小説

□『ねこ』じゃないもんっ! U (2日目・朝)
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「つーなーよーしークーン。ちょっといいかな〜〜〜〜〜。」

額にいくつもの青筋を立ててひくひく口元を歪ませる白蘭を見て、綱吉の背中にたらりと冷や汗が流れました。

「び、びゃくらん、おおおおはよう…。」
「なっなんだテメー、十代目に何の用だよっ。」
かばう様に立ちふさがった獄寺を綺麗に無視して、白蘭は綱吉の元に詰め寄りました。
「これは〜〜、一体〜〜、何なのかなっ!?」
わなわなと(多分怒りで)震える手には、何枚もの写真が握られています。
突き出された写真を見た綱吉は、ひいいいっと声にならない悲鳴を上げました。


「何!? 写真がどうかしたっすか? 何なんだいったい…………って、うぎゃー!? な、なんじゃこりゃあああ!」
とっさに横から覗き込んでしまった獄寺は、写真を見るなり顔面蒼白になって絶叫を上げました。


そこには、まるで布団の上で抱き合っているかのような綱吉とアラウディ――だとか、
ひしっと抱き合って頬を寄せ合う綱吉と子供雲雀――だとか、
上からの角度でどアップで撮られた「おやすみのちゅー」をする綱吉と子供雲雀――だとかが写っています。

どれも綱吉がどちらかと絡んでいる写真ばかりで、これでは何だか、まるで綱吉があっちにもこっちにも手を出しまくっているようです。

確かに昨日、アラウディが『鳥の足に特殊カメラがついている』と言ってはいましたが、特に操作している様子も無かったので、そのことはすっかり綱吉の頭からは抜け落ちていたのでした。

それにしても、こんなに都合の悪いシーンばかり図ったようにバッチリ撮られているとは、運が悪いとしか言いようがありません。


「せっかく丁重にもてなしたっていうのに、その礼がこの仕打ち!? 僕の可愛い恭ちゃんだけじゃなくて、アディちゃんまで部屋に引っ張り込んで………。しかも!!」
白蘭は更に写真を何枚も突き出しました。

昨日の山本とアラウディのキスシーンが、まるでコマ送りのように何枚も写真に収められています。
キスが終わったあとの情景も全て撮られているようで、アラウディの泣きじゃくる姿もばっちり写っていました。
後ろに呆けている綱吉が小さく写っているのですが、止めるどころか逆に山本をけしかけているかのようにも見えます。


「ぐはっ……!!」
哀れその写真を直視してしまった獄寺は、あまりの衝撃に口から泡を吹いて白目を剥いてしまいました。


「二股かけた挙句、口封じのために自分の部下にアディちゃんを襲わせてこんなに泣かせるなんて、一体どんな鬼畜の所業なのさ!? 昨日の夕食でこの男がアディちゃんに梅酒勧めまくってたのも、良い様に弄ぶつもりだったからなんだね!?」

どうやら白蘭の頭の中では勝手にストーリーが出来上がってしまっているようです。

憤怒の形相で詰め寄る白蘭に、綱吉は必死になってぷるぷる首を振りました。
「ちっちがいます、ご、誤解なんですっ! け、決して無理やり引っ張り込んだとか…いや、キスは山本が無理やりしちゃったけど、いや、そんな襲わせたとかじゃなくってですね、あのあの、も、もう混乱しちゃって何がなんだか!」
「朝起きてびっくり仰天したのなんのって、昨晩自動受信したらしくって、プリンターの周りにこの写真が散乱してたときの僕の驚きっぷり、わかる?! こんなの雲雀ちゃんに見つかったらどうなっちゃうか…! そのへんわかってるの?! ねえ、綱吉クン!」
がくがくと肩を掴んで揺さぶられて、綱吉は必死で言葉を捜しました。
「いやっ、それに関してはオオオオレも大層びっくりしたというかですねっ、本当どうすればいいのか、大変ですね、申し訳なく……! とにかく、ごっごめんなさいーっ!!」

興奮して叫びあう二人の側で、獄寺は足元にしゃがみこんでぶつぶつと「みみとしっぽがくーるくる、あっちもこっちもいっぱいこっぱい……アイツも『ねこ』っすか十代目ぇぇぇ!」などと呟いています。どうも一時的に錯乱してしまっているようです。
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