小説

□綱さまと御呼びっ! U
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※大人綱さま×15雲雀さんのツナヒバ。綱さまがかなり下品で厚顔無恥なので苦手な方はご注意ください※




「あのアホはまた日本に行きやがったのかーっ!!」
バターンと開け放たれた執務室のドアから、十代目専属の家庭教師兼ヒットマンが鬼の形相で飛び込んできた。

獄寺は書類整理の手を止めて、ぱちぱちと瞬きをした。
「十代目はアホでは無いと思いますが、リボーンさんが言っているのが十代目だとして答えますとですね。その通り、日本に行かれましたよ。」
「なんでそんなに日本に行きまくるんだアイツはっ! もう『贄』は見つかったんだから、少しは落ち着いていられねーのか!」
「それを俺に言われましてもどうにもこうにも…。」
「オメーが奴のスケジュール調整してんじゃねーか、この野郎!」
「いやまぁ、それはそうなんですが…。」
獄寺は、青筋を立てて怒り狂うリボーンをまぁまぁと宥めつつ、ばさりと報告書を取り出した。
「しかしですねー。最近の十代目は、『週末日本に行かれたいなら、仕事をこなして頂かないと。』と言うと、予想を上回る働きぶりを見せてくれましてですね…。正直、これだけやってくれるなら毎週日本に行っていただいてもお釣りがくるんですよね。ほら、この通り。」
手渡された報告書をパラパラと流し見て、リボーンが僅かに眉を上げた。
「……これを全部、あのアホが片付けたってーのか?」
「ですからあのアホではなく、十代目がお片づけになったんですよ。」
「………うう〜む…。むむ、う〜む…。これだけ出来るなら何でさっさと今までしなかったんだ、あいつは。」
「いえいえ、今まではしたくても出来なかったようですよ? あの日本のクソガキ……じゃない、十代目のお決めになった『花嫁』のお陰だそうで。彼の元で充電してくると、想像以上に仕事が捗られるそうです。それこそ異常なくらい、能率が上がるそうですので、週末の日本行きを俺としてはむしろ大いに推奨したいと思っているんですがね。」
そのほうがボンゴレの為になるもので、とにこやかに微笑む自称十代目の右腕の言葉に、リボーンは珍しくそのまま唸りつつも黙り込んだ。





「うるさいよ、きみ。……僕の邪魔をするなら、咬み殺す。」
並盛中学の風紀委員長、雲雀恭弥は機嫌が悪かった。
普段なら見逃すような輩にまで容赦ない制裁を加えている姿は、さながら阿修羅の如き凄まじさだった。
運悪く捕まったサラリーマンは、ほとんどサンドバック状態にさせられた後、足元に誰しなく転がっている。
「…なに? その目は。僕のやることに不満でもあるわけ?」
触らぬ神に祟りなし、とばかりに微妙に視線をずらす風紀委員たちに、雲雀はきつい口調を投げつけた。
「…い、いえ、決してそのような…」
「気に入らないな。」
ゆらり、と怒気を孕ませて雲雀は手近な委員をトンファーで叩きのめす。

気に入らない。
何もかもが、気に入らない。

半分捨て鉢な気持ちで、更に手を上げようとしたときだった。

「あれぇ、恭弥さ〜ん。どうしたんですか、ご機嫌ななめですねぇ?」
「―――――っ!?」
ふいに背後から抱きしめられて、雲雀の体を悪寒が走りぬけた。
「ふふふ、ご機嫌斜めな恭弥さんて色っぽ〜い!」
くちゅん…と耳たぶをねっとりと舐め上げられて、怒りのあまりわなわな震える雲雀は、しかし抱きすくめられた腕から少しも逃れることができない。
悔しさの余り、目の前が薄っすらと歪んで見えた。

「んん〜? 今日は抵抗は無しなんですか? 恭弥さん?」
さりげなく優雅な手つきで雲雀の顎を後ろから捕らえた若者――栗色の髪と琥珀色の瞳を持つ物腰柔らかな青年、ボンゴレの十代目ボス、沢田綱吉はにこにこと微笑みながら雲雀の頭を撫で付けた。
周りにいた風紀委員たちは、綱吉の姿を認めるなり「ひいいい〜っ! 怪物!」「出た! 疫病神!」などと悲鳴を上げて散り散りに逃走しだした。




綱吉が雲雀の周りに突然出没するようになったのは一月余り前に遡る。

雲雀が例のごとく『見回り』をしつつ思う存分暴れていたときに、『あれぇ、なんだかとってもいい匂いがします。』と、まるで焼きたてのパンの匂いにつられてきたような言い方で現れたのが綱吉だった。
そして、雲雀の頬についたかすり傷から滲む血をどうやってかぺろりと舐めて雲雀の逆鱗に触れた彼は、更にあろうことか『うっわ〜っ! ついに見つけました! オレにぴったりの血を持つ人を! しかも最高に可愛らしくて強くて綺麗な人じゃないですか! …ねぇ、どうかこのままオレのものになってくれませんか?』とほけほけした笑顔を見せながら宣ったのだ。

当然雲雀は一瞬ぽかんとした表情をした後、不敵にニヤリと笑い―――『ふぅん。身の程知らずな馬鹿ってこのことなのかな? …いいよ、僕に勝てたら、貴方の好きにしな』と言い放った。
そんなことはここ並盛を『見回り』していれば日常茶飯事なことで、雲雀も風紀委員たちも結末は決まりきっていると信じて疑っていなかった。
『また委員長の暇つぶしのサンドバッグが増えたぜ』と高みの見物を決め込もうとしていた風紀委員たちは、次の瞬間驚愕に目を見開いた。
瞬きひとつしない間に雲雀が―――完膚なきまでに敗北するのを目の当たりにさせられたのだ。

それと本当にあっという間の出来事で、『じゃあ、オレの好きにさせてもらいますね〜♪』などという間延びしたような声と共に『なっ、なにす……!』という雲雀の叫びを最後に姿が消えた後も、何が起こったのか全くわからず、委員たちはただその場で右往左往するだけだった。

それから副委員長の草壁率いる委員たちの懸命な捜索にもかかわらず、全く消息がつかめなくなった雲雀だったのだが。
数日後に場違いなほど呑気な表情をした綱吉に腕を捕まれ、苦虫を噛み潰したような顔で引き摺られて帰ってきたときには、皆仰天したものだ。
余りにも恐ろしくてだれも突っ込めない中、綱吉は『それじゃ〜また会いに来ますね。可愛いオレの花嫁さん』という台詞と共に雲雀の頬に高らかにキスをし、運悪くそれを直視してしまった草壁は泡を吹いて昏倒してしまった。

その後は雲雀が『僕は見世物じゃない』と辺り構わず暴れまくったり、綱吉がそれを簡単にあしらったり、それで更に雲雀が激昂したり……と、並盛の町は一時騒然となった。
そのときの雲雀の鬼神のごとき暴れっぷりをぽわぽわと笑いながら軽くいなした綱吉に、一同は心底恐怖を覚えた。
今では綱吉の間延びした声を聞いただけで、風紀委員たちは脱兎のごとく逃げだす始末だ。
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