小説

□『ねこ』じゃないもんっ! U (1日目)
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なんだかどんよりとした雰囲気になってしまったお茶の場でしたが、その時ぱたぱたと部下の一人が慌てて走ってきました。
「たったいへんですっ十代目ー!」
「…どうしたの?何かあった?」
綱吉は気持ちを切り替えて、ボンゴレボス十代目としてはきはきと返事をしました。
「そっそれが…アポイントメントは無いのですが、国際警察の方が、十代目にお会いしたいと尋ねてこられていて…。身元ははっきり確認しております、怪しいものではございません。」
どうなさいましょう?と不安げに指示を仰ぐ部下に、綱吉は軽く頷きました。
「わかった。すぐ行くから、リボーンにも話通しておいて。」
「はいっ、了解しました。」

走っていく部下を見送って、綱吉は山本と獄寺のほうを向きました。
「なんだろう? この間ディーノさんが言っていた麻薬ルートの話かなあ?」
「そうかもしれませんね。こちらにも協力を要請しにきたのかもしれません。早速資料をそろえてきますね!」
「ははー。なんか良くわかんねーけど、用心棒がわりに側についてるのなー。」
二人は素早く頷くと、それぞれ立ち上がりました。
綱吉も席を立つと、執務室のほうへと移動しました。





「どうもお待たせしました、沢田綱吉です。」
綱吉はそういって目の前の若い青年と握手を交わしました。

「アラウディ」と自分の名を短く答えた青年を見て、綱吉はちょっと首を傾げました。プラチナブロンドの髪と淡い空色の瞳には見覚えは無いのですが、どこと無く全体の雰囲気というか、面影が、初めて会った気がしないのです。

「あの…どこかで、お会いしましたっけ?」
「ううん?」
「あっすいません、何でだろう? どこかでお見かけしたような気がしたもので…。」
アラウディはそれには答えずに瞳を細めて綱吉を見返すと、ゆっくりと頷きました。
「ふぅん。あなたがボンゴレ十代目の若きボス。色々と噂だけは聞いているよ。思ったよりも若いんだね。………そして、婦女子暴行、強制わいせつの疑いが掛かってる被疑者だね。ちょっと任意同行願いたいんだけど?」


ぽかーんと綱吉は口を開けて固まりました。


同時に、ドバッターンとものすごい音がして、獄寺が座っていた椅子から転がり落ちました。
「なっなななっ…! 何をいいやがる貴様ーっ!? 十代目に限ってそそそ、そんなことーっ!」
山本もショックのあまり笑った顔のままコキーンと凍りついています。

綱吉の家庭教師兼専属ヒットマンのリボーンが、口の端をひくひくさせながら叫びました。
「てめー、ダメツナ!今度は一体全体どこで何をやらかしてきたんだっ!? 屋敷を抜け出して小学校でハダカ踊りでもやらかしてきたのか!? それとも女装して女子高の更衣室にでも忍びこんだのかっ!?」
「いいいいいいやいや、落ち着いてリボーン!オレ、な、なにもしてないよおおお! そもそも『今度は』って言われるような前科、なんにも無いんだからねーっ!」
「嘘つきやがれっこのダメツナ!てめー養老院の慰問会の出し物に、へなちょこといっしょにハレンチ極まりない格好で乱入しやがったくせに!忘れたとは言わさねーぞ!」
「あっあれはディーノさんが『出し物の前に、景気づけに一杯やってからいくぞー!』っていって、ついついちょっとだけお酒のんじゃって…その場のノリと勢いでスカート履いてっちゃっただけじゃないか!」
「それのどこが『なんにも無い』なんだっ! 善良な一般市民の老人たちに訴えられなかっただけでもありがたいとおもえ! いくら俺でも、パンチラ寸前のミニスカ履いて踊り狂うあほ弟子二人の面倒なんざ見れるかー!」

「うっうっうっ、反省してます…だから、これ以上他人さんの前で恥ずかしいこと言わないでよ、リボーン…。」
若干驚きの表情と共にじろじろと無遠慮にアラウディに見つめられて、綱吉は両手で顔を覆ってしくしく泣き出しました。

「ふぅん、あなたって一見まともそうで、とても被疑者には見えないと思ってたけど、案外そうでもなかったんだね……。」
「ちがいますっ!オレは無実ですーっ、本当なんです…うっうっうっ。」

「まぁ、こいつはどうしようもない不出来な弟子でダメダメなダメツナだが、だからといって女、子供に暴行したり悪戯したりはしないというか、……そんな根性無いはずだ。言っててなんか情けないが。いったいどこのどいつがそんなでっち上げをしてコイツをハメようとしてやがるのか、興味が湧いてきたぜ…。おい、アラウディとやら。お前、本当に警察関係者か?」
リボーンの問いに、青年はふっと薄く笑みを浮かべました。

「僕は確かに国際諜報捜査官だけれど、今回ここに来たのは実はそれとは関係無いんだ。単にアポイントメント無しで会おうとおもったら、この肩書きはけっこう効くからね。それでちょっと使わせてもらっただけ。僕が来たのは身内に頼まれたから、だよ。―――風紀財団って、知ってるかい?」
「風紀財団―――日本の巨大地下組織だな。なかなか正体不明で歩み寄るきっかけが無くて、こちらもどうしようか対処に困っていた組織だったはずだが。」
「僕の身内がその組織にいてね。どうやらここにいるボンゴレの十代目に、可愛がっている子供を『たぶらかされた』らしくて、真偽の程を確かめてきて欲しいって私的に頼まれたんだよ。だから国際警察は本当は関係無いんだ。当然、さっきの罪状も適当だよ。」
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