小説

□こっそり『ねこ』裏話 〜離れていくなら近寄らないで〜 その2
2ページ/12ページ




おじいちゃまは僕が生き生きと訓練に励んでいるのを見て、安心したと何度も繰り返し言って、数日後に島へ帰って行った。
「おじいちゃま、僕、今度おじいちゃまに会いに、島に行ってもいい?」
「うむ…。もちろんじゃとも、アディや。ただ、ちっとばかし海が荒いので、船酔いにならなければよいがの」
ふなよいって何だろう? と思って首を傾げた僕の頭を、おじいちゃまはぽんぽんと撫でてくれたのだった。


おじいちゃまが帰ってしまって、僕は本当のひとりになった。
別に心細いなんて思ってないけれど……お家の中は妙に寒々として物悲しい雰囲気な気がした。
がたん、という音がして一瞬びくっとなったけれど、僕以外居るわけが無いんだから、きっと風の音だろう。



このお家に越してきた時に、実は雲雀とびゃくらんが訪ねて来てくれたのだが、僕はすごく腹が立って酷い態度を取ってしまった。

「なに勝手に僕の住処に道開いてるの!?」
お家の土間に『浮き道』を開いてやってきた二人を思いっきり睨みつける。
「え〜? だってアディちゃんが一人暮らしするっていうからさー、僕らの所と自由に行き来できたほうが楽しいでしょ♪」
びゃくらんはそう言ってにこにこ笑っていたけれど、雲雀は僕の態度をみて眉をひそめた。
「なにさ。親切で道を開きにきてあげたのに、その態度は無いんじゃない」
どうせ自分じゃ開くこともできないくせにさ、と鼻でせせら笑われて、ますます意固地になってしまった。
「余計なお世話だよ! ぼ、ぼくだって道を開くくらい自分でできるもん」

真っ向から雲雀と睨みあっていると、「どうしたんじゃ、騒々しい」とおじいちゃまがひょっこり姿を現した。
僕はおじいちゃまの胸に飛びついて、不満を爆発させた。
わあわあ訴えながら、おじいちゃまの服をぎゅうっと掴んで雲雀から少しでも遠ざけようとした。
今はおじいちゃまは僕の、僕だけのために此処に来てくれているんだから。
いくら雲雀の(元)飼い主でも、今は僕だけのものなんだから!

雲雀はわざとらしいため息をつきながら、びゃくらんと顔を見合わせた。
「…しょうがないね」
「う〜ん、残念だけどしょうがないかなぁ」
二人は無言で頷きあった後、やれやれという表情を僕のほうに向けた。
「仕事関係でイタリアに一つ『浮き道』が欲しかったから、ここの道をついでに使わせてもらうつもりだったんだけどなぁ。残念だねぇ。アディちゃんの許可が下りないなら仕方が無いね」
「開けるのも面倒くさいけど、閉じるのもすごく面倒くさいのに。あ〜ぁ、余計な手間ばっかり増やしてくれちゃって」

二人の会話を聞いてすごく悪いことをしたような気になって、一瞬ごめんなさいってしようかと思ったけれど……僕は必死で踏ん張った。
雲雀みたいになりたいんだもの、ここで負けてられない。
おじいちゃまも「万が一のこともあるから、道は残しておきなさい」と諭してきたけれど、僕は頑なに首を横に振って更にぎゅっとおじいちゃまに抱きついた。

「恭ちゃんがここの庭が珍しかったみたいでさ、今外で遊んでるから、戻ってきたら帰るし……あとでちゃんと道を塞いでおくからさ。お茶くらい飲ませてよ、アディちゃん」
そう言われて、僕はしぶしぶという風を装って頷いた。
本当は二人に文句を言ったこと、もうかなり後悔してたけれど、今更前言撤回できないもの。

おじいちゃまの付き添いのメイドさんがお茶を振舞ってくれている間も、ずっと僕はツンと顎をそらしてそっぽを向いていた。
ギスギスした雰囲気の中、びゃくらんは全く気にすることもなく、相変わらずハイテンションで僕に「ね、アディちゃん、お見合いする気な〜い?」と言っていた。

その後雲雀たちは、戻ってきたおチビを抱き抱えて『浮き道』から帰っていった。
出入り口もきちんと塞いでいってくれたみたいで、良く目を凝らして見ないとどこに道があったのか全然わからないくらいだった。
尤も、完全に塞ぐのには大変な労力を要するので、応急処置的に蓋をしただけ、みたいな状態だったが。
意地を張った自覚があったので、僕も敢えてそこまで突っ込んで文句をいう気にもなれなかった。

でもあそこまで言ってしまったから、きっと二人はもうあの道は使わないだろうな、と思った。
.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ