小説

□『ねこ』じゃないもんっ! U (3日目・朝)
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「リボーンには体よく逃げられちゃったよ…。でもまぁ、気持ちを切り替えて、早速雲雀さま懐柔作戦を決行しよう! 行くよ、獄寺くん!」
綱吉は畳から起き上がって果敢に腕を振り上げました。
「はい、十代目! いつでも大丈夫ですよ! ……で、雲雀の野郎にはどうやって会われるんで?」
獄寺の言葉に、綱吉はにこっと可愛らしく微笑みました。

「……………。それは獄寺くんが考えてくれてるんじゃ…」
「……………。それは十代目が何とかしてくれるんでは…」
二人はお互いに見つめあったまま凍りつきました。

「うわー! どうしよう!! 根本的なところが抜け落ちてたぁぁぁ!」
綱吉はそう絶叫してごろごろ畳の上を転がりまわりました。
「どーすんですかーっ、雲雀の野郎に会えないことには、しょっぱなから計画倒れっすよ!」
「どどどどうしよう、獄寺くんなんか考えてよ!」
「えええーっ、十代目こそそのすばらしい超直感で標的の居場所を素早く察知…」
「だから超直感ってそういう能力じゃないからーっ!」

獄寺と綱吉がぎゃあぎゃあ騒いでいると、子供が首をかしげながら綱吉の服をくいくいっと引っ張ってきました。
「なぁに、つなよし? かあさまに会いたいの?」
「きょ、きょーやさぁぁん! そうなんですーっ!」
綱吉は子供を抱き上げて、そのふっくらした頬に自分の頬をすりりっと摺り寄せました。
目がハート状態の綱吉を見て、獄寺は両手を広げてお手上げのポーズをしています。

「じゃあぼくが呼んできてあげようか?」
「ええーっ、いいんですか、きょーやさん?」
「うん、いいよ。」
でも、かあさま起きてるかな? と子供は可愛らしく口を尖らしました。
「はっ!? そ、そういえば白蘭がモッフモフになった次の朝って、二人ともなかなか起きてこないんだったっけ!?」
子供を抱き上げたまま、綱吉はおろおろと無意味に部屋の中を歩き回りました。
「うん。おきてくれてたら、ぼく、お部屋にはいれるけど、ねてたらむりだよー。」
ぱたぱたと黒い尻尾を揺らして、子供が答えました。
「とっとにかく一度お願いできますか、きょーやさん? 駄目だったら駄目でまたそのとき考えよう、うん、そうしよう!」
綱吉がそうお願いすると、子供はこくっと頷いてくれました。

子供を抱きしめたまま、綱吉はリボーンから投げつけられたなめし皮の袋を開けて、グローブを取り出しました。
「あぁ、せっかく忘れたふりして故意に置いてきてたのになぁ。リボーンにはお見通しだったかぁ…。」
はぁ、とため息をついてグローブを装着すると、同じく袋から大振りのリングを取り出して指に嵌めました。

獄寺がそのリングを見て目を剥きました。
「うぉ、ちょっと十代目! そそそれは大空のボンゴレリング!? いつもこれ見よがしにネックレスにかけられていたのは…?」
「あー、うん。これ、レプリカなんだよね。…と言っても、これも一応使える大空属性リングなんだよ? ただ炎の威力はやっぱりあんまり出ないんだよねーレプリカだからさ、ははは。」
綱吉は首に掛かっているリングを指でいじりながら、引きつった顔で笑いました。

「ひょ、ひょっとしてそのせいで昨日の誘拐騒ぎのとき、逃げられなかったとか…?」
「あー、ははは。実はそうだったりして…。」
えへっと実に可愛らしい顔でぺろりと舌を出した綱吉を見て、獄寺ががっくり肩を落としました。
「十代目がすんなりと誘拐されるなんて、おかしいと思ってたんっすよね……。」
「いやぁ、ごめんごめん。前に一回ネックレスの鎖が切れてトイレポチャしてから、あんまり持ち歩きたくなくってさー。ボンゴレリングを便器の中に落としたってリボーンに報告するのも嫌だしー。」
「………いやそのお気持ちは重々わかりますが、それにしても天下のボンゴレ十代目がずっとレプリカを首にぶら下げていたなんて……」
「まぁまぁ、もうそのくらいで勘弁してよ、獄寺くん。とにかくオレも反省したからさー……」
ぼぅっと音を立てて綱吉の額にオレンジ色の炎が燃え上がり、顔つきも鋭いものに変わりました。
「……ここからは、死ぬ気で雲雀を懐柔する!」

鮮やかに変貌を遂げた綱吉を見て、子供が大きな瞳を更に大きくしました。
「つなよし……なんだか、かっこいい?」
「ん? どうだ、惚れ直したか? きょーや。」
「かわいいつなよしもすきだけど、かっこいいつなよしもすきー。」
ごろごろごろ、と喉を鳴らしながら子供が綱吉の頬にぷちゅっと口付けました。
「よしよし、おまえも可愛いぞ、きょーや。」
綱吉は子供のねこみみの後ろを優しくくすぐった後、お返しとばかりに額にそっとキスを落としました。
「それじゃ、行こうか。」
「うん!」
綱吉は子供を抱き上げたまま、すたすたと廊下へと歩み出しました。

「ま、待ってください十代目〜! くっそ、山本のやつまだ帰ってこないのか。どこ行きやがったんだ!」
獄寺は慌ててそのへんの書類をかき集めると、リボーンから渡された匣を手にどたばたとその後を追いました。
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