小説

□こっそり『ねこ』裏話 〜雲雀さまは苦労性?〜
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★★★ご注意★★★
雲雀さまは白蘭とデキてますので、大変生ぬるいですがその手の描写があったり致します。ご注意下さい。
★★★R18★★★(期待するとがっかりする程度です)
『ねこ』じゃないもんっ!シリーズの番外編その6になります。





時々ムカつくほど生意気で、僕に無駄な対抗心ばかり燃やして。
「本当に、可愛げの無い子」
だからしょっちゅうそう言ってやるんだけれど。

アラウディは、まぁ……僕の身内だけあって、可愛くないことも…ない。







「ぼ、僕、一生かかっても返すから」
ムスっとした顔でそう訴えてくるアラウディに、僕はフンと鼻を鳴らした。
彼は今、夏季休暇で日本に遊びに来ている。
なんでも『自分の不注意で白蘭に莫大な借金を背負わせてしまった』ってことだったけれど…。

そんなもの、どうせあの人のうっかりが原因に決まってるじゃない。
真に受けて責任感じるなんて、バカじゃないの。(後であの人をとっちめて、締め上げなきゃ)

「煩いな。きみには関係ない。そんなコト心配してる暇があったら、もっと別のことに頭と時間を割きなよね」
僕としては、『気にしなくていいよ』っていうつもりだったんだけど。
アラウディは『どうせ責任も取れないくせに偉そうに』って言われたと思い込んじゃったみたい。
ものすごい形相で、『ちゃんとしたしゃかいじんなんだから!』とか『もう、いちにんまえだもん!』などと叫びだした。
……本当に、馬鹿な子。

「何が一人前さ。パートナーも見つけられない半人前のくせに」
「そ、それは…」
アラウディはぐっと詰まって黙り込んでしまった。
「自力で見つけられないくせに、あの人の持ってくる見合い話は端から断るなんて、ずいぶんお高くとまってるよねぇ」
「お、おたかくなんてとまってない! ちょ、ちょっと…気が乗らないだけだもん!」
「ふぅん。それじゃ、いつ気が乗るのか教えて欲しいもんだねぇ」
僕は呆れたようにはっとため息をついた。
…うーん、どうしてこの子は、こう…いちいち突っかかってくるのかねぇ。

「さっき『一生かかっても返す』とか殊勝なこと言ってたけど、きみの稼ぎなんてたかが知れてるじゃない。そんなはした金でどうやって返すつもりなのさ」
そう意地悪を言ってやったら、ぺたんとねこみみを伏せて真っ赤な顔で俯いてしまった。
「う…うう、う。ぼ、僕……ぼく…」
もじもじと足の指をきゅっと閉じたり開いたりしながら、必死で言い返す言葉を探しているみたいだ。


その時、僕の脳裏に素晴らしい案が閃いた。
白蘭は断られても断られても、しつこくしつこくアラウディにお見合いを勧めているし、しょっちゅう僕にも「ねえ〜雲雀ちゃんからもアディちゃんにその気になるように持っていってよ」と頼んでくる。
いい加減うっとおしいから、この辺でこの子がお見合い断れないように話を進めちゃおうかな。
今僕が畳み掛ければ、多分この子…自分からドツボにはまって、前言撤回できなくなるに違いない。


僕はふと思い出した風を装って、「そういえばあの人が持ってくるお見合いって……大富豪の話ばかりだよね」と呟いた。
アラウディは相変わらず下を向いたままだったが、ぴくっとねこみみが動くのが見えた。
うん、掴みは上々。
「アラブの石油王だとか、アメリカのラスベガスのカジノ王だとか、さ」
更にぴくぴくっとねこみみが動いている。
「ドバイの王族やハリウッドの大スターなんかも居たかなぁ…? どの人も超がつくくらいのお金持ちで、愛玩『ねこ』を100匹以上飼ってて、その上まだまだお金が余っているから、純血の『ねこ』もコレクションに加えたいだとか、そんな感じの話を聞いたような聞かなかったような…」
詳細はわざとぼかして曖昧にしておいた。
そうしておけば、後で『そう聞いたような気がしただけだからねっ』としらばっくれることができるしね。

さて、エサは撒いた。後は食いつくのを――待つだけだ。

僕は殊更意地悪い口調で、更に先を続けた。
「きみさぁ、いつまでもパートナー見つけられないんだったら、少しでも条件のいいヤツと見合いしてせいぜい高く買われなよこの役立たず」
案の定、アラウディはさっと顔色を変えて、すごい剣幕で叫びだした。
「分かったよ見合いすればいいんでしょ、見合い! 絶対すっごい大金持ち引っ掛けていっぱい貢がせてやるんだから!」

やった! 見事な食いつきぶりじゃないの。

内心小躍りしながら、表向きは『そんなの無理に決まってるくせに』という雰囲気をありありと出しておく。
「きみみたいな身体も弱くて力も無くて可愛げの無い子、ハーレム作って酒池肉林の脂ぎったバーコードはげ親父くらいしか貰い手がないよね」
ここまで言えば、きっと勝手にドツボにはまって、後に引けなくなるはずだ。

「脂ぎったバーコードはげ親父でもいいもん! すっごく高く買ってもらって借金帳消しにしてやるんだから!」
ふるふるとねこみみとしっぽを震わせながら、予想通りの台詞をアラウディが叫んだ。
「まぁ、精々頑張りなよ。ほら、丁度あの人が帰ってきたよ。早く頼めば?」
「わ、わかったよ、いってくるんだから!」
アラウディはいらいらとしっぽを振り回しながら、くるりと踵を返して部屋を出て行った。


ああ、面白かった。
僕は満足して障子をぱたんと閉めた。


実際のところ、白蘭が勧めているお見合い相手というのは、そんな偉そうな王族だのコレクターだのでは無い。
白蘭は愛玩『ねこ』のグッズ関連の総合商社を経営していて、テレビ番組のスポンサーもいくつかやっている。
その関係で出会ったという人物なのだが――妙に意気投合したらしく、以後は仕事を抜きにしたお付き合いをしている。
アラウディが『一人暮らし』をする際にも、持ち家を貸してもらったり、警備をバックアップしてもらったりと色々お世話になっているのだ。

僕が見る限り、気立ては良いし見目も麗しい。けっこうな資産家でもあるらしいし。
白蘭と意気投合してしまうような奇人変人ぶりがちょっと難点といえないこともないが、まぁ見合いなんて会ってみて嫌なら断ればいいだけなんだから、多少のことは問題にならないだろう。


『ねこ』という生きものは非常に貴重種なため、それを保護するための世界的規模の組織があるのだが(僕からしてみれば難癖ばかりつけてきてうっとおしい)、アラウディに関しては全くの放置状態だった。
飼い主をあてがうこともせずほったらかしだったのは、多分――無事成長できるとは思っていなかった…から、だろう。
結局おじいちゃまや哲が遠慮がちに飼い主候補をそれとなく近づける程度で、積極的な働きかけはほぼ皆無だったと言っていい。

アラウディ自身も極度の人見知りの上(多分本人に自覚は無いだろうが)、『自分はひとりで生きていける』と思い込んでいるものだから、白蘭が『イイ人いるけどどう?』って持ちかけても『パートナーなんていらないもん』と今まで見向きもしなかった。
でも『ねこ』というものは、本来愛されるべき生きものなのだ。
飼い主やパートナーに胸が痛くなるくらい可愛がってもらって愛されて、そして初めて本来の『ねこ』としての能力を開花させることができるんだから。
いつまでもそんな子供みたいな我が侭言わせて放置してるわけにはいかないじゃない。


このお見合がもし破談になったとしても、これをきっかけにしてアラウディが『パートナーを探す』気持ちになってくれれば、面倒が無くていいんだけどな。
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