小説

□だって『ねこ』なんだもんっ!
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『ねこ』じゃないもんっ!シリーズの番外編です。
本編が終わった後の後日談ぽい。アラウディの『飼い主』として一緒に暮らし始めたやまもっちゃん視点のお話。
山本とアラウディしか出てきません。



◆◆◆


「べ…別に、きみのことなんか、なんとも思ってないんだからねっ!」
つんとそっぽを向いてそう言う彼の頬は、だけど可愛らしくうっすらと朱に染まっている。

何かにつけてすぐ憎まれ口を叩いて、きつい眼差しで俺を睨みつけてくる…その表情は綺麗でどこか近寄りがたくて。
なのにふいにとてもあどけない表情をする――可愛い俺の『ねこ』さん、アラウディ。

その日、俺は彼の――『飼い主』に、なった。







ベッドに寝転がってサイドランプの明かりで本を読んでいた俺は、聞こえてくる物音に耳を澄ませた。

覚束なげに歩く足音がゆっくりと近づいてくる。時々立ち止まってはまたちょっと進んで、を繰り返すそれからは、どことなく不安そうな気配が漂ってきた。

俺は起き上がってかちゃ、と寝室のドアを開けて廊下を覗き込んだ。
そこには予想どおり、アラウディが寝間着代わりの着物姿で佇んでいた。金色のねこみみが不安げにぺたんと倒され、ふかふかのしっぽはぱたぱたと忙しなく揺れている。涙を滲ませて俺の顔を見上げているその姿は、どうしようもなく可愛かった。

「――どうしたー? アラウディ?」
ぐすぐす鼻を啜りながら震えているアラウディに手を差し伸べてやれば、ぎゅうっと抱きついてきた。
ぽんぽんと背中をゆっくり叩いて落ち着かせてやる。
「なんだ? あんた、また寂しくなっちまったのか、ん?」

彼は「きゅう」だか「にゃあ」だか、ほとんど聞き取れないような小さな声を上げて、更にぎゅうっとしがみついてきた。

顔を胸にこすり付けてきて、ほっと安堵のため息を漏らしながら「…やまもと……。」なんて俺の名前を呟かれてみろ。
…すっげー庇護欲をそそるんですけど。可愛くってたまんないんですけど。

俺はほとんど夢うつつのまま震えているアラウディをひょいと抱き上げると、ゆっくりと二階の彼の部屋へと向かった。







ねこみみとしっぽがついている亜人種を総称してウェアキャット(通称『ねこ』)と呼んでいる。
その殆どは愛玩用に開発された子供の姿をした『ねこ』で、一般家庭にはまだまだ高価なものだが、ちらほらと見かけるようにはなっていた。
反面、同じような外見をしながら、愛玩用とは別種の生き物である純血の『ねこ』――どちらも呼び名が同じため、ややこしい――は、個体数も少なく、存在自体一生お目にかかることも無いくらい貴重種で珍重されている生き物だ。

それが――俺が飼い主になった『ねこ』さん、アラウディ、だった。



アラウディは最初出会ったときはねこみみも尻尾も出ておらず、しかもちゃんと仕事を持っていてごく普通の成人男性にみえた。
俺はたいして知識も無く、また興味も無かったから、街中でよく見かける子供姿の愛玩用『ねこ』以外に純血の『ねこ』が存在するなんて欠片も知らなくて。

ただ、なんて綺麗な人なんだろう――と、第一印象はそれだった。
冴え冴えとした光を放つ空色の瞳、月の光を練り上げたような見事なプラチナブロンド。
その髪にどうしても触ってみたくてたまらなくなって、纏わり付いたらとても嫌そうに顔をしかめられた。

邪険にされても、嫌がられても、構ってもらえるだけで俺はとても嬉しくて。
何故そんな気持ちになるのはまでは深く考えることもせずに、とにかく姿をみればいそいそと側に寄っていった。
彼はとてもツンケンと俺にきつく当ってきたけれど、日本の伝統文化にとても興味があったみたいで、俺がペーパーナプキンで鶴を折って渡してやると子供みたいに瞳をまんまるにして魅入っていた。

その表情がなんともあどけなくて、可愛くみえてぎゅってしたくてたまらなくなったっけ。

そのあとひょんなことから、彼が貴重種の『ねこ』であること、見かけよりもずっと幼いこと――なんかを知ったわけなんだけれど、その時にはすでに俺とアラウディの縁は切っても切れないところまできていたのだ。



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