小説

□こっそり『ねこ』裏話 〜離れていくなら近寄らないで〜 その3
1ページ/15ページ

こっそり『ねこ』裏話 〜離れていくなら近寄らないで〜 その2のつづき





「つまんないの」
僕はベッドに寝転んで頬杖をつきながらひとりごちた。
またお休みの日になったけれど、やっぱりおチビは布団の中に新しい小鳥のクッションを押し込んだ後、すぐに走り去ってしまった。
増殖したクッションたちを抱き占めながら、ころころとベッドの上を転がってみる。
小さいときの僕は、こうやってひとりっきりで遊ぶのに慣れていたけれど、今は――あんまり、楽しくない。

また一日不貞寝しようか、それとも思い切ってどこかに出かけようか、と考えていたら、ぱたぱたと軽い足音が響いてきた。
まさか…と思いつつ、毛布の中で丸くなっていたら、ひょこっと毛布が持ち上げられて、小さな黒い瞳が僕を凝視した。
「まだねてる」
若干呆れたように言われて、慌てて「寝てないよ!」と叫んで起き上がる。

「そう? じゃあもぐりっこしよう!」
おチビはそう言うと、ズボっと毛布とベッドの隙間に飛び込むように滑り込んだ。
このベッドはとっても大きくて――キングサイズというそうだ――毛布もそれにあわせて大きいから、端っこから端っこに移動するのは結構大変だ。
もこもこした塊が毛布の中を移動していくのを、上から捕まえようと飛びついたけれど、おチビはなかなか器用に毛布の中を移動していて、もうちょっとのところでするりと抜け出してしまう。

「まだまだだね」
「そんなことないよ、すぐだよ!」
おチビの黒いなめらかなしっぽがゆらゆらと僕の目の前で揺れる。
僕がそれを追いかけると、逆におチビのほうは僕の毛足の長いしっぽにじゃれつこうとしてくる。
お互いに潜ったり上から飛び掛ったり、散々ベッドの上を転がりまわって、最後には毛布の上で一緒に寝転んでくすくす笑いあった。


そのままベッドの上で毛づくろいをはじめてくれたおチビのしっぽを弄びながら、僕は思い切って口を開いた。
「最近、来てくれないね」
おチビはきょとんとした表情をして小首を傾げた。
「毎日みにきてるよ。だっておさんぽのついでだもん!」
「いや、それは分かってるけどさ…」
僕はむうっと膨れながらしぶしぶ頷いた。

確かにおチビは、毎日僕の寝室に寄ってはくれている。
ただ、本当に『おさんぽのついで』と言うだけあって、扉の隙間からちらりと中を確認だけすることが殆どだ。
もちろん僕だって、普段はお仕事があるからそのほうがいいんだけど…。

「今日はお庭に行かなくていいの?」
いつもなら僕の生存確認(?)をしたら、速攻お隣に駆けていってしまうのに、僕とこうやっているのは何故なんだろう。
「もう行ってきた」
「え? もう行ってきたの?」
「うん。でも急な『しゅっちょう』で昨日の夜からいないんだって。だからおさんぽ、もう終わり!」
おチビは澄ましてそう言うと、僕の毛づくろいを続行しだした。

おチビの台詞は主語が抜けていたけれど、お隣の『つなよし』のことだとすぐにわかった。

なんだ…。そうだったのか。
さっきまでのふわふわした気持ちが、心なしかしぼんでしまった気がする。
とっても気持ちがいい毛づくろい、してもらってるのに……僕、どうしちゃったのかな。

毛づくろいしてもらったら、次は僕からお返しをする番だ。
やっぱりほとんどしたことが無いから、僕はかなり下手みたいだけれど、今日は殊更丁寧に頑張った。
おチビは気持ち良さそうに瞳を細めながら「うん、大分じょうずになってきたよ。いい子」と髪を撫でてくれた。

このまま『つなよし』がずっと出張で戻ってこなかったらいいのに。
そんな意地悪なことを考えてしまって、ぶんぶんと首を横に振る。

「あのさ……明日は…その、また来てくれる?」
「だから毎日きてるよ!」
おチビは胸を張って偉そうに言い放った。
僕の寝室がおさんぽコースに組み込まれているのは分かったけれど、僕が言いたいのはそうじゃなくて…。
「いやそれはそうだけど、えっと…毛づくろい、明日もする?」
「んー」
おチビはくりっとした切れ長の瞳で、僕をじいっと凝視してきた。
「あなたがして欲しいなら、しにきてあげてもいいよ!」

……言い方が雲雀そっくり。すっごく偉そう。
――でも、すっごく可愛いや。

「べ、別にどうしてもってわけじゃないけど、その、お庭のおさんぽすぐ終わる…なら、…明日も……するかな、って…」
「考えとく! じゃあね」
丁度おチビの毛づくろいが終わったところで、彼はそう叫んでベッドからぴょんと飛び降りて、そのままぱたぱたと走って行ってしまった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ