住所ですよ」
「…哲、どうして?」
「どうせ遅かれ早かれわかることですし。語学のレッスンをさぼってまで、あんなに治安の宜しくない場所をうろつかれると心配ですからね。ディーノさんが戻ってこられたら、きちんとレッスンを受けて差し上げてくださいよ」

もろ手を挙げて賛成というわけではないけれど、少なくとも僕があの男を追いかけるのを邪魔する気はないようだ。
『まだ早いとは思いますけどねっ』とか『一度、直談判してきましょうかね…』とか、ぶつぶつとよく分からないことを呟いてはいたけれど。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ