小説

□『ねこ』じゃないもんっ! U (3日目・昼)
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『ねこ』じゃないもんっ! U (3日目・朝)のつづき


たくさん朝ごはんを食べて満足したらしいアラウディは、山本の膝の上でとろとろと半分眠りかけていました。
「んー、あんた大丈夫か? まだ時間があるなら、布団で少し眠らせたほうがいいのかな…」
頬に当てられたてのひらを掴んで口元に持っていくと、アラウディは山本の指をまたぺろりと一舐めした後にくちゅくちゅとしゃぶりだしました。


「あ〜〜〜、山本さん、その指しゃぶりなんですが…ちょっと……できれば公衆の面前では止めさせてあげていただけると助かるのですが……」
後ろから草壁がなんともいえない微妙な顔つきをしながら、山本に声を掛けました。
「あ、そうっすね。可愛いけど、ちょっと子供っぽいもんなぁ。ほら、指をしゃぶるのは止めとこうな?」
山本がそう言いながらアラウディの口から指を抜くと、アラウディは哀しそうな顔をしてぐすぐす愚図りだしました。
「ほらほら、アラウディ。皆がいるところでは止めとこうな? ちぃちゃい子みたいで可笑しいぞ〜?」
山本はぽんぽんとアラウディの頭を軽く撫でて、そっと胸元に抱き込みました。
「ん……」
アラウディは不満げに口を尖らしていましたが、頭を撫でられて満足したのか、半分瞳を閉じかけながらすりすりと山本に擦り寄っていました。


「山本さん、とりあえずは彼を風呂に入れなおしてあげてもらえますかね。今からご案内いたしますので…」
「ああ、了解っす。ほら、アラウディ。お風呂入って綺麗にしような〜」
「…んん? お風呂? おっきな温泉?」
「あー、昨日の大浴場じゃなくて、専用個室のほうな」
「や。おっきなのが、いい」
「えーと。ごめんなー、あそこは駄目だって…」
山本がちらりと草壁のほうを見ると、草壁は気の毒そうな顔をしつつも腕で大きなバツを作って首を横に振っていました。

アラウディはむうっと鼻に皺を寄せながら、ぐりぐりと山本の胸に頭をこすり付けました。
「どうして? …これ、夢なのに、ちっとも僕の思い通りにならないよ」
『そらねこ茶』の効力が続いていて夢見心地のアラウディは、未だにこの状況を夢だと思いこんでいるようです。
「ああー、うん。うー……そうだ! アラウディ、専用個室のほうで、あやとりでもすっか!」
「あやとり?」
「そ。あんたしたがってたろ? お手玉は風呂の中じゃ無理だけど、あやとりくらいなら何とか…。だから、なっ。一緒に風呂入ってあやとりしよ」
山本はそう言って、アラウディを抱き上げると草壁の案内に従って部屋を後にしました。


「草壁さん、毛糸ちょっともらえますかね?」
「途中で調達していきましょう」
そんな会話が段々と遠ざかってやがて聞こえなくなった後、綱吉ははあーっとため息をつきました。
「つ…疲れた…。なんだか異常に疲れたよ…。なんでオレがこんなに疲れるんだろうねーははははは」
これからアラウディの一生を左右する(かもしれない)お見合いの席が控えているというのに、呑気に『あやとりしよ』という山本の天然っぷりの前には、綱吉も脱力気味です。

「つなよし? どーしたの? ぼく、頭なでなでしてあげようか?」
子供がお膝の上から綱吉をくりっとした瞳で見上げています。
「きょーやさんは可愛いですねーっ! ああっ! 癒されます〜!」
「ん。つなよし、いい子」
ちいさな手で頭をふわふわと撫でられて、綱吉はへにょへにょと格好を崩しました。


「さて、でもこれからどうしよっか」
綱吉はくるりと部屋を見回しながら一人ごちました。
白蘭と大人の雲雀は奥座敷に引っ込んだまま、下手したらお見合いの時間になっても出てきそうにありませんし、獄寺はすっかり給仕係が板についた様子でお膳の後片付けに勤しんでいます。 
「やっぱりアラウディさんの身支度の手伝いでもしたほうがいいのかなぁ」
そう呟いていたところへ、携帯電話が鳴りました。
「うっ! なんだか嫌な予感がひしひしとっ! ……あああ、やっぱり実家からか!」
携帯の画面に表示された文字を見て、何となく予想が付いてしまった綱吉は諦めの境地と共に電話を取りました。
「あー母さん? ………うん、うん、うん。いや、充分だよ〜ありがとう。また寄れたら寄るから、それじゃ」

電話を切って盛大にため息をつく綱吉を見て、獄寺が「どうかされたっすか」と声をかけて来ました。
「いやー。母さんになるべく時間を稼いでジョットさんたち引き止めるように頼んでたんだけど、朝ごはん終わったらもう張り切っちゃって、三人ともすぐにも飛んでいきそうな勢いなんだって。『朝っぱらから押しかけたら先方に失礼だから』って引き止めてるらしいんだけど、それも時間の問題だって…」
「ああ、ジョットさまたちが来られるんで。今からの時間だと…10時のお茶を用意してもらわなきゃダメっすね。昼食にはあまりにも早すぎっすもんね」
「10時のお茶どころか、さっき朝ごはん食べたばっかりなんだけどねぇ…ははは」
「じゃ、ちょっと行ってきます」

そう言って出て行った獄寺は、しばらくして草壁と一緒に戻ってきました。
「十代目、草壁さんがもう手を回してくれてるそうっす」
「ええ、大丈夫です。こちらもあらかじめそういう事態を想定しておりましたので、いつお越しいただいても結構ですよ。沢田さんには主人の代理としてホスト役を務めていただかなくてはなりませんけれどね」
「そ、それはどうも…。でもやっぱりオレが出て行かないとダメなんですね…ははは、ははは」
草壁にそうにっこり笑われて、綱吉は内心冷や汗をかきながら曖昧に微笑み返しました。



ページジャンプ用目次
★ 4P〜 お風呂から上がったよ
★ 8P〜 お見合い、開始!
★11P〜 一緒にかってほしいの!
★14P〜 お見合い、終了!
★16P〜 イタリアに帰るよ
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