小説

□こっそり『ねこ』裏話 〜ちゅー事件★山本独白〜
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「あんた…、買われてっちゃうのか?」
アラウディが、目の前のこのあどけなくも綺麗なひとが……だれかの所有物に、なる。
しかも相手は脂ぎった好色ハゲ親父だというじゃないか。俺はぞっとしてぶるりと身を震わせた。

アラウディは誰だろうがもうどうでもいいという投げやりな感じで、ツナの愛人になるとかめちゃくちゃな事を口走っていた。
あんた――本当に、だれでもいいのか?
そう思うともう堪らなかった。
舌足らずな口調でキスキスと連呼するアラウディに我慢できず、声を荒げて名前を呼んでしまった。

アラウディは相当びっくりしたみたいで、零れ落ちそうな澄んだ水色の瞳がまん丸になっていて……。
嗚呼、そんな純粋な瞳で見ないでくれよ。
誰でもいいって言うなら、俺があんたを『疵物』にしてやろうじゃないか――そんなことを考えている人でなしなんだからさ。

見かけよりもずっと華奢なアラウディの身体をかき抱いて、顎を掴んで心もち上を向かせる。
アラウディは呆然としたままで、今から自分が何をされようとしているのかちっとも分かっていないようだった。
そんな無垢であどけない姿にほんの少し胸が痛んだけれど――どうせ俺がここで手ぇ出さなくても、あんた売られて『疵物』になっちまうんだろう? そう思うと未だ見ぬ買い手を殺してやりたくなった。

激情に駆られたまま唇を重ねると、アラウディの身体が大きく震えた。くぐもった悲鳴が塞いだ口から漏れてきて、本当に可哀想になってくる。
ごめんな、俺みたいなヤツにむりやり『疵物』にされちまってさ…。
それでも俺は止める気にはなれなかった。それどころか、もっともっと貪りたくて…この甘い口付けをもっと深く味わいたくてたまらなくなった。
どんどん深く激しくなる口付けに、アラウディは息も絶え絶えに俺にすがりつくばかりになってしまっていた。

本当に止めたくなくて名残惜しくて仕方が無かったんだけれど、アラウディは気絶寸前で俺にぐったりと身体を預けているし、さすがにこれ以上は鬼畜な気がしてやっと俺は彼を解放した。

ツナやヒバリが見てるってのにな。
ツナが情けない悲鳴を上げているのは頭の隅では分かったんだけれど、そんなものに構っている暇は正直無かった。
適当ないい訳並べちまってごめんな、ツナ。

そんなことよりも俺は目の前の真珠みたいに綺麗な涙に釘付けだ。
アラウディは身を震わせると、ぽたり、ぽたりと瞳から涙を溢れさせていた。
よしよしと背中を撫でてやると、あんまりびっくりして感情の制御が出来なくなってしまったみたいで、そのまま子供みたいに泣きじゃくり出した。
ほろほろ、ほろほろと零れ落ちる涙が俺のせいで流れてるって思うと、不覚ながらぞくぞくした。
よくもまぁ「落ち着いた?」だとか「なんかごめん?」なんて心配してるみたいな台詞が吐けたもんだと自分でも思う。
今の俺の心の中は、この綺麗で純粋ないきものを泣かせてしまったという後悔の念よりも、俺の為に泣いてくれているんだという見当違いの暗い悦びで一杯だった。

俺は適当にツナとの会話を終わらせると、アラウディをそっと抱き上げて寝床へと向かった。
奥の小部屋であらかじめ敷いていた布団に寝かせてやろうとしたのだが、アラウディはぐすぐす泣いて震えたままぎゅっと俺の服を掴んで離そうとしない。
俺はずっとアラウディの髪や背中を撫でながらそっと囁いた。
「なぁ、どこにも行かないから、ちょっとの間だけ離して?」
さすがにひとつの布団では狭かろうと、もうひとつ布団を敷くつもりだったのだ。
けれどアラウディはぷるぷる首を振ると、俺の胸に顔を埋めてきた。
こんなに酷いことをされて泣いているのに、その張本人の俺にすがり付いて震えているアラウディがもう可愛くて愛しくてたまらない。
そう―――俺はきっと、アラウディを一目みた瞬間、恋におちていたんだ。

「なぁ……。アラウディ、あんたが――好き。一目惚れ…だったんだ、多分…。」
好き、好き…とうわ言みたいに囁きながら、アラウディの額に、頬に、そっと口付けの雨を降らせると、涙で一杯の瞳で見上げてきた。
熱に浮かされたみたいに潤んでいる瞳は微妙に焦点が合っていなくて、ああ、これは多分明日にはほとんど覚えていないんだろうな……とちょっとがっかりした。
本当に俺はかなり酷いことを強いてしまったんだな、あんたに。
こんな、人でなしにすがりつくくらい錯乱させちゃってさ。
先ほどまでの怒涛のような激情が過ぎさると、あとは綺麗な雪を土足で踏み荒らしてしまったような後悔だけが後味悪く残ってしまった。

ツナはやたらと心配していたけれど、俺だってアラウディを『疵物』にしたくらいで、彼をどうこうできるだなんて本気で思ってはいない。
なにやら魔法のアイテム『忘れ草』なんてものがあるらしいし、そもそもこういうことは『ねこ』本人の意思が最優先だと聞いている。
その割に、このままだと金持ちに売られてしまうらしいが…。そこは複雑な事情があるのかもしれない。
明日できればアラウディが正気なときに、きちんと話を聞いてどうにかしてあげたいと真剣に思った。


ごめんな、アラウディ。俺ができることは何でもするからさ。
もうあんたの意思を無視してどうこうなんて絶対しないから。
あんたのこと、ずっと守ってみせるから。
俺は華奢な身体をかき抱くと、そっとアラウディの手を取ってゆっくりと唇を押し付けた。



おしまい

2012/04/06

◆◆◆

このお話は、『ねこ』シリーズの初期も初期、山本が飛行機の中や宴会の席でアラウディたんにちょっかいをかけだした頃から妄想していたものです。(どんだけ気が早いんだ)
一応『ねこ』シリーズは【綱吉君視点】という大前提があるため、日の目を見ることは無いだろう…と思っていたのですが、萌えが高じて書き上げてしまいました★

山本、カーッとなってちゅ〜しちゃったのはいいけど、根はいい子だからきっと後悔してるんだけど好きだからキスしたこと自体には謝る気はなくて、いきなりしたってことに対して謝ると思うんだよね。
だから一回はちゅ〜しちゃってるのにそのあとじっと我慢して手をださない。
(だって『ねこ』なんだもんっ!に繋がる)←ちょっと未来のお話。山本が「アラウディたん可愛いね〜可愛いね〜」って撫で撫でするだけのお話です。

本当にこのままじゃアラウディたんを誰かに出し抜かれて盗られそうですね!
トンビに油揚げされてしょんぼりしながら台所で料理する山本…という構図にも萌えたりするので可能性は無きにしも非ずです。

さて山本クンの恋は実るのでしょうか…?(←無責任)

そして山本視点のアラウディがすごい乙女ですが、山本の目んたまには『アラウディたん好き好きフィルター』がかかってますので…しょうがないと諦めてくださいm(_ _)m

こっそりシリーズ第2弾はこちら→こっそり『ねこ』裏話 〜おみみとしっぽ!事件★アラウディ独白〜
ぽやぽやのアホっ子のアラウディたんの次の日の朝の様子です。



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