小説

□『ねこ』じゃないもんっ! U (2日目・昼)
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さて、自分たちに割り当てられた部屋へ向かおうとした二人でしたが、廊下に出たところでばったり獄寺に出くわしました。
「何だったんだアレは…。俺は夢でも見ているのか…、それとも昨日の酒がまだ残って……。」
彼は心なしか赤い顔をして、ぶつぶつ意味不明なことを呟きながらうろうろと忙しなく歩き回っております。
「獄寺くん、どうかしたの?」
綱吉が声をかけると、ヒィっと小さな悲鳴を上げて獄寺は飛び上がりました。
「じゅ、十代目! なっ、なななんでもありません! べ、別に盗み聞きしようとおもって廊下をうろうろしてたわけじゃないっす! 何かちょっとでも聞こえてこないかな〜なんて期待したとか、ありませんからっ!! そんでもって妙な子供に絡まれたとか、全然、全く、なんにもありませんから!!」
「……………。獄寺くん、とりあえず一緒に部屋に帰ろうか。」
ぽん、と綱吉は彼の肩に手を置くと、ちょっと哀れみを込めてそう言いました。
「はっはい、分かりました! 外出の準備は一応終わってますんでいつでも出発できますよ。」

そう言いつつ一緒に歩みを始めた獄寺でしたが、山本のほうを見てあれっという顔をしました。
「なんだテメー、その腕の中のガキんちょはどうしたんだ?」
「あー、うん。俺、この子の飼い主だからずっと連れて行くことになったのなー。」
「……………。ハァ? なんでお前が愛玩『ねこ』の飼い主だぁ? 朝からべたべたしてたあのツンデレ美人はどーしたよ?」
獄寺はうさんくさそうな顔をして、山本の腕の中の子供をじろじろと見ています。
アラウディはきゅうっとねこみみを伏せて、嫌そうな顔をして獄寺と反対の方向へと身体を寄せました。とにかく隠れたいと思ったのか、山本の脇の下に頭を突っ込もうとしています。
「お、おいおい、アラウディ。荷物が落ちるからそれは勘弁な〜。」
「な……! アラウディ…だと!?」
獄寺は驚いた顔をして山本と子供の顔を交互に見つめました。

「あ〜、うん。まぁ話せば長くなるけど、この子、アラウディなのな。」
「おま…! お前も白昼夢でもみてんのか? 何ふざけて…!」
「獄寺くん、山本が言ってることは嘘じゃないから。その子、本当にアラウディさんなんだよ。」
「そ、そうなんっすか! いやいや、この獄寺、疑ったりしてませんとも!」
綱吉が優しく諭すように言うと、彼はぴっと姿勢を正してころりと態度を変えました。
その変わり身の早さに内心呆れた綱吉でしたが、扱い易いのでそのまま話を進めました。
「思ったよりも時間かかっちゃったから、先に山本のお家にお邪魔しようと思ってるんだけど。」
「そうそう、親父の話だと今日たまたま店休みらしくってさ。午後から出かけるんだけど、お得意さんから頼まれている折り詰め作るから昼間は店にいるらしくってさ、丁度いいから昼飯食べに来いって言われてるのな。」
「気兼ねなく豪華な握り食い放題…。」
ごくり、と獄寺は溢れる唾を飲み込みました。意地汚い感じですが、綱吉も全く同じ気持ちでした。
イタリアでも寿司は食べれないことも無いのですが、やはり日本に来たからには本場の職人が握る寿司を食べたいと、密かに綱吉も楽しみにしていたのです。

それから部屋で少し相談して、先に竹寿司にお邪魔して昼ごはんを頂いた後、綱吉の実家に寄ることに話がまとまりました。

少々中途半端な時間でしたので、すこし部屋で時間を潰すことにして、3人はそれぞれ思い思いのことをやりだしました。
綱吉はパソコンで仕事の続き、獄寺は隣の部屋になにやらごそごそしています。山本は綱吉の隣で、アラウディを膝に抱いたまま、草壁に渡された書類をぱらぱらと捲っていました。

「ねぇ山本。アラウディさんって、何だかすごく大人しくない?」
ふと仕事の合間に、そう綱吉が声をかけると、山本も「うーん。そうなのなー。」と返事を返してきました。やはり同じように思っていたのかもしれません。
「なんかちっちゃくなっちまってから一言も口聞いてくれないのなー。たま〜ににゃんこの鳴き声みたいなのは上げるんだけどなぁ。」
山本は左手でずっと優しくアラウディの髪を撫で付けてやりながら、ため息をつきました。
「おとなしいというか、人見知りがすごいのかなぁ? 思考回路も子供になっちゃうって言ってたし…。ねぇ山本、アラウディさんさー、大人のときの記憶って残ってるのかなぁ? それとも子供になっちゃったら忘れちゃうのかなぁ? オレのこと覚えてると思う?」
綱吉がそう言って顔を覗き込むと、アラウディは不安そうな瞳で綱吉のほうを見つめたまま、きゅうっと山本のシャツを掴んで身体を縮こませました。
「う〜ん、そこまでは分かんねーのな。ツナ、ちょっと撫で撫でしてやって?」
「え? オレが触ったらアラウディさん、嫌がるんじゃ…。」
「本当に嫌がったらツナにもわかるだろ? そしたら止めてやってくれたらいいのな。外に連れて行くのに、あんまり人見知り過ぎても困るからさぁ。」

そう言われればそうなので、綱吉は恐る恐るアラウディの髪に手を伸ばしました。
アラウディは「なにするの?」というように大きな瞳でじいっとツナの様子を見たままでしたが、特に逃げようとはせずに大人しく綱吉に髪を触らせてくれました。
ふわふわと絹糸のような、銀色にも見える淡い金髪はとても手触りが良くて、綱吉はうっとりと手を動かし続けました。
金色のねこみみがぴく、ぴく、と気持ち良さそうに動いています。長めのしっぽもゆるゆるとリズムを取って揺れていました。
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