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□たまには君の口から*
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後ろからそっと抱きしめて、結い上げられた髪に唇をあてながら、綺麗な髪だと囁く。
急に何をするのかと咎めるような彼女の視線をよそに、
バレッタに手を伸ばすと、
カチッという音がして、
きつく束ねられていた髪は重力に従って肩にすとんと落ち、ほのかに良い香が漂った。
髪をすきながら、彼女の首筋に顔をうずめると、
くすぐったいと彼女は身をよじって私に抗議の声を上げたけれど、
聞こえなかったふりをして首筋に口づけ、うなじに唇を這わせていくと、
彼女はぴくんと身を震わせた。
彼女のお腹に添えていた腕を少し上に移動させて、
彼女の胸の膨らみにそっと触れると、彼女の口からは僅かに甘い声が漏れる。
「この先をしても?」
彼女の耳元でそう尋ねると、
彼女はこちらを振り向いて、野暮なことを聞くなとさも言いたげな様子で、
「そのようなことを…………わざわざおっしゃるのは大佐のご趣味ですか?」
と、返してきた。
「いや、一応君の意志を確認しておきたくてね」
自分からここまで焚きつけたくせにわざとその先をするかどうか確認するなんて、悪趣味ですよという視線を送ってくる彼女ににっこりと微笑む。
「どうせ……駄目だと言っても結果は同じなのでしょう?」
いつものように…と付け加えながら、彼女ははぁっとため息をついた。
「さて…どうかな?」
そう答えてこれから先の展開は君次第だと彼女に促す。
我ながら本当に少し悪趣味かもしれないなと思いながら。
「どうして…
今日はこんなことをわざわざ聞くんですか?」
「君も私に欲情していれば嬉しいなと思って。
君が単に私に流されてするのじゃつまらない…」
欲情という言葉に彼女の顔はかぁっと赤くなる。
「欲情なんて…っ!」
「君はしていない?私は君の髪に触れた時から君に欲情しっぱなしなのだがね…」
再び彼女の髪を弄びながら彼女に顔を近づける。
「そんなこと…っ」
「恥ずかしくて言えない?」
彼女は黙ったままだった。
「じゃあ、この先には進めないなぁ」
そう言って彼女から顔を離す。
すると、
彼女は私の袖を控え目に掴んできて、
「大佐は……それで平気なんですか?」
と、顔を俯かせながら呟く。
「平気だと思うかね?」
そう言って苦笑いした私に彼女はゆっくりと左右に首を振った。
そんな彼女がいじらしくて、もう一度彼女を抱き寄せて耳元に口を寄せる。
「君も、私に欲情している?」
彼女がはい…と小さな声でそれを肯定した瞬間、私はよくできましたと彼女に口づける。
「じゃあ、ご褒美に続きをしてあげよう」
言いながら満面の笑みを浮かべる私に、
彼女は真っ赤な顔をして、
ずるい人…
と一言呟いた。
(たまには君の口から
そういう言葉が聞きたい…)