good night☆

□第一章 出会い
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青い空、白い雲、そこら中で鳴いている蝉の声がまるで暑さで苦しそうに泣いているようだった。
あ・・私、騙されたんだ・・。それが私の人生の恋の始まり。
2番目の恋は、体格がよくて歌が上手くて、顔は決していい方ではないけど初めて優しく接してくれた人。興味本位で始めた出会い系サイトで知り合い楽しく付き合っていたけど、やはり理想と少し違った。「ごめん、好きな人できたから」
3番目の恋は、街中で偶然道を聞かれた事から始まった。スタイルがよく、髪は少し天パーでスーツがよく似合い、顔は堀が深く目がパッチリの好青年だった。メールをしても毎回の返事は2日後。電話を入れてみる。
 「仕事で忙しいんだよ」
 「仕事って、メールぐらい入れる時間はあるでしょ?もういいよ、好きな人できたから」
4番目の恋は同じ学校に通う同級生でバスケ大好きな明るいやつだった。初めて同じ年と付き合うという事で話も合うので何もかも新鮮だった。誰にも渡したくなかった。ずっと見ていてほしかった。今までにない以上に恋焦がれていた。メールや電話の相手、彼がいない時の行動まですごく気になっていた。自分がいない所で他の女と会っていないかすごく、すごく不安だった。それは過去の恋愛経験を通じて人間不信があったという事実からだった。自分から自分の気持ちを直接聞けない臆病者で、いつも自宅のマンション近くの浜辺で一人考え事をしていた。ただ普通に幸せな恋がしたかった。嫌なら嫌とはっきり言えばいい。影での行動や突然の音信不通が怖くて自分でしっかり人を見極めておかないとと思ったその行動が自分を苦しめることになるとは・・。
 「お前のその気持ちが重い・・。そうやって泣いているけどもう抱きしめてやることは出来ないから」
 今までで一番辛い別れだった。こんなにハッキリとふられた事はなかったから・・。ただ、今まではショックの方が大きかったけど今回の行動は自分が悪かったという気持ちが伝わったので思いっきり自分を責めた。自分が空回りしているだけだったのだ。私はただもっと甘えてもらいたかった。もっと構ってほしかった。もっともっと振り向いてほしかった。少女漫画に出てくるような恋・・そういうのに憧れていたのは事実だがそれはただの欲張りだっただけなのかもしれない。付き合い始めて一年、一番長い恋だった。「気持ちが重い」その言葉が胸に刺さったまま離れることはなかった。クラスの皆で来ていたカラオケルームの地下の踊り場で告げられた別れ。私の恋はすべて夏に終わっていた。

 また夢か・・。彼と別れてだいぶ時間はたっているのに時々思い出すことがあった。今日から高校生。新しい自分を作っていこうと気持ちを切り替える事にした。
 町の中心から少し離れた所に田んぼや茶畑があり、その間を流れている小さな小川に架かる橋を渡り、桜が沢山咲き乱れる坂を上るとその学校はあった。『希輝(きき)学園』ある程度の金持ちが通う学校。私は寺の娘だけど、大企業の家みたいにみんなが想像するほど贅沢でもなかったが貧乏でもなかった。父は七十二歳、母六十三歳、姉三十九歳、兄三十五歳、私十五歳。年が離れた妹だったからかすごく可愛がられて育った。高校入学を期に初めての一人暮らしをすることになった。両親は初めは近くの高校を進めていたけど、どうしても地元にいては今までの自分から解放されない気がして窮屈だった。自分を変える為に新しい環境で生活してみたいという私の熱意でとうとう両親は折れたのだった。見知らぬ土地での生活の不安はあったけどこれから待っている新しい学園生活の歓楽感はあった。

 学園の体験入学には一度来たことがあったけど広大な土地のキャンパスは再び私を圧倒させた。学園の正門を過ぎるとキャンパス内はまるで林みたいに無数の杉の木が植えられていた。真っすぐ林を抜けるとその一本道の左右にグラウンドが広がっており、奥の正門近くに隣接してテニスコートがあった。私は見なれないこのような広い土地の学校に見とれながら中高それぞれの正門がある手前の分かれ道まで歩いていった。
 「君、新入生?高等部はこっちだよ」
 いきなり肩を掴まれてハッとした。左に進むと中等部、右に進むと高等部の正門があるがどうやら中等部の方へ入ろうとしていたらしい。高等部の制服を着ていた私が入っていくのを見て引き止めてくれたのだった。肩を掴まれた方を振り向くと、少し茶髪で形が寝起きかというくらいクシャッとなっていて、小顔で背の高い男子生徒がいた。
 「あっすみません。広い土地にボーッと見とれていて・・」
 私は恥ずかしくなって慌てて下を向いた。
 「顔、赤くなってるよ?君新入生だよね。名前は?」
 私の慌てぶりを見てその男子生徒は笑っていた。
 「有馬美優です」
 「俺、結城圭輔3年。案内するからついてきて」
 結城先輩は私の歩幅に合わせ時々後ろを振り返りながらゆっくりと歩いてくれた。高等部の玄関まで来て「ここが1年生の靴箱だよ」と教えてくれた。
 「ありがとうございました。助かりました」
 私はそう言って頭を下げた。
 「結城くんまた寝坊ですか?入学式の準備始まっていますよ」
 体育館の方からパーマのかかった髪の長い気品高い女子生徒がやってきた。
 「この新入生を案内していたんだ」
 私はその気品高い奇麗な先輩にペコリと頭を下げた。先輩は「あなたも早く教室へ行かないと遅れますよ」と優しく微笑んで言った。
 「道間違えないように気をつけるんだよ」結城先輩と女子の先輩は急いで3年生の教室へと向かって行った。優しい先輩達だったな。
 一学年に教室はAクラスからEクラスまでの五クラスに分かれていた。クラス分けはAクラスを頭に成績順で決まるのだけど、私はそのAクラスの教室へと入った。教室内はざわざわしており、本当にこの人たち頭がいいのかというくらい小学生みたいに楽しそうに騒いでいた。その時2人の女子が来て声をかけられた。
 「おっはよ〜。今日からやっと同じクラスだね美優!」
 ストレートで髪の長い元気な彩水優菜。もう一人は肩までの長さの黒い髪でおちついている新沢小羽。
 「おはよう!2人とも同じクラスだったんだね」
 「中学の時から一緒だったもんね〜小羽」
 「そうそう、ずっと2人で美優が編入してくるの待ってたんだよ」
 私が希輝学園に来たかった理由はもう一つ、2人がいるからだった。小羽は私より少し生まれが早い父方の叔父さんの娘、つまり従姉。優菜は私が小さい頃扁桃腺で入院していた時に病室が一緒で仲良くなった女の子。私だけ中学は別に通っていたが高校進学を決める時に偶然同じ学園で同じクラスの2人からこの学園に誘われたのだった。丁度家を出たかったし、どうせなら仲良い子の所へ行きたいと思った。2人は中等部から持ち上がりで入ってきている。他の生徒も大抵はそうだからみんなとても仲がよかった。編入生なんて学年全体の1%ぐらいでとても受験は難関だった。その中でのAクラスだったからとても奇跡に近かった。他にAクラスの編入生は2人いるけど、私達の為にBクラスに降格した在学生もいた。結構難儀な学園だ。しかしみんなその事は承知で誰も悲しむ者はいず、逆に私達を歓迎してくれた。
 「俺、南優輝。優菜達の友達?」
 黒髪でさわやかな男子生徒が声をかけてきた。
 「そうよ。かわいいでしょ〜」
 と、優菜は私をギュッと抱きしめて頭を撫でた。
 「仲良くしてね」
 小羽は微笑んでいた。
 南くんはたった今教室に入ってきた男の子に向かって声をかけた。
 「おーい、大翔こっちこい」
 身長が低くてスポーツバッグを持っている男子に南君が声をかけた。
 「こいつは高木大翔。俺の相棒だ。弟みたいでかわいいだろ〜」
 南くんはそう言いながら頭を撫でていた。
 「子供扱いするなっつったろ!馬鹿!」
 恥ずかしそうにそう言いながら高木くんは南君を避けていた。それを見ていた周りのみんなが笑っていた。
 「有馬美優、よろしくね」と私が挨拶すると
 「おぅ」と一言だけ言って席へと戻って行った。 
 「ほぉぅ、今年の新入生は元気だな。ほらお前ら席つけー」
 担任らしき先生がそう言うとみんなざわめきながらも席へとついた。
 「今日からA組担任の八城健太郎だ。よろしくな」
 背がとても高く、少しネクタイを緩めた紺色のスーツがよく似合っていて、年は二十代後半ぐらいの若い男の先生だった。何人かの女子が小声でキャーキャーと騒いでいた。
 「みんなも知っていると思うが、この学園は高等部でも成績順でクラス分けされる。せっかく仲良くなるなら2年でBクラスに落ちないように頑張れよ」
 「あたり前だろ、Aクラスは可愛い子だらけだし」南君が言った。
 「南優輝、中等部でサッカー部のエースだったな。俺はお前のファンだ」
 八城先生がそう言うとクラス中がドッと爆笑した。
 馴染みやすいクラスでよかった。私はすぐにこの雰囲気にとけこんでいった。

 入学式が終わって、放課後は優菜と一緒に部活動見学をした。優菜は中等部からテニスをやっていて、全国大会に出るほど強かった。昔同じ病院に入院した事があったけど私と同じで扁桃腺が腫れていた。風邪をひいた時は大変だけど普段はスポーツ大好きで誰にも負けないくらい元気だった。テニスコートの真横のグラウンドはサッカーコートになっていた。南君はサッカー部に交じって早速練習を始めていた。
 「そう言えば南君、中等部でサッカー部のエースだったんだよね」
「そうそう、もう超カッコイイんだから」
 優菜はテニス部よりもサッカー部の方に目が夢中になっていた。優菜、南君の事が好きなんだね。そう思いながら暫く2人でサッカー部の練習を眺めていた。
 私は家庭科部に少し興味があったが、一人暮らしということもあって部活は大変と思い入るのは諦めた。

 家に帰る途中スーパーへ寄り、晩ご飯と明日からのお弁当の材料をまとめ買いした。今夜は肉じゃが。私は肉じゃがと卵焼きが一番の得意料理だった。家に帰り洗濯物を取り込み、シャワーを浴びて夕食の支度をした。いつも母の家事を手伝っていたので一人生活はそれほど苦労していなかった。食べ終わると入学早々始まる課題テスト勉強にとりかかり、翌日の準備をしてから就寝した。不安と期待の学園生活、楽しかったクラスの雰囲気、明日からの生活が楽しみで仕方がなかった。カーテンの隙間から漏れる月の光が青白く光り、カーテンを少し開くと無数の星がこれから起こる幾つもの希望の光のように明るく瞬いていた。

つづく。

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