good night☆

□第一章 出会い vol.2
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入学後に行われる課題テストが終わり、次々と答案が返ってきた。廊下に張り出されている学年順位発表には一位・新沢小羽とあった。小羽、頭いいんだ・・と感心しながら自分の数学の答案を確認した。苦手分野のわりには88点と結果は悪くはなかった。
 授業後の八城先生が、昼休みに生徒会室へ来るようにとの事だった。テストの結果が悪かったわけでもないし、何だろう・・。美優は不思議に思った。
 昼休み、優菜と小羽と3人でワイワイとお弁当を食べた。昔の思い出話、中学の時の体験談で盛り上がった。途中、南君と高木君も中に入ってきた。
 「有馬って一人暮らしだろ?それ自分で作ったの?」
 高木君が私のお弁当を見ながら聞いてきた。
 「そうだよ」
 「美優は料理が上手だもんね〜。部活帰りにたまにご飯食べさせてくれるんだよ♪すっごく美味しいんだから。あぁ、美優が私の奥さんだったらいいのに・・」
 優菜は神様に祈るように自分の両手をギュッと握り、妄想していた。
 「そうそう、美優は家事全般何でも出来るもんね。しっかりさんなんだよ」
 まるで私が小さい子のように頭を撫でながら小羽が言った。
 「俺は大翔を嫁にもらいたい」
 南くんが高木君の肩を組んで冗談を言っていた。「俺の所へ来るか?」
 「冗談言うなよ。男には興味ねぇってば」 高木君はくっ付くなと言わんばかりに南君を向こうへ押しやっていた。周りのみんなが、また優輝の病気が始まったとおもしろがっていた。

 昼食を済ませた後、生徒会室で待っている八城先生の所へと向かった。校舎3階の隅にあり、グラウンドが一望できる校舎の中で一番見晴らしがいい所だった。中へ入ると八城先生が待っていた。
 「おぅ、わざわざ呼び出して悪かったな」先生は暑かったのか、ジャケットを脱いで真っ白なシャツの腕をまくりあげていた。
 「いえ、ところでどういった御用件ですか?」
 窓際に立っていた先生の所へ私は向かう。日当たりのよい窓際は春の日差しが心地よかった。
 「あぁ、単刀直入に言う。美優、お前生徒会の書記やってみないか?」
 先生は窓際に設置してある背の低い棚に寄りかかり、腕を組みながら私を見つめて言った。
 「え・・なぜ私が?」
 「お前、テストの答案の字がすごく奇麗だったからな。とても印象に残っているんだ」
 「でも、そういうのって周りの人の推薦で決められるものでは・・」
 「立候補する事も出来るんだぞ。この場合は顧問の俺様からの推薦って事になるがな。まぁ無理は言わないが」
 「わかりました。やらせてください。私、やりたいです」
 人から頼られるのがすごく嬉しかった。
 「そうか!ありがとな、美優」
 先生は嬉しそうにそう言って私の頭をクシャッと撫でてきた
 私は何だか恥ずかしくなって下を向いてしまった。
 「あ、あの、失礼します!」
 そう言って私は生徒会室を出た。ビックリした・・。男の人に頭撫でられるのどれくらいぶりだろう。少しドキドキしていた。ダメ・・私は暫く恋はやめようと考えていたのに。今までいい終わり方をしたことがなかったので今の私としては人を好きになるのは少し勇気がいる事だったのだ。
 角を曲がると2階へ降りる階段の隣に図書室がある。そこから結城先輩と入学式の朝に会った女子の先輩が出てきた。二人はとても仲がいい雰囲気だった。
 「あら、あなたは・・」
 どこかのお嬢様っぽいその女子の先輩が声をかけてきた。
 「この前は有難うございました」
 私はペコリと頭を下げた。
 「高等部の生活はもう慣れた?」
 結城先輩が優しく微笑んで言ってきた。
 「はい。私、高等部からの編入生でこの学園事態初めてだったんですがもう迷っていません。近道もわかるようになりました」
 「それはよかったわ。私達はあと一年しかこの学園にいれませんけどあなた達はこれからですわ。素敵な学園生活を送ってくださいね」
 とても艶のある奇麗な落ち着いた茶色の巻き髪は仄かなローズの香りを漂わせていた。「では失礼」
 そう言って去っていく。
 「あの」
 私は一瞬結城先輩とは何でいつも一緒にいるのかという失礼な事を聞こうとした。
 「すみません、何でもないです」
 「私は秋庭結華と申します。何かあったらいつでも声をかけてください」
 秋庭先輩は優しい笑顔で微笑みながらそう言って3年生の教室へと帰って行った。

 「美優どこ行ってたの?」
 隣の席の小羽が5限目の国語の教科書を引き出しから出し、図書室で借りてきた『私の弓道人生』という本を開きながら聞いてきた。
 「生徒会室。八城先生に生徒会の書記やらないかって・・」
 ふとまた八城先生の事を思い出したら恥ずかしくなってきた。
 「よかったじゃない。美優は字がすごく奇麗だから、きっと八城先生が認めてくれたんだよ」
 小羽は授業が始まるまでたまに読書をしているけど、急に読むのを止めて私の会話に耳を傾けた。「それでどうしたの?断ったの?」
 「ううん、やりますって言ったよ」
 「そう。美優、実は八城先生に恋でもした?」
 急な質問に驚いた。小羽は満面の笑みで私を見ている。
 「えっ、そんな・・。だって私暫く恋は止めておこうと思っていたのに」
 私は慌てた。小羽は勘がいいからすぐ顔に出る私の態度をどうやって隠そうと考えたが遅かった。
 「フフッ顔が赤いよ。まぁ美優の事情は知っているけど、自分の今の素直な気持ちが大事だと思うよ。自分の気持ちに嘘ついてちゃ人生楽しめないと思うんだけどな」
 小羽はいつも私が言ってもらいたい事を言ってくれる。小羽は恋してるのかなぁ・・?
 「小羽は好きな人いるの?」
 「いるよ」
 素直に笑って答えた。
 「好きっていうよりも、私の目標で・・憧れかな。もう引退したけど弓道部の先輩」
 「えっ誰!?」
 小羽にそう思える人がいるなんて聞いたことがなかった。
 「どんな人?」
 小羽は何だか嬉しそうに『私の弓道人生』の本を手に取りながら答えた。
 「去年は個人で全国優勝もしているの。まるで弓道やっているという人柄ではないんだけどね。とても人を見る目があって、人の悪口を決して言わない人。とても気品高くて礼儀正しくて奇麗で女子なら誰でも憧れる先輩だと思うけどな・・」
 私はその先輩に見覚えがあった。まさか・・「もしかして、秋庭先輩の事?」
 「そうだよ。男子よりもすごくかっこいいんだから。美優、秋庭先輩知ってたんだ」
 「うん。入学式の日に結城先輩という人に靴箱まで案内してもらってその時に秋庭先輩が来て挨拶して・・さっき図書室から秋庭先輩と結城先輩が一緒に仲良く出てきたところを偶然出会って少し話したんだけど・・あの二人いつも一緒にいるよね」
 「そうね、だってあの二人婚約してるみたいだから」
 「えー!どうりであんなに仲がいいわけなんだ・・。でもまだ高校生なのに?」
 「キンコンカンコーン」5限目の本鈴がなった。
 「秋庭先輩は社長令嬢でね、結城先輩は病院の息子。二人とも幼馴染で二人の両親も結婚させる気でいるみたいよ」
 小羽は『私の弓道人生』の本をカバンにしまった。
 「小羽、私小羽の気持ちわかる。秋庭先輩はとてもいい人だよ」
 「ありがとう。と言う訳で私、今は男子よりも先輩に夢中なの」
 小羽は国語の松谷先生が教室へ入ってきたので号令をかけた。「起立、礼」
 まるで私はライバルじゃないからというような言い方だったが、私には実際八城先生の事が好きかどうかはまだわからなかった。たしかにあんな美形の先生にありがとうと言われて頭を撫でられるとドキッとするけど、もう自分だけ空回りはしたくなかった。恋に夢中になっている時の突然の別れは私にとって大切な人が亡くなった時のような心境と同じだと感じていたから・・。失うのが怖い、ただそれだけ。今の私が恋をするにはもう少し時間がかかりそうだ。・・と思っても、実際恋って何だろうと考える自分もいた。男性の気持ちが読み取れない鈍感な私は知らず知らずの内に相手を傷つけてしまうのが怖い・・っというのが一番の本音だった。あ、私書記をやると言ったのに詳しい話まだ聞いてないや・・。

 放課後職員室へ向かう途中で八城先生に会った。先生は「あーっ!」と言って私の所へ寄ってきてもう逃がさんぞと言わんばかりに腕を掴んできた。
 「さっきは途中で出ていくから今後の予定の事言えなかっただろ?」
 「すみません」
 先生の行動にドキドキしていましたとも言えず、目を合わせるのも恥ずかしかったので思わず下を向いてしまった。
 「今度は逃がさんぞ。今から仕事だから生徒会室行くぞ」
 自分の顔が赤くなっているのはわかっていた。先生はそれに気付き、私の顔を見て笑っていた。
 再びあの日当たりのいい生徒会室へと入ると、男子生徒が一人大量のプリントをホッチキスで留めている姿があった。この人入学式で見た事がある・・。黒くサラサラの短髪でメガネをかけている。
 「先生その子は?」
 その男子生徒は作業を続けながら言った。
 「書記の新人さん♪」
 先生は私の肩に手をポンと置いて私を紹介してくれた。
 「美優、こっちは生徒会長の広瀬蓮、二年だ。こいつは頭もいいがスポーツの成績も最高なんだ。ファンクラブもあるからお前入っておくか?」
 先生は広瀬先輩を見てニヤニヤ笑っていた。
 「先生、俺は柔道一筋ですよ」
 広瀬先輩は困ったように溜息交じりで言った。
 「有馬美優です。宜しくお願いします」
 「よろしく。あと一人副会長がいるんだけど今入院してて欠席だからまた紹介するよ」 
 広瀬先輩は控えめな笑顔で挨拶した。ファンクラブがあるなんてみんなの気持ちがわかる気がする。美形で頭がよくてスポーツ万能でみんなが惚れないわけない。その前にこの学園は美男美女が多かった。贅沢な所に来ちゃったな・・。
 「とりあえず、生徒会役員は会長、副会長、書記、そして顧問の俺の4人だから。各クラスは学級委員がまとめてくれて意見があれば生徒会に言ってくるという仕組みになっている。大勢いたらまとまらないしうるさいから少人数でという俺様の我儘だ。人数がいないから仲良くな」
 そう言って先生は私にホッチキスを渡した。
 「普段の集まりは月曜水曜金曜。イベント事で忙しくなったら毎日生徒会室へ来るんだ。それでお前は意見を書面でまとめる仕事と俺の秘書をやってもらう」
 秘書?「先生の秘書って何やるんですか・・?」
 私は広瀬先輩と一緒に体育大会のスケジュールがまとめられたプリントを重ねてホッチキスで留めていった。
 「あんな事やこんな事(笑)」
 先生が意地悪そうに口端を引き上げて微笑んでいた。
 すると広瀬先輩が先生の代弁をしてくれた。
 「書類を職員室へ持って行ったり、他の人から先生への伝言を受けたり、先生の伝言を伝えたり・・他雑用的な仕事。難しい事はないけど、この学園は忙しい先生は指名する生徒を一人秘書として雇っているんだ。先生、真面目に答えないと不安がるだろ」
 「ハハッ。広瀬は俺の性格わかっているから真面目じゃなくてもいいんだ(笑)。時と場合によってはな。それに、こいつの反応が面白くてついな、すぐ顔に出るんだ」
 そう言って私の頭をポンポンと軽く叩いた。
 「ほら、また赤くなった」
 先生は嬉しそうに笑っていた。
 「美優ちゃんごめんね。悪い人じゃないんだけど・・からかうのが好きみたいでさ。俺もいつもやられる」
 コソッと広瀬先輩は言ってきた。
 「でも、何だか頼もしいですね。私頑張ります」
 私がそう言うと広瀬先輩はフッとまた微笑んでくれた。
 突然ガラッと入口のドアが開いた。「八城先生!広瀬先輩!私の今日の試作品食べてみて下さい」
 金髪でフワフワエクステをつけた色白の可愛い女の子は一瞬こっちを見たが、八城先生と広瀬先輩にクッキーの試作品を配った。「先生、この子は?」
 金髪の女子生徒はこっちを睨んだようにも見えたけどすぐ笑顔に戻った。
 「今日から書記をやるA組の有馬美優だ」
 「ふぅん、私は綾瀬千夏、B組の家庭科部。よろしくね有馬さん」
 そういって可愛らしい笑顔で挨拶して部室を出て行った。でもどこかその笑顔には違和感があった。

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