小説

□こっそり『ねこ』裏話 〜おみみとしっぽ!事件★アラウディ独白〜
2ページ/7ページ


そこには、少し困ったような目線を向けながらも、太陽みたいな笑顔を浮かべた顎に傷のある男が居た。
僕のほうを覗き込むようにして、ベッドの脇に立っている。

その姿を見たとたんに―――びくっと身体が竦んで、思わずより一層深く布団に潜り込んで頭からすっぽり隠れてしまった。
やだやだ、この男―――き、昨日の夜、僕に……、ぼ、僕に…キ………した、失礼な男じゃないか!

はっきりいって断片的にしか覚えてないんだけれど、梅酒を飲んで酔っ払った僕は、ボンゴレの来賓の部屋に押しかけて色々と管を巻いたのは朧げながら記憶にある。
その後なんだか突然虚しくなって何もかもどうでもよくなって……色々馬鹿なことを口走ったような気がする。
そしたら突然この目の前に男に怒鳴りつけられて、びっくりして固まっていたら、肩を捕まれて引き寄せられて―――。
あぁ、とてもじゃないけど恥ずかしくて、これ以上思い返せない!

「アラウディ?」
男の困ったような声が聞こえたけれど、混乱状態に陥っていた僕は返事なんて出来やしなかった。
「なぁ? どうした? やっぱ体調でも悪いのか?」
男が布団に手をかけてちょっとずらそうとしてきた。
「やだっ、―――こわいっ!」
思わず叫んだら、ぴたりと男の手が止まった。
「………そうだな、怖いよな。ごめん。」
力なく言う声が聞こえて、布団の上からぽんぽんと優しく叩かれた。
そのまま、すっぽりと何かに包まれるような感じがした。どうやら男が布団ごと僕を抱きしめている――らしい。

「なぁ、本当、もう…いきなりはしないから、そんなに怖がんないで? ……お願いだから顔、見せて?」
そんな優しい声、出したって、信用できるもんか。僕は布団の中でぷるぷる首を振った。
「ごめん、アラウディ。本当、昨日…いきなりあんなこと、して…。怖かったよな、本当ごめん、な。」
言われてかぁぁっと頭に血が上った。
薄っすらとだけど僕だって覚えているくらいだ、この男が昨日のキ………を、忘れているわけが無い。
もう本当に恥ずかしい、どうしよう。

「あんたが嫌がることはもうしない。約束する。だから……顔出してくんね? お願い。」
情けない声で懇願されて、心が揺れる。
どうやら嘘は言って無いみたいで、男が困惑し切ってしょげ返っているのがひしひしと伝わってくる。
……昨日はあんなに怖い顔で僕に怒鳴ったのに、まるで別人みたいだ。


恥ずかしながら昨日の僕は、自分でもちょっと呆れるくらい他人様を困らせるようなことばかりしたみたいで。
この男は――そんな僕を少し懲らしめてやろうとしただけ、なんだろう。
それなのに僕がこんな風に立て篭もったりしてるもんだから、やりすぎちゃったと思って困っている……らしい。


「………本当?」
「うん、本当に、誓っていきなりはしないから、だから怖がんないで、顔みせて?」
僕はしばらくためらった後、ちょこっとだけ布団から顔を出した。
ねこみみを出したままのはしたない姿を見て、彼は何て言うだろう。

彼は特に何も言わずに、本当に嬉しそうにニカッと僕に笑いかけた。
ベッドに腰掛けて、布団の上から僕を抱きしめる形になっていたから、自然と僕は彼の腕の中に居る格好になっていて……至近距離で見詰め合うことになってしまった。
かぁっと頬が紅潮するのが分かって、思わずぷいっと横を向いてしまったんだけれど、彼は僕をじっと見つめたまま視線を逸らすことが無くて……見られているのを感じて、ものすごく恥ずかしくなった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ