小説

□こっそり『ねこ』裏話 〜もっさん色々とやらかす〜
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「え!? あ、小僧」
いつからそこに居たのだろう、戸口の脇に黒スーツ姿のリボーンが立っていた。
フンと鼻を鳴らしながら、俺とアラウディの様子をボルサリーノの下から伺っている。
「さっきから何時までも小煩せー物音響かせて、一体何をしているのかと思ったら……」
はぁ、とため息をついた後、突然リボーンがにやっと意味深な笑いを浮かべてアラウディのほうを見た。
「なかなかどうして、こんな可愛らしい仔猫ちゃんとじゃれてたわけか。うん、悪くない」

アラウディは切れ長のそれこそ猫のような瞳をまん丸にしてリボーンを見つめていた。
興味を惹かれたのか、ふわふわしたねこみみがぴくっぴくっと動いていて、それが無性に可愛らしい。

「あー、えっと、イタリアのボンゴレ屋敷でちょっとだけ会ったよな? リボーンは、俺の師匠兼上司で…」
「おい、お前、さっきから聞いてたら色々と聞き捨てならんことを言っていたが、莫大な借金があるというのは本当か?」
俺の話を遮って、リボーンがアラウディに向かってちょいちょいと手招きした。
「え、う、うん…」
幾分戸惑いつつも、アラウディはこくりと頷いた。

…なんでこんなに素直なんだろう? やっぱりリボーンの人徳?
そういえば、今朝かいつまんで事情を説明していたけれど、アラウディの借金のことはリボーンに言ってなかったかもしれない。

「それがあるから、今後も見合い話が持ち込まれたら断れねーってか?」
アラウディはまたこくりと頷いた。
「なんだ。そんなくだらねーことで、ごちゃごちゃ揉めてたわけか」
リボーンは呆れた顔で首を竦めた。
「く、くだらないって…! くだらなくて、わ、悪かったね! 僕個人の事情なんだから、あなた関係ないでしょ、ほ、放っておいてよ!」
そう言って頬を染めて叫ぶアラウディを尻目に、リボーンはニヤッと思わせぶりに口の端を吊り上げて笑った。
「まぁそう尖がるな。いいことを教えてやろう。こいつ――俺の弟子の山本は、とても責任感が強くてな」
「…っ、せきにんかん…」
幾分弱々しげにアラウディが呟いた。
リボーンは気にも留めなかったのか、そのまま先を続けて喋り出した。
「そうだ。何だか知らんが、お前に仕出かした『不始末』の責任は意地でも取りたいと、やたら燃えているらしいんだな、これが」
「ふ、しまつ…」
「だからな、お前の借金とやらも、そんなに気に病まずに全部こいつに丸投げしちまえよ。こいつは好きで借金背負い込みたがってるんだから、ぽーんと任せちまえ。ぽーんと」
リボーンは側に来て俺の肩越しに、アラウディを覗き込むようにして囁いた。
「それに、もし万が一山本が甲斐性なしで払いきれなくなったら、この俺様がお前のことを買ってやってもいいんだぞ」
「…えっ?」
アラウディの瞳が更に大きく見開かれて、ふわふわゆらゆらしていたしっぽがぴぃんと硬直した。
しかしすぐにねこみみをぺたんと倒したアラウディは、しっぽを左右に振りながらむっとした表情でリボーンを睨みつけた。
「ふ、ふん。どうせそんなの、口だけだろ。僕の借金って、すっごく沢山なんだから! あなたに払えるわけ、無いよ」
「そう思うか?」
リボーンはアラウディの腰に腕を回して、俺からさっと引き離してしまった。
その動作があまりにも自然すぎて、俺は何も言えなかった。

「どれ、疑り深い仔猫ちゃんには、コレを見せてやろう」
そのままソファーにどっかりと腰を下ろしたリボーンは、アラウディをひょいと膝に乗せて懐から取り出したものをちらりと見せた。
いきなり抱き寄せられてびっくりして「ちょっと…!」と文句を言おうとしていたアラウディだったが、差し出されたものを見てがばっと身を乗り出した。
「こ…これ…すごい! 0がこんなにたくさん…!」
リボーンが見せたのは、どうやら銀行の通帳のようで、アラウディは夢中になってその残高を見つめていた。
「これは日本の銀行のだが、スイスにも口座があって、そっちのほうが残高は多かったかな。通帳は無いから見せられんがな。他には…ほら、これもある」
次に取り出されたクレジットカードを見て、またアラウディが歓声を上げた。
「ブラックカード! これって確か限度額が無いカードだよね? すごい! あなたってとってもお金持ちなんだね…」
うっとりした表情で、自分を膝に乗せている男を見上げている。
「そうだろう? もしも山本が遣り繰りに困ってにっちもさっちも行かなくなったら、俺がまとめて二人とも面倒みてやるぞ。なんといっても山本は俺の『弟子』だし、おまえさんはその『弟子』の可愛い仔猫ちゃんだろう? だから、黙ってこいつのこと『飼い主』にしとけ」
リボーンに思わせぶりに目配せされて、俺も慌てて口を開いた。
「あ、うんうん、そーなのな。なぁ、アラウディ。頼むから、俺のこと『飼い主』のままで居させて?」
しおらしげに彼の前で頭を垂れてじっと待つ。
アラウディはそわそわしつつ、俺のほうを何度も見ているようだった。

「しょ…しょうがない、ね。そんなにやりたいなら…やればいいんじゃない」
やがていかにもしぶしぶという風を装ってアラウディが口を開いた。
「ありがとうな、アラウディ!」
俺は満面の笑みでリボーンごとアラウディを力いっぱい抱きしめてしまって、アラウディには「な、何するのさ!」と憤慨され、リボーンからはニヤニヤと思わせぶりに笑われてしまった。
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