小説

□『ねこ』じゃないもんっ! U (2日目・昼)
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『ねこ』じゃないもんっ! U (2日目・朝)のつづき





「それでは山本さん、手続きの書類一式をお渡ししておきますので、また目を通しておいてください。」
どさっと百科事典なみの厚さの書類を目の前に積まれて、山本は目を白黒させました。
「すっげー沢山あるのな?」
「この書類の中身は、『ねこ』の飼い主志願者なら知っていて当然のことばかりなんですが、山本さんはかなりイレギュラーな状態で飼い主になられたので…。」
「あー…。了解っす。なるべく早く読んでおきます。」
言葉を濁しつつもずいっと書類を押してくる草壁に、山本は情けなさそうな顔で頷きました。

「あとは外出用の荷物をお渡ししておきますね。子供姿になってしまった以上、飼い主と離すわけにはいきませんので、基本どこにでも連れて行っていただきます。」
「え…? 外出…? じゃあ俺らの実家にも連れてっていいんですか?」
ぱぁっと山本の顔が笑顔になりました。
「この様子じゃ一人置いて行くなんて無理だから、俺はここに残ってツナたちだけ外出してもらおうと思ってたんだけど。」
「大人の姿のままでねこみみしっぽつきでは外出は無理でしたが、子供姿でしたら大丈夫ですよ。どう見ても愛玩『ねこ』にしか見えませんからね。通常こうなったら最低でも半日は元に戻らないので、多分昼間にちょっと外出くらいなら大丈夫なはずです。」
そう言って草壁は、書類の横に一まとめの荷物を置きました。

「子供用の替えの和服一式と、こちらは万が一彼が出先で元の姿に戻ったときのための大人用の和服です。」
「…和服ばっかり? おチビのヒバリが着てたみたいな洋服は無いっすか?」
こほん、と草壁が困ったように咳払いをしました。
「ええとですね。今、彼が身につけておられる和服は特殊な伸縮性の布で出来ていまして、更に少し大きめに作らせていましてですね。そのー、突然元の姿に戻ってしまったときでもなんとか破れずに済むはずなんですね。そりゃ〜つんつるてんにはなるでしょうが、すっぽんぽんよりはかなりマシなんではないかと…。」
「あ、そ、そうだな。すっぽんぽんはちょっとなぁ…。うん、そうっすね…。」
山本は困ったようにがしがしと頭を掻きました。

「余談ですが、大人の『ねこ』用の洋服は基本用意してないので、こちらも和服になります。スーツ姿などでねこみみしっぽつきで外に出ることがまず有り得ないので、しっぽを出せるように特殊カッティングを施した服といえば、家の中で寛ぐ用の和服しか無いんですよ…。」
なるほどそういえば、昨日ねこみみしっぽつきで登場した大人の雲雀は和服姿でしたし、今朝ねこみみしっぽつきで朝食に現れたアラウディも和服を着ておりました。
「色々ありがとうございます、草壁さん。」
山本は右手でアラウディを抱き、左手で書類と荷物を持つと、立ち上がって一礼しました。
「いえいえ、構いませんよ。沢山可愛がってあげてくださいね。」
物腰柔らかな草壁に見送られて、綱吉と山本は部屋を後にしました。



「なんだか色々と大変なことになっちゃったね〜。……あ、山本。荷物ちょっと持つよ。」
「ありがとな〜ツナ。まーでもさ、こんなにちっこくなっちまったらさ、こいつを金にあかせて買おうとしてるお見合い相手も興ざめして帰ってくれんじゃねーかなって、ちょっと期待してるのなー。」
山本はまだ、お見合い相手が脂ぎった好色なハゲ親父だと思っているのかもしれません。
「そ、そうだね〜。そうだったらいいね〜。」
考えたくなくて敢えて思考の隅っこに押しやっている『あの人』がもしお見合い相手だったら…とどきどきしたのですが、実際相手を見たわけでも無いので、口は出さないでおこうと綱吉は曖昧に頷いておきました。



ページジャンプ用目次
★ 5P〜 竹寿司でお昼ごはん
★ 9P〜 綱くん、誘拐される
★14P〜 薔薇の君、登場
★17P〜 山本、ママチャリを漕ぐ
★21P〜 一同、竹寿司と綱吉の実家へ
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