小説

□こっそり『ねこ』裏話 〜おみみとしっぽ!事件★アラウディ独白〜
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『ねこ』じゃないもんっ! U (2日目・朝)の朝食前のアラウディ視点※



どうしよう、どうしよう。
昨日まで当たり前に出来ていたことが、一体どうやっていたのかさっぱりわからない。

僕は洗面所の鏡の前でわなわなと立ち尽くした。
どうしよう、どうしよう―――ねこみみとしっぽが、仕舞えなくなっちゃった!





どうしたらいいのか分からなくて、無駄に部屋の中をうろうろしてしまう。
ねこみみはともかく、しっぽが出たままではズボンはおろか下着すら履けない。
これじゃ、洋服にも着替えられない! ずっと寝間着の着物のままいなくちゃいけないわけ?

おろおろしていたら、コンコンと扉を叩く音がして、僕は飛び上がって思わずベッドの中に逃げ込んだ。
毛布を被って縮こまってみたけれど、扉を叩く音は一定のリズムで繰り返されて、諦める様子は見られない。

「……なぁ、アラウディ?」
声を掛けられて思わず「―――居ないよ!」と叫んでしまった。
ばかばか、僕のばか!

「居ないって……、なぁ、入るぜ?」
かちゃりと音がして扉が開いた気配がしたので、僕は息を殺して布団の中に潜り込んですみっこに寄ってみた。
あぁ…。ベッドなんかに隠れるんじゃなかった。…見つからないといいんだけど。

願いもむなしく、あっけなく見つけられてしまったみたいで、誰かが近寄ってくる気配がする。
僕は更に壁に身体を押し付けて、すみっこに縮こまった。
やだやだ、こんなみっともない姿、見られたくないのに。どうしてこっちにくるのかな……早く出てってよ。

僕はこの姿――純血の『ねこ』の姿でうろうろするのがあんまり好きじゃない。
家の中で一人きりなら良いけれど、衆目にこの姿を晒すなんてそんな慎みの無いこと、とても恥ずかしくて出来やしない。
おみみとしっぽが仕舞えない幼年期は仕方が無いとして、成長期になってねこみみとしっぽが仕舞えるようになってからは、当然のように殆ど仕舞ったままで生活していた。
もちろんリラックスして寝ている間や、体調が悪い時なんかに出ちゃうことはあったけどね。

そうだ――きっと昨日、お酒飲んで酔っ払ったから、知らない間に体調崩しちゃってるんだ。
だから仕舞えなくなっちゃったんだ。うん、そうにちがいない。

人の気配はもう目前まで迫っていて、布団のすきまから中を覗き込んで僕のほうに手を差し出そうとしている男の姿がちらりと見えた。
僕は今一度、ねこみみとしっぽを仕舞おうと努力したけれど、一向に引っ込む気配は見当たらなかった。
ああ――こんなみっともない姿を晒さなきゃいけないのか。

「なぁ、あんた、気分どう? その……二日酔いで気持ち悪くなってない? ご飯、食べにいける? 大丈夫か?」
男はそう言いながら、いきなりズボッと布団の中に手を突っ込んできた。
「……………っ!」
あんまりびっくりしたもんだから、反射的にカプってその手に食いついてしまった。
あっ、しまった…! って一瞬思ったんだけれど、どうにも引くに引けなくなってそのままカプカプ手を齧っていたら、男が何故か嬉しそうに笑いながら反対側の手で僕の前髪を撫で撫でし出した。

「ごめんな、いきなり驚かせちゃったよな? 俺、どうもそういう所、無神経みたいでさ……。驚かせて、悪かった。」
僕は齧っていた手を離すと、恐る恐るちょっとだけ顔を上げてみた。
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