小説

□だって『ねこ』なんだもんっ!
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二階のキングサイズのダブルベッドにもぐりこんでアラウディを抱きしめなおすと、彼は至極満足げに喉を鳴らしながら擦り寄ってきた。
俺の左肩にちょこんと頭を預けて、ぎゅっと左手にしがみついてくる。
額に張り付いた絹糸のような髪をかきあげてやると、とろんとした瞳が満足そうに細められた。
背中を一定のリズムで撫でてやっていると、くあ、と可愛い欠伸をひとつ漏らしてそのまますうっと寝入ってしまった。



普段のつんと澄ましてどことなく人を小馬鹿にしたような態度からは、全く想像できないくらい可愛らしいこの夜の一連の行動は、しかし彼自身はほとんど覚えていないらしい。

初めて俺のシングルベッドに潜りこまれたときには、そりゃあ驚いたもんだ。

しかし狭いシングルベッドに大の大人二人で寝るのはとてもきつい。仕方なく俺はアラウディを抱きかかえて、彼が占領しているキングサイズのダブルベッドに移動したのだが…。


翌朝目が覚めて、俺に抱きしめられているのを発見したお姫様は「なんなの、ずうずうしい! 僕のベッドに潜り込んでくるなんて、躾がなってないよ! まったく図体がデカイだけのぐうたらな男なんだから!」と、非常にご立腹なされて、俺は枕でばしばし叩かれた。

「だって寒かったしさ。独りだと俺、凍えて死んじゃいそうだったのな。だからごめんなー、許して?」
と、いかにも従順そうに頭を垂れてみたら、うっすらと頬を染めてぷいっと顔を背けながら「……本当にしょうがないんだからっ。」としぶしぶ許してくれた。



アラウディは今、俺のせいでネコミミとしっぽが自由に仕舞えず、仕事に出ることができない状態が続いている。
子供姿なら(彼は自由にではないが、子供姿に変化できる)愛玩用の『ねこ』として外に連れ出すこともできるのだが、いかんせん仕事場にねこみみしっぽ姿で出勤させるわけにはいかないし、大人の姿の愛玩『ねこ』はいないため、貴重種の純血の『ねこ』だとバレて大騒ぎになってしまう。


ねこみみとしっぽが出たままのアラウディは、かなりの情緒不安定になってしまっていて(繰り返すが俺のせいで!)そのせいでどうしようもなく甘えたな気分になることがあり、そうして夢うつつのまま俺のところに来てしまうらしかった。
(一体俺が何をしでかしてアラウディが情緒不安定に陥ったのかというと……まぁ話すと長いので、またの機会にでも語ることにする。)

彼を観察していて気がついたのだが、どうやら甘えたになったときの行動を100%忘れているわけでは無いらしく、時々何かを思い出しては真っ赤になって身悶えしつつ半泣きになっている。
羞恥に打ち震えながら悶絶するその姿は、それはそれは大層可愛らしいのだが、敢えて見て見ぬフリをさせてもらっている。
多分これで指摘なぞしてしまったら、恥ずかしさのあまり何を仕出かすかわからないからだ。



彼の元保護者たちは、口をそろえて「まぁ日にち薬というか、おいおい落ち着いてきたら元通り自由にお耳としっぽを仕舞えるはずだから、それまでは飼い主さんが責任もってお世話してあげてねー?」と言うので、俺も気長に構えようとは思っている。

しかし、彼の休暇も無限ではないし、俺のほうも今はオフシーズンで自主トレさえしていればチームと離れていても支障がないとは言え、その間はこのイタリアでボンゴレの仕事が舞い込んでくることも多く、四六時中アラウディに付き従っているわけにもいかなくなってくるだろう。
現在は事情を知るツナが気を利かせて仕事を回さないようにしてくれているらしいが、なんといってもお隣に住んでいるわけだし、(びっくりしたことにアラウディが住んでいる屋敷は、ボンゴレ屋敷のなんとお隣だったのだ!)親友のツナのためにも、何かあったときにはすぐ駆けつけたい。

だからなるべくならアラウディが普段どおりに戻って、危なっかしくて目を離せない状況からできるだけ早く抜け出せたらなぁ…と思ってはいるのだが。


方法は2つあるらしい。

1つは先ほども言ったとおり「日にち薬」、つまり時が解決してくれる。これは1週間先かもしれないし、半年経ってもダメかもしれないという、忍耐を試されるような方法だ。

もうひとつは、『パートナー』を決める、という方法だ。

通常純血の『ねこ』には、飼い主かパートナーどちらかが付いて、沢山の愛情を『ねこ』に与えてやる役目を負っている。
飼い主とは親がわりのようなものなので代替わりすることもあるのだが、パートナーというのはいわゆる『恋人』というやつで、生涯唯一の存在だ。

アラウディには沢山のパートナー候補がいて、よりどりみどり、両手に花状態なのだが…。

そうそうホイっと簡単に決めるわけにも行かず、またアラウディ自身が『パートナーなんか欲しくない』と、まったくもって消極的なのでなかなかこれが難航している。


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