小説

□『ねこ』じゃないもんっ! U (2日目・夕)
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結局綱吉は満足に家で寛ぐ事もできず、そそくさと雲雀邸へと帰ることに致しました。
大人の雲雀は、奈々にたくさんお手製のお菓子をお土産に貰ってご満悦です。
「雲雀さまのご機嫌が良いうちに帰らないと、本当に実家を破壊されそうだからなぁ。」
迎えに来てもらった車の中で、綱吉ははぁーっと大きなため息を付きました。

母親の奈々は『にぎやかでいいわぁ♪』と、ジョットとディーノ兄弟を泊めることを快く承知して楽しそうに笑っていましたが、綱吉にしてみれば厄介事を押し付けてしまったような気がして仕方ありません。
それを横目で見ていた大人の雲雀がくすっと笑いました。
「キミも大変だねぇ。実家でも寛げず、嫁ぎ先でも寛げないなんてさ。」
「そうですねー、嫁ぎ先でも飛んだ苦労を……って、オレまだ嫁いでないですよっ!? そもそもオレがきょーやさんをおよめさんに貰うんじゃ……!?」
「どっちだっていいじゃないか。大した違いは無いわけだし。」
「いやそうかもしれませんが……、はっ!? なんだかここで丸め込まれたら大変なことになるという超直感がひしひしとっ!!」
「十代目、そこで引き下がっちゃいけません! ここは男の沽券に関わることですからね、ビシっと言ってやってくださいよビシっと!」
横から獄寺が身を乗り出して力強く主張してきました。
「本当にきみの腰ぎんちゃくはぎゃーぎゃー五月蝿いね。弱い犬ほど良く吼えるって言うけどさ。」
「なっなんだとこの…! だれが犬だーっ!」
「きみに決まっているだろ?」
「獄寺くんも雲雀さまももうやめてえぇぇーっ!」

(オレは一生こうやって喧嘩の仲介役ばかりやらされる運命なの!?)
と泣きそうになりながら、綱吉は必死で車の中で暴れようとする二人を押し留めたのでした。


雲雀邸に到着した後、大人の雲雀は子供の首根っこを掴むとさっさと屋敷の奥へ消えて行ってしまいました。
綱吉が別れを惜しむ間もありません。
「ああっ、きょーやさんにさよならも言えませんでしたーっ。」
「まぁまぁ、昨日のように宴会はありませんが、夕食の時間になれば食堂でお会いできますよ。」
横に控えていた草壁がにこやかにそう教えてくれて、更に
「宜しければ今から大浴場のほうに行かれては? 従業員たちはこの時間使用するものはいませんので、実質貸し切り状態でお楽しみいただけると思いますよ。」と勧めてくれました。
「そういえば結構色々あってオレ、薄汚れているかも。」
「大浴場って天然温泉でしたっけ? 昨日酔いつぶれてしまって今朝シャワーしか出来なかったから、俺も是非入りたいっすね。」
綱吉と獄寺はかなり乗り気になって、お互いにうんうんと頷きあいました。



ガラガラガラ、と大浴場へ続く扉を開けた綱吉は、あれっと首を捻りました。
だれもいない貸切状態と聞いていたのですが、ついたての向こうの湯上り所で人の気配がするのです。
「十代目、どうしました?」
「いやなんか先客が居られるみたいで…」
後ろから声をかけてきた獄寺に、綱吉はちょっと首を傾げつつ答えました。
「非番の従業員じゃないっすか? まぁそんなこともあるっしょ。」
と獄寺は特に気にする風も無く、スリッパを抜いで板の間に上がりました。
「スリッパ揃えておきますんでお先にどうぞ。」
促されて綱吉は「あ、どうも…」と言いつつスリッパを脱ぎました。
そして奥へ進もうとしたときです。

「―――ツナ? ツナだろ?」
ついたての向こうから聞こえてきたのは、幾分ボリュームを押さえていますが、確かに山本の声でした。
「あれっ、中に居るの山本? どうかした………あっ、ごめん。」
返事をしながら中を覗き込むと、畳敷きの休憩所に腰掛けた山本が上半身を捻って綱吉のほうを向いてしいっと口に指を当てていて、綱吉は慌てて声を小さくしました。
どうしてだかわかりませんが、大きな声を出してはいけないようです。
山本はどうやら上半身裸のまま涼んでいるようで、むき出しの背中が見えました。温泉に浸かって出てきたばかりのところなのでしょうか。

山本は、綱吉の方をむいて困ったように笑うと
「…ちょっと、悪い、助けてくんね?」と押し殺した声で言いました。
「えっ、いいけど……何すれば?」
「とりあえずこっち来て? そーっとな?」
「う、うん。」

綱吉は一旦後ろにいる獄寺のところに戻ると
「山本がちょっと手伝ってっていってるから。静かについてきてくれる?」とお願いしました。
「はぁ? 山本が中にいるっすか?」
「うん…。そうなんだけど、静かにして欲しいんだって。」
「はぁ、まぁ十代目がそうおっしゃるんなら…。」
獄寺はいかにもしぶしぶという感じで綱吉の後について湯上り所に入りました。

ベンチ式になっている休憩所に座っている山本は、綱吉たちが近づいてくるのを見て心底ほっとしたようです。
「まじで助かった。あの後帰って来て3時のおやつ食べてからシャワーしてお昼寝って思ったんだけど、温泉に入りたがってさぁ。まぁいっかと思って連れて来たら、案の定湯船の中でうとうとし出して……。そこまでは良かったんだけどな〜。眠っちゃったと同時に、元に戻っちゃったんだよな……。」
そう押し殺した声で喋った山本の腕の中には、バスタオルに包まれたアラウディが、すやすやと気持ち良さそうな顔で眠っていました。

―――大人の姿になって。
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