小説

□メビウスの片思い
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僕は今日、彼に好きだと告げた。
沢田は僕の告白に困ったような顔をしてヘラリと笑うと
「オレ、好きな人がいるんです。…だから中学生のヒバリさんとはお付き合いできません」
そう言って、ごめんなさい。と頭を下げる彼は、びくびくと僕の様子を伺っている。

「……そう、今の僕とは付き合えないんだね。わかった。それじゃあね」
僕はそれだけ言うとひらひらを手を振りながら立ち去った。
彼はちょっと驚いたように僕を見送っていた。きっと断ったから殴られるとでも思っていたのだろう。

最初から答えは分かっていた。
予想通りの答えに、心はさざなみも立たず静かなものだ。

だって僕は、彼が好きな人を知っていたから―――。

馬鹿な子。本当に愚かで憎らしくて、可愛い馬鹿な子だ。
心は平穏なのに、そのはずなのに……どうしてこんなに息が出来ないんだろう。




それからも別に僕と彼の関係は変わることも無く、気まぐれに一緒に戦ってみたり、あるいは気まぐれに敵にまわったり、結果的に彼の手助けをしたりとそんな調子で過ぎていった。


多分沢田は、僕が並盛高校に進学すると思っていたのだろう。
日本の高校には行かない、というと大きな瞳を更にこぼれんばかりに見開いて絶句していた。

実は僕は中学に入る前に、すでに海外でいわゆる飛び級制度というやつを使い、高校を卒業している。
日本の中学にいたのは単に義務教育だったからだ。
大人たちも、既に高校課程を終業してしまっている僕の扱いに困っていたらしい。
だから一日中応接室に篭ろうが、テストを全く受けなかろうが、好きなようにさせてくれていたのだ。

とりあえず4年間で少なくとも海外で2つの大学を卒業し、且つ財団設立の足がかりを作るのが当面の目標だ。
日本での下準備は既に終わっている。あとは部下に任せておいても問題は無い。
海外のほうはそういうわけにも行かず、僕自らが切り込み隊長を勤めねばならないだろう。
学歴というのは不思議なもので、内容いかんに寄っては相手の態度がコロっと変わったりする。
なかなか進まなかった商談が、相手と母校が同じと分かった途端に嘘のように順調にすすんだ、などという話は実際にそこらかしこに転がっているものだ。

「きっともう会うことも無いよ。じゃあね、沢田綱吉」
(そう、当分はね)
そう言って後ろ向きに手をひらひら振ると
「・・・ヒバリさんっ、高校行かないって、じゃあ他に何を・・・」
泣き出しそうな声が聞こえた。
僕が中卒のままどこかに放浪するとでも思ったらしい。
「別になんでもいいだろ、君に関係ない」
「せめて、連絡先・・・」
「何のために?くだらない」

僕のこと、好きでも無いくせに何故?
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