小説

□『ねこ』じゃないもんっ! U (後日談)
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「…っ! アディちゃんが…オオオレの顔、ぺちって…!」
微妙にショックを受けて固まった綱吉の腕からするりと抜け出すと、アラウディはぴくぴくとねこみみを動かしながら後退りして芝生の上に蹲りました。
そしてゆらゆらとしっぽを揺らしながら、ちらりちらりと綱吉の様子を伺いつつ首を傾げています。

「ごごご、ごめんねアディちゃん。ちょっと強く抱きしめちゃったよね。嫌だったよね。本当にゴメンね」
綱吉は慌てて平謝りに謝りながらアラウディに近寄って、頭を撫で撫でしました。
アラウディは特に逃げることも無く、その場に蹲ったままおとなしく綱吉に髪を触らせています。
「あ〜良かった。本気で嫌われちゃったかと思ったけど、大丈夫みたい」
アラウディの小さなお鼻をちょんと指でつつくと、ふんふんと匂いを嗅がれた後にぺろりとひと舐めされました。

「あはは、くすぐったい。アディちゃん、やっぱりすごく可愛いよね…」
綱吉がしみじみとそう呟くと、その様子をチラ見していた獄寺もしぶしぶといった風に頷きました。
「まぁ、可愛いっちゃ可愛いかもしれませんねー。…どうせ俺は『ねこ』に嫌われる体質ですから、可愛かろうが小憎たらしかろうが関係ありませんけどねっ」
そう言いつつ、先日ボンゴレお抱えの医者に『効果的な禁煙法を教えろ』とかなんとかゴネていたのを綱吉は知っていましたが、あえて何も言わずにただ笑うだけにしておきました。


と、その時でした。
近くにあるこんもりとした茂みから、がさがさがさ…と何かが動く音が聞こえてきたのです。

ぴくっとアラウディのねこみみが動いて、くりっとした瞳で茂みのほうを見つめました。
そこは低い茂みが連なってまるで小さなトンネルのようになっていて、アラウディはその中を熱心に伸び上がって覗き込みだしました。
「ん? なんだろう、野鳥か野うさぎさんかなー? アディちゃん、うさぎさんが遊びに来てくれたのかもだよー」
そう言いながら綱吉も身を屈めてそのトンネルを覗き込んだときです。

「つなよしーっ!」
良く通る澄んだ声が響いて、茂みから真っ黒い塊が飛び出してきました。
綱吉が夢にまで見たビロードのようなつやつやしたねこみみとしっぽがぴぃんと立てられています。
「え…? えええ!? きょーやさん!?」
綱吉は呆然としたまま、自分の腕の中に飛び込んできた小さな塊を抱きしめました。

「ちゃぁんといい子にしてた? あのね、かあさまが『専用の雲のリングも貰ったことだし、それ使って自分で作れば? なんかもう、めんどくさいや』っていうから、ぼく、がんばって『うき道』つくってきたよ!」
きらきらした真っ黒い瞳を輝かせながら、小さなヒバリはすりっと頬を摺り寄せてきました。

「…へ? う、うき、みち? きょ、きょーやさん、いったい何時イタリアに!? 白蘭のお仕事に一緒についてきたとかですか?」
へどもどしながら尋ねた綱吉に、子ヒバリはむうっと口を尖らせました。
「ちがうよ、ぼく、つなよしにとっても会いたかったから、自分で『うき道』つくってきたの!」
それだけで説明は終わったと思っているらしく、子ヒバリはにっこりと笑うと「いい子にしてたごほうびだよ」と綱吉の頬にちゅっと唇をくっつけてきました。
途端にでれでれと格好と崩した綱吉は「も、もうどうでもいいですー! あ〜ん、可愛いきょーやさん、会いたかったです〜!」と叫びました。
一体『うき道』とは何なのか、まさか一人でイタリアまでやってきたのか等々、そんな疑問は完全に頭から飛んでしまったのです。

子ヒバリは満足げに綱吉の栗色の髪を小さな手で撫でていましたが、「み〜」という、か細い鳴き声を聞きつけて、ぴくっと黒いねこみみを動かしました。
「いまの…?」
「あ、アディちゃん」
綱吉の背後に隠れるように蹲っていたアラウディが、首をかしげながらじっと子ヒバリを見上げて再度「み〜」と鳴き声を上げました。
途端に子ヒバリは弾んだ声で「おとーと!」と叫ぶと、するりと綱吉の腕から抜け出してアラウディの元へと駆け寄りました。

「おとーと、こんなとこに落ちてた!」
子ヒバリは地面に蹲ったアラウディの脇の下に手をいれると、よいしょっと持ち上げました。
「あ〜〜いやあの、アディちゃんは別に落っこちたわけでは……、って、きょーやさん、だ、大丈夫ですか?」
アラウディを抱いたままよろよろしている子ヒバリを見て、綱吉は思わずそう声をかけたのですが、当の子ヒバリは『おとーと』を発見してご満悦のようです。
満足げな顔つきで黒いしっぽをゆらりゆらりと揺らしていました。

「うん、だいじょうぶだよ。だって、あいかわらず、おとーと、ちっこい…」
アラウディはずるずると半分地面を引き摺られるような格好で運ばれていましたが、特に騒ぎ立てる様子も無く子ヒバリの腕の中でじっとしています。
「なんか…大きなぬいぐるみを引き摺ってる感じですね…きょーやさん……でもアディちゃん、嫌じゃないみたいだし…」
止めさせたほうがいいのか、放っておいたいいのか、どうしようかと無駄に側をうろうろしながら、綱吉はぶつぶつと一人呟いていました。

「じゃ、つなよし! おとーと届けてくるから、ちょっと待ってて。すぐもどってくるね」
そう言ってくるりと後ろを向いた子ヒバリの服の裾を必死で掴んで、綱吉は大慌てで叫びました。
「ちょ、ちょっとまったぁ! きょーやさん、アディちゃんをどこに連れていくつもりですかーっ!?」
子ヒバリはアラウディを抱いたまま、きょとんと瞳をまたたかせました。
「どこって、おうちに置いてくるよ? でないとまた、どっかいっちゃうからね」
「…いやあの……アディちゃんはですね…」
大いに困り果てた綱吉は、どう説明しようかと頭を悩ませました。
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