小説

□『ねこ』じゃないもんっ! U (3日目・朝)
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『ねこ』じゃないもんっ! U (2日目・夕)のつづき。



リボーンが雲雀邸に到着したのは、次の日の朝のことでした。

「てめーこの俺さまを呼びつけやがるとは、良い度胸しているじゃねーか。」
額に青筋をいくつも浮かべたリボーンを前に、綱吉は震え上がりながらもへらりと笑って諸手を上げました。
どうやら無理やり呼びつけられたリボーンのご機嫌は最悪のようです。

「リ、リボーン、待ってたんだよ。間に合ってくれて良かった〜!」
「間に合わねーとか間に合うとかそんなもん、俺が知るか!」
目の前の椅子をドカっと乱暴に蹴飛ばされて、綱吉はひいっと首を竦めました。
「大体色ボケしやがってこの野郎、いつまでも日本でふらふら遊びまわれると思うなよ、ボケナスが!」
「ご、ごめんリボーン、仕事押し付ける形になっちゃって! ひと段落着いたらすぐ帰ります、そして死ぬ気で仕事します! だからもうちょっとだけ猶予ください〜〜! そんでもってちょっと協力してください〜〜! リボーン、お前だけが頼りなんだよ。」
綱吉は畳に額を擦りつけんばかりに土下座して、リボーンにぺこぺこ頭を下げました。

「うるせぇ! ガタガタ騒ぐな、このドアホ! おめーのわけのわからん許婚騒ぎに巻き込まれてたまるか! 俺を甘く見るなよ、ダメツナ。風紀財団のトップが極度の戦闘狂なのは調べがついてんだ。てめーのことだから、大方俺に手合わせでもさせるつもりだったんだろう!? そんな暇、俺には無いんだよ! テメーのケツはテメーで拭きやがれ、そこまで面倒見れるか!」
「リリリリリボーン、お願い、待ってー! 今回はオレじゃなくって山本のために……」
綱吉は半泣きで叫びながら、リボーンの足に取りすがりました。

「なんだと? 山本?」
途端にリボーンの態度が180度ころっと変わりました。
山本はリボーンのお気に入りの愛弟子なので、上手くいけばリボーンも少しは協力的になってくれるかもしれません。
綱吉は内心ドキドキしながらリボーンの次の行動を待ちました。

「そういやぁ、今あいつはどこだ? 姿が見えねーが。」
「山本なら恒例の朝のロードワークに出かけましたよ、リボーンさん! といっても、昨日は殆ど寝てないみたいで夜中からごそごそうろうろしてたっぽいんで、朝のロードワークと言って良いのかわかりませんが。」
獄寺が勢い込んで答えていました。
彼はリボーンのことも尊敬していていつも役に立とうと奮闘しているのですが、肝心のリボーンにはいつもあまり相手にしてもらっていませんでした。

「もう少ししたら戻ってくるとは思うんで、そ、それまでどう? 朝食でも食べながらゆっくり話を…」
「アホか! そんなに悠長にしてられるか。自分で山本を探してとっ捕まえて事情を聞くから、てめーはすっこんでろ。」
「ちょ、ちょっとリボーン!」
リボーンは乱暴に綱吉を突き飛ばしました。

勢い余ってごろごろと三回転くらいした綱吉がぺちょりと畳に突っ伏してしまったときです。
「だめーっ! つなよしいじめたら、ぼくが許さないんだからねっ!」
奥の座敷から子供のヒバリがぱたぱたと可愛らしい足音を響かせて飛び出してきて、リボーンと綱吉の間に割って入りました。

「おー? なんだ、お前か。よく朝食時に不法侵入してきた小さなニャンコちゃんじゃねーか。」
リボーンは途端に格好を崩してヒバリの頭をぐしゃぐしゃと撫でました。
「なにするのっ! 僕にきやすくさわらないでくれる。」
ふーっと唸り声をあげて、ヒバリが嫌そうな顔をして頭をぷるぷる振りました。
「なんだなんだ、怒った顔もまた可愛らしいじゃねーか。…そーだな、お前が黙ってぐりぐりフニフニ俺にさせたら、ツナのアホをいじめるのは暫く止めてやってもいいぞ。ほれ、ねこみみとしっぽ触らせろ。」
「……………。」
子供はものすごく嫌そうに顔をしかめたのですが、ちろりと畳にへちょっている綱吉を横目で見て、どうしようか悩むように瞳をゆらめかせました。
その間にもリボーンはひょいっと簡単に子供を抱き上げてしまい、宣言どおりに子供の顔に頬をぐりぐり押し付けてみたり、掌を掴んでフニフニと揉んだりしだしました。

「ちょ…! なんとなくだけどイケナイ雰囲気満載だから止めてお願い勘弁してリボーン!」
綱吉は半泣きでリボーンの腕に取りすがりました。
「うるせぇ、俺に命令すんな。」
リボーンはやに下がったエロ親父宜しくニタニタ笑いながら、尚も子供をいじくりまわしています。

子供はふるふると震えていましたが、顔をしかめるといきなりリボーンの腕にカプっと食いつきました。
「―――チッ! 思ったより根性座ってるガキじゃねーか。」
リボーンは僅かに顔をしかめると、子供の鼻をぴっと指で摘みました。
息が出来なくなって真っ赤になった子供は「ぷぁっ!」と叫んで食いついていた腕を離しました。
尚も果敢にう〜と唸り声を上げる子供の首根っこをつかんで、リボーンはぽいっとばかりに綱吉に放って寄こしました。
「きょ、きょーやさぁん!」
「だ、だいじょうぶだもん。僕、平気なんだからねっ!」
ぶるぶる震えながらも強がりを言う子供を抱きしめて、綱吉は優しく髪を撫でながら頬ずりしました。

「まぁまぁ楽しかったぜ。お前に免じて今はこれ以上ダメだしするのは止めておいてやるか。さてと、俺は忙しいんだ。偶然にしちゃー出来すぎのようなタイミングだが、たまたまさる大物が今現在お忍びで来日してるらしくてな、ちょいと会ってゴアイサツしてくるんで俺はもう行く。」
リボーンはにやっと口の端を上げて笑うと、綱吉に一つの匣を放って寄こしました。
「うわわわ、リボーンさん! そんなに乱雑に扱うと危な……!」
獄寺がひいっと叫んで空中に飛び上がって匣をわしづかみにしました。
「あとは勝手にやりやがれ、ダメツナ。だが俺が用事を終えてイタリアに帰るときには、てめーら全員引き摺って帰るからな! 覚悟しておけよ!」
「ちょ、ちょっと待って…! リボーン、せめて雲の守護者候補の雲雀さまの顔を一目見て…」
「もう必要ねーよ。」
リボーンはちろりと綱吉の腕の中に納まっている子供を見つめて、口の端をふっと上げて笑いました。
「はぁ?! 何言って……ちょっとリボーン、リボーン、リボーンったら!」
「アホの一つ覚えみたいに俺さまの名前を連呼するな! うるせーんだよ。」
リボーンはそういい捨てて、くるりと踵を返してしまいました。

部屋を出て行く直前、振り向きざまに「あぁ、そーいやもう一つ忘れモンだな」と小馬鹿にしたように呟くと、リボーンは綱吉向かって何かを投げつけました。
「まってリボー……ぶへしっ!」
ベシっと派手な音が響いて、綱吉の顔面になにかがヒットしました。
「レプリカなんぞつけてないで、ちゃんと本物を常時つけるようにしとけ、このボケナス。」
「あう〜〜〜」
綱吉は情けない声を上げながらそれを摘み上げました。上等ななめし皮で作った小袋の中を確かめた綱吉ははぁーっとため息をつきました。
「これって、オレ一人で雲雀さまの相手してガンバレってことなのかな? あああ〜〜〜! リボーンが冷たいよぉおぉぉお! ちょっとくらい相談に乗ってくれたっていいだろケチ!」
「俺さまのことを使いっぱしりにしやがるからだ! ダメツナめ!」

廊下の向こうから聞こえてきた叫び声は、まるで綱吉を嘲り笑うかのように響いてきたのでした。


ページジャンプ用目次
★ 3P〜 雲雀さまにお願い!
★ 5P〜 しっぽ縺れちゃってる!
★ 7P〜 小鳥さんが来たよ
★ 9P〜 ぼく、夢みてるんだね…?
★11P〜 『ひとつ、貸し』って怖い!
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