小説

□こっそり『ねこ』裏話 〜離れていくなら近寄らないで〜 その2
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こっそり『ねこ』裏話 〜離れていくなら近寄らないで〜の続き





「アディや、ほら、お家に着いたぞ」
優しく身体を揺すられて目を覚ました僕は、すっきりしていて晴れ晴れとした気持ちだった。

眠りに落ちる直前に、何か色々聞いたような気がするけれど――何だったっけ?
変わった夢を見ていたような気がするけれど、内容は全然思い出せなかった。


新しいお家は確かにとても素敵だった。
お洒落な洋館だったけれど、オーナーが日本びいきだとかで、内のつくりは靴を脱いで上がる日本式になっていた。
僕は今までが殆どをベッドの中で過ごしていて、靴を履いたままの生活に慣れなくて困っていたから、これはとても嬉しかった。
うん、スリッパのほうがいいね。靴はぎゅって締め付けられる感じがどうもね…。

周りには高い塀に囲まれた大きなお屋敷がいくつも見えて、どうやら高級住宅街らしい。
丁度裏側にもとても大きなお屋敷があって、いくら目を凝らしても全体が見えないくらい大きくて、お庭も見渡す限りどこまでも広がっていた。
その屋敷をじっと見つめていたら、おじいちゃまに「あそこはこの辺で一番のお金持ちのお屋敷でな、この家の管理もしてくれているし、警備もあそこにお願いしているから、後でご挨拶に行こうな」と言われた。


その後、おじいちゃまと上司の三人で色々と打ち合わせをした。
おじいちゃまは数日はここにいて、僕が慣れるまで一緒に生活してくれると言ってくれた。
本当のことをいうと、ちゃんと出来るかどうか少し不安だったので、ほっとした。

この家は社宅扱いなので、ハウスキーパーと食事は最初からついているそうだ。
ハウスキーパーは僕が出社している間に入るから、顔を合わせることは無いし、食事も外から専用の保冷ボックスに入れてくれるので、僕はそれを受け取るだけでいいということだった。
本当は全部自分で出来るようになるつもりだったけれど、社宅扱いだから全部セットなんです、と言われたら逆らってもしょうがない。
費用はお給料から天引きされるそうだし、僕は黙って言うとおりにすることにした。


お隣のお屋敷に挨拶に行くと、管理人(らしきひと)が待っていて、優しく微笑みかけてくれた。
生憎自分は多忙なので殆ど会うこともないかもしれないけれど、どうぞ自分の家だと思って寛いで快適に暮らして欲しい、不都合があったらすぐにここの警備部長に連絡して欲しいと言われて、僕は大きく頷いた。

都会のアパートメントでも一人で頑張れたんだもの、ここでもきっとやっていける。



翌日、打ち合わせどおりに上司のひとは車で僕を迎えにきてくれて、近代的なビルのオフィスに連れて行ってくれた。
そこで色んな訓練を行うと聞いていたので、期待と不安が半分ずつという感じでどきどきしながら足を踏み入れた。
訓練は多岐に渡っていて、しばらくは目も回るほどの忙しさだった。
その殆どが僕が今まで経験したことがないことばかりで、覚えるのは大変だったけれど、とても面白かった。

「貴方はとても優秀ですよ。こんなに覚えがいいとは、おじさんは上司としてすごく鼻が高いです」
ボスはそういって眼鏡ごしに僕を見てはにこにこ笑っていた。(ボスでもおじさんでも好きなように呼びなさいと言われたので、上司らしくボスと呼ぶことにした)
パソコンの画面をぽちぽちっとするのを教えてくれたのもボスだった。
犯人が逃走するときのルートを予測して割り出すシミュレーションのトレーニングがゲーム形式になっていて、僕はそのときに『パソコンがあったらぽちぽちっとしたらいいんだな』と覚えこんだ。

訓練は朝早くから午後2時ごろまでぶっとおしであり(小休憩はあったが)、その後帰宅してお昼ご飯、という体制だった。
訓練が終わっても勤務体制は変わらないので、今から慣れるようにと念を押された。
スペインやイタリアで多いシエスタという風習に添っているんだとか。
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