小説

□こっそり『ねこ』裏話 〜雲雀さまは苦労性?〜
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唐突に『ぼ、僕、お見合い、してあげてもいいよ!』と言いだしたアラウディに、白蘭は大喜びであちこちに電話を掛け捲って浮かれていた。
「アディちゃんがその気になってくれて嬉しいなぁ〜♪ これは是非とも印象に残る素敵な演出を考えなくっちゃ♪」
そしてお見合いの日時もさっさと決めてしまい、アラウディの休暇申請まで出してしまった。
アラウディはすぐに後悔して取り消したいそぶりをしていたが、あまりの白蘭の浮かれっぷりに恐れをなしたのか「…うんとうんと、超がつくくらいのお金持ちにしてよね…」とだけぼそぼそと呟いていた。

それからのアラウディは、まるで借りてきた猫みたいにおとなしかった。
僕に突っかかってくる回数も激減して、縁側で頭に小鳥を乗せたままため息ばかりついている。
唯一、恭が遊びに誘いに来た時だけ、若干嬉しそうにしっぽを振って一緒に行動していた。


…うん、お灸が効いているみたい。
おとなしくて扱い易くなってくれたから、僕としては大いに満足だ。

最近の彼はちょっと生意気すぎる。
イタリアと日本じゃ離れているから何かと不便だろうとわざわざ『浮き道』を開いてあげたのに、アラウディは「なに勝手に僕の住処に道開いてるの!?」と地団駄踏んで怒り狂った。
まぁ想定内といえなくもない行動だったので、僕と白蘭はあまり無理強いをせずにさっさと道を閉じたのだけれど……。

『仮閉め』状態だった『浮き道』に勝手に隙間を作って、恭が毎日の『おさんぽ』に通うようになったのには少々驚かされた。
それに、別に頼んだわけでも無いのに、勝手にアラウディの様子を毎日のように見にいってくれている。
まぁ、さすが僕の血を引いているだけのことはある、生きものとしての性能が違うということだと、見てみぬ振りをすることにした。


「あのひと、楽しそうに窓にはさまってあそんでたよ」
これは初日に唐突に恭が報告してきた内容だ。
「……はさまって遊んでたの?」
「うん。ずっと手足ふりまわして、じたばたしてておもしろそうだった」
「へぇ。………で、他には?」
多分『遊んでいた』わけでは無いんだろうな…と思いつつ、僕はさりげなさを装って、先を促した。
世間知らずのアラウディのことだから、それだけで済んでいるとも思えない。
「ん〜〜〜。あのね、ないしょ」
恭は真っ黒な大きな瞳を瞬かせて、おっとりと答えた。
「いわないって、やくそくしたから!」
そう言って、ぱたぱたと黒いしっぽを揺らめかせながら走って行ってしまった。

いや、それって……『他にも何かやらかしてた』って言っちゃってるも同然なんだけど。

後で保安部から上がってきた報告書には『バスルーム及び二階の廊下部分浸水のため補修清掃』と『窓枠の蝶番の不具合により開閉部修繕』の文字が見えた。
―――なるほどねぇ。


その後もアラウディは何かと色々とやらかしては、たまたま『おさんぽのついで』に寄った恭に発見されて事なきを得ているようだった。
一瞬あまりのアラウディの生活力の無さに、草壁がしきりと心配してはフォローする人間を増やそうかどうしようかと相談してきたが、このまま恭に任せてしばらく様子をみることにした。

そもそも草壁はアラウディに対して過保護すぎる。
草壁は表立っては何も異論を唱えることは無かったが、白蘭がお見合いを熱心に勧めるのを内心あまり良くは思ってない節があって、しきりと『パートナー』では無く『飼い主』を勧めていた。
「あの方はまだまだ幼いですから、もっと素直に甘えることができる飼い主をですね…」
そう言うわりには、積極的に飼い主候補をアラウディに勧めるわけでもなく、実に控えめに(例えば家庭教師という名目で)会わせてみたりする程度だった。

アラウディが『社会人として』(おかしすぎて鼻で笑うレベルだと密かに僕は思っているが)ひとりで生活するにあたっても、草壁は自分の部下たちの中から信頼できる者を2名、アラウディと同じ職場に『ねこ』仲間のコネを使って半ば強引に送り込んでいた。
護衛としてだけならもっと腕の立つ部下たちがたくさんいたが、草壁が選んだのはほどほどの腕の持ち主で、ほどほどに容姿が整っていて――そして穏やかで気立ての良い者たちだった。
どうやらアラウディが『飼い主』に選んでも良い、と思えるような相手を厳選したらしい。

パートナーを決めようと見合いの話が出ているくらいなのに、今更飼い主も何もあったものじゃないし、そんなに回りくどいことをしたって、あの世間知らずで鈍いアラウディに通じるわけがないのに。
あの子には強引に押し付けるくらいが丁度良いのに、と僕は思っているが……敢えて口を出す気もさらさら無いので、草壁の好きにさせておいた。
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