小説

□こっそり『ねこ』裏話 〜ちゅー事件★山本独白〜
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『ねこ』じゃないもんっ! U (1日目)の最後あたりの山本視点。
※山本×アラウディなので苦手な方は閲覧をお控えください※




「どうせ3日後には僕、脂ぎったバーコードはげ親父に買われちゃうんだから!」
そう叫ばれて、世界がくにゃりと歪んだ気がした。


◆◆◆


少し早めに始まった宴会がお開きになった後、潰れた獄寺を担いで部屋に戻った俺は、彼を座敷に寝かせてから風呂に行った。
ここには客用の風呂もあってツナはそちらを使うと言っていたが、天然温泉つきの大浴場も使用してもらって構わないと聞いていたので、俺はそっちに行くことにしたのだ。
敷地の中に天然温泉まであるなんて、本当に豪邸なんだなぁ。
風呂には何人かの職員たちも居て、色々話をしながらのんびりと温泉を満喫させてもらった。
ここの人たちは外見は強面だけれど、みんな優しくていい人ばかりだよな。
俺は満足しながら部屋に引き上げた。

部屋に帰ってみると、獄寺が高いびきをかいて布団からはみ出すようにして寝ていた。
一応ツナとの部屋の間に荷物置き場のような小部屋があって、意外と音は聞こえないようだったので(さすがに賊に襲われたりしたら分かる程度)そのままにして、さて自分はどうしよう、と考えた。
獄寺は風呂にも入っていないので酒くさいわ煙草臭いわイビキは五月蝿いわで、ちょっと同じ空間では寝たくない。
ためしに座敷の奥の扉を開けてみたら、トイレと洗面を挟んでまだ奥に部屋があるようだった。
かなり広々とした場所だったんだな。
俺はその奥の部屋に入ってみた。結構広々とした和室で反対側から廊下にも出れるようになっているし、押入れの中には清潔そうな布団が何組も用意されていた。
よし、俺はここで寝よう。そう決めて手早く布団を敷いた。
まだちょっと寝るには早いので、テレビを見つつ柔軟でもしようかな。
そう思ってテレビのある座敷に引き返した。

と、その時、なにやらツナの部屋のほうから物音や話し声が漏れ聞こえてくる。
獄寺は全く気づくこともなくすごい格好でヨダレを垂らしながら爆睡していた。幸せなヤツだなー。
物音といっても特に切羽詰ったような感じの音ではなくて、ツナもテレビでも見ながら柔軟してるのかな、という程度の音だったので俺はあまり気にせず放置して柔軟を始めた。
それでもなんとなく気になったのでテレビはつけなかった。

やがてツナの部屋からはどったんばったんとかなり派手な音が聞こえてくるようになって…ツナの困り果てたような声や他の人らしき声も混じり出した。
う〜ん? ちょっと見に行ったほうがいいかな?
俺はそう判断して、小部屋を抜けてツナの部屋のふすまをがらっと開けた。
「ツナ、さっきから何どたばたしてんの?」
俺の目に飛び込んできたのは、泣きそうな顔をしたツナと、その腕にしがみついている子供のヒバリと―――そして、アラウディだった。

宴会の席で見かけて強引に側に座った時、つんとそっぽを向いていたのに、興味のある話を振ると途端に瞳を丸くして俺の話に聞き入っていた綺麗な人。
その時は洋服姿で上品に食事をしている姿が印象的な、妙に心惹かれる魅力的な青年だなと思っただけだったのだが。

今ツナの腕にかじりついてこちらを振り返るようにしているアラウディは、淡い色の浴衣を着ていてとても可愛らしい印象だった。
びっくりしたような顔はほんのりと桜色に染まっていて、風呂上りか何かなんだろうか。
無性に触れてみたい気になって、自分でもちょっと驚いた。
何だか俺、アラウディを前にするとおかしな気持ちになるみたいだ…。
そして何よりも驚いたのは、その淡い金色の髪の間から覗く金色のねこみみだった。よく見るとふさふさと毛足の長いしっぽも揺れている。

ツナが言うには、俺が宴会のときに梅酒を飲ませまくったせいでアラウディが酔っ払って部屋に押しかけてきて困っているらしい。飲ませすぎだとやんわりと怒られてしまった。
だって――嬉しかったんだ、俺が進める梅酒を珍しそうにして、そして気に入って飲んでくれたのが。
俺は調子に乗ってアラウディが飲むたびに梅酒とサワーをグラスに注いだ。
といっても、彼はちびちびと一口二口と舐めるように飲んでいたので、実質グラスに一杯くらいしか飲ませていないはずなんだけどなあ。そんなに何杯も浴びるように飲ませていないと思う。
それなのに、あんな少しの量の梅酒で酔っ払っちゃうなんて、なんて微笑ましくて可愛いひとなんだろう。

俺は申し訳ないと思って謝罪の言葉を口にしつつ、興味はすでにアラウディの姿に移っていた。
柔らかそうな毛並みのしっぽとなめらかそうにぴくぴく動いているねこみみをみていると、もう我慢できなかった。
「ちょっと触らせて?」なんて月並みな台詞を口にしながら、ツナから引き離して俺の腕の中に囲ってしまう。
後ろからそっと抱きしめてみると、思ったよりも細い肩にどきりと心臓が跳ねた。

なんだか酔っ払いの戯言みたいなことを言いながら身を捩るので、適当にあやしながらねこみみの後ろと顎をゆっくりさすってやった。
アラウディは一瞬とても気持ち良さそうに瞳を閉じていたのだが、次の瞬間ぷるぷる首を振って俺の手を払いのけてしまった。その仕草が妙に幼くて可愛らしくて、ぎゅっと胸が詰まった。

……俺、本当にさっきからなんだかおかしい。
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