小説

□お勉強しましょ!
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ぼんやりと窓の外を眺めていたら、ごつんと頭に拳骨を落とされた。
「ふぎゃっ、痛い!!」
思わず恨みがましげに見上げたら、怖い顔をしたヒバリさんに逆に睨まれてしまった。
「外眺めている時間あるの?終わらないと放課後も居残りだよ」
「ごっごめんなさい!でも分からなくて…それでつい」
「分からない所はすぐ聞けっていってるだろ」
「うう…すいません」
分からないところだらけなんです。むしろ全部分からないんです…などと言ったら更に殴られそうなのでぐっと我慢する。

「あのね、きみが頭弱いのは知ってるから。どうせほとんど分からないんだろ?」
「………はい、その通りです…」
「並高行きたいんだろ。だったらちゃんと分からないことは分からないって言いな」
そう言ったあと、ヒバリさんは一つ一つの問題を丁寧に教えてくれた。
それでもオレが微妙な顔をしたのがわかったのか、最初からまたゆっくりと繰り返してくれる。

正直この人がこんなに辛抱強いと思っていなかった。
オレの面倒なんか、すぐ放り出すと思っていたのに。





事の起こりは、オレが無謀な進路予定を提出したことだ。

あまりにも自分の学力とかけ離れた進路を希望すると、当然のことながら学校教師に却下される。
100%落ちると分かっている高校を受験させてくれるほど、教師も暇では無いのだ。
「あのな、沢田。まだ2年だとはいってもな、お前のこの学力では並高はとてもとても…。悪いことは言わんからこっちの私立高校にしておけ。なっ」
「でも先生!今から死ぬ気でがんばれば不可能じゃないと思うんです!」
「いや無理だから。先生だってこんな事言いたくないけどな、この前の小テストもほとんど一桁台だっただろ」
「それはそうなんですけど!でもオレも引くに引けない理由があるんです!!」


――並高に合格できなきゃイタリアに連れて行く。それとも中卒で働きにでもでてみるか?


つぶらな瞳で情け容赦のない事を告げてきた、家庭教師の姿が脳裏に浮かぶ。

「お願いです先生!希望出すだけでもなんとか!」
この時期の進路希望で並高を主張しておかなければ、直前になって騒いでもスルーされてしまう確立大だ。
出せなければ確実にオレは中卒のまま工場づとめか、イタリアでマフィアのボスかの2択を迫られてしまう。

はぁー。先生は大きなため息をついてこめかみを押さえた。
「まぁお前がそこまで食い下がるなら、自分で交渉してみるか?」
「…へ?自分で交渉?」
「最終的にこの書類が通るかどうかは、風紀の管轄になるからな。自分で風紀委員長のところにいって直談判してこい」
「…えぇ?なんでふーき……」
「『馬鹿すぎる生徒を野に放つのは風紀の乱れ』だったかなあ?先生も詳しく覚えて無いけど、とりあえず本気で受験したいなら応接室に行ってきなさい」
はい、と書類を渡されてオレは固まった。
のっぴきならない状況に追い込まれたというのは、正にこのことなんだろう。
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