小説

□メビウスの片思い U
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メビウスの片思いの続きです。






告白は突然だった。

「きみが、すきだよ。」
今日はいい天気だね。みたいになんでもない風にさらりと告げられた言葉。
オレは突然なんなんだろうとぽかんと彼の顔を見上げた。
ヒバリさんはオレのほうなんて見向きもしないで、屋上から遠くを見つめていた。


今でも充分馬鹿なんだけど、当時のオレはそれに輪をかけて馬鹿だった。

「オレ、好きな人がいるんです。…だから中学生のヒバリさんとはお付き合いできません」
ほとんど何も考えず発作的にそう言って、ごめんなさい。と頭を下げながら、身体はびくびく、トンファーが飛んでくるのに怯えていた。
だけどヒバリさんはあっさりしたもので、そう、じゃあね。といってそのまますたすたと去っていってしまった。


屋上に残されたオレは、しばらくぼけーっと突っ立っていた。
「あれ…?今の、なんだったんだろ…?………ん?…あれ?」

ヒバリさんが「すきだよ。」って言って。
オレは「好きな人がいるんで」って言って。

オレって、いま、ヒバリさんの告白を――断った…?んだよ、ね?

あれ?
でもオレの好きな人って―――ヒバリさんじゃ、なかったっけ???





その後も、別にヒバリさんは態度を変えることも無く淡々としていたので、オレはあの屋上での出来事は白昼夢だったのかなと思い始めていた。


そもそも最近よく夢を見る。未来に行ったときの、大人のヒバリさんの夢だ。

ふわふわ、ゆらゆら。

夢の中のあの人は、いつも地下世界のお屋敷の中で優雅にお茶を飲みながら微笑んでいた。
あの人は今もあの静かで幻想的な場所で、浮世離れした生活を送っているのだろうか。


オレは本当に馬鹿で子供だったから、『すき』という感覚がまるで分かっていなかった。
だから大人のヒバリさんに「小さなつなよしは可愛いね。うん、きみのことはすきだよ。」って言われたときに、その言葉に夢中になってしまった。
冷たいけど綺麗で強くて、そして分かりにくいけど優しい人。
あの人は本当に厳しくオレに接していたくせに、ふいに信じられないくらい優しい仕草で俺を惑わした。
今からおもうと、からかわれていたのか、単なる気まぐれだったんだと思う。

だけどそれは未来から帰ってきた後もじわじわと毒のように全身に回り、いつのまにかオレの感覚をマヒさせていた。
ある日魔法のように大人になったヒバリさんが現れて、オレに「すきだよ。」と囁いてくれるのだ。

まさか今の中学生のヒバリさんがオレのことを「すきだよ。」なんて言い出すはずがない…と、思い込んでいた。
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