小説

□パンダって愛らしいけど獰猛なんです
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 うららかな昼下がり、ボンゴレ日本支部の執務室では、優雅なお茶会が繰り広げられていた。
 少し濃い目にいれた紅茶に暖めたミルクをたっぷりと注いで、骸は満足そうに一息ついた。

「それで、ボンゴレ。わざわざ仕事の終わった僕を呼び留めて、相談というのは何ですか」

 ボンゴレの若きボス候補こと沢田綱吉は、骸の目の前にガトーショコラの皿を置きながら緊張した顔を上げた。

「相談っていうよりもさぁ、お願いなんだけどね。ほら、オレももうすぐ大学2年になるじゃない?」
「あぁ、まあ、そうですね。中学のときは想像もつきませんでしたが、貴方がちゃんと高校を卒業して大学にいけるなんてねぇ」

 留年や浪人しなかったのが奇跡ですよ、と骸が言うと、綱吉はぷぅっと頬を膨らませた。

「何だよその言い方。オレだって死ぬ気になれば何だってやってみせるよ」
「何だって…ですか。まあ頭の出来はともかく、身体のほうはちゃんと成長…してると思いますよ?」

 骸は目の前のソファに腰掛けた綱吉の姿をじっと眺めた。
 出会ったばかりのときにはオドオドして人の後ろに埋もれていたような印象の薄い子供だったが(ハイパー状態を除く)、高校、大学と進むにつれ、彼は劇的に変わっていった。

 そう、まるでさなぎが蝶に羽化するように。

 いつも下を向いていた瞳はしっかりと前を見据え、意志の強さを反映してきらきらと輝いている。きめ細やかな肌は透けるように白く、ほっそりとした身体はどこか中性的な印象をかもし出し、心持ち長めに伸ばされた髪は蜂蜜を蕩かしたかのような色合いを放っている。
 童顔は相変わらずで年よりも若く見られてしまうのは変わらないが、やはり血の成せる業なのか―――人を無意識に従わせるようなカリスマオーラが匂い立つような華を醸し出していた。
 大学では引く手あまたの優雅な生活を送っているのか、それとも自分よりも綺麗だということで女たちから嫉妬されているのかどちらでしょう…と骸は一人ごちた。

「何だよ、それは嫌味か。あーもっと身長欲しいよ!筋肉も欲しいよ!」
 ただこの成長は綱吉本人にはあまり御気に召さなかったようだ。

「筋肉ムキムキの大男になる相談を僕にされても困るのですが」
「ち、ちがうちがう!それはもう諦めてるから!相談は別のことだから!」
 その年ですでに諦めているのか…と、骸はちょっと彼のことが不憫になった。

「その。オレってまださ―――――ど、童貞なんだよ!」
「―――――はぁ、左様ですか。」

 それ以外、答えようがない。

 こくり、と紅茶を一口含んだ骸を前に、綱吉は立て板に水の勢いで必死にしゃべりだした。

「ほら、オレだってやっぱ男として思うところが色々あるわけで…。それに曲がりなりにもボス候補がいつまでも、ど、童貞ってマズいんじゃないかって思うんだよ。だからオレもさ、今まで忙しくてそれどころじゃなかったけどさ、最近落ち着いてきたし。そろそろ大人への階段をあがりたいかなーなんて思うんだ!」

「………はぁ、まあ、いつ階段を駆け上がろうが駆け下りようが、いっそ転がり落ちようが個人の自由ですからね。どうぞお好きなように。」

「オレ、この休みに賭けようと思ってるんだ!それで骸にお願いをがあるんだけど!!」
 力こぶしをつくって叫んだ綱吉に、骸は嫌そうに顔をしかめた。

「別に貴方がいつセックスしようが僕の感知するところではありませんがね、ボンゴレ」

「セッ……!真顔で言うなよ!もー、恥ずかしいヤツだな!!」
 きゃーと頬を染めた綱吉は、可愛らしく口を尖らせた。

「何で僕にそんなことを相談するんですか。女の斡旋ならお断りです。」
「違うって!もう…早とちりなやつだな、骸は。初体験の相手はちゃんとヒバリさんに頼んだから!」

―――ヒバリさん、オッケーしてくれたから相手は大丈夫なの!



 それを聞いた瞬間、ぶひゅーっと盛大に紅茶を噴出した骸は、全く持って悪くないと思われる。
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