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□夜、帰り道の雨宿り
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たまに、彼女と帰りが一緒になることがある。
そんな時は決まって彼女と並んで歩く。
(彼女はこれにあまり乗り気ではないが、そこは上官命令であくまでも押し通す)
並んで歩いていると、
仕事での移動の際はいつも私の数歩後ろを歩いているため視界に入らない彼女の姿も、
この時ばかりは横目に見ることができて少し嬉しい。
わざとゆっくり歩きながら端正な彼女の横顔をちらりと盗み見たりすることや、人混みの中で互いの肩がそっと触れあったりすること…。
そんなことが彼女と一緒に帰る時の私の小さな楽しみだった。
しかし、今夜は久しぶりに彼女と一緒に帰れる夜だったというのに…、
途中で降り始めた生憎の雨で、私のささやかな楽しみはお預けになろうとしていた…。
「びしょ濡れですね、大佐」
「そういう君だって」
突然降り始めたにわか雨に雨具を持たない私たちは、
びしょ濡れになりながら近くにあった店の軒下に駆け込んだ。
「私は濡れても支障はありませんが、
大佐はびしょ濡れになると無能になるじゃないですか」
バレッタを外し、濡れた髪を手で軽くしぼりながら彼女は言う。
「無能って……。君ねぇ…、びしょ濡れになって困るのは私だけじゃないぞ。
中尉はシャツが濡れたせいで背中が透けて見えてる…」
濡れたシャツの張り付いた彼女の背中では、ケロイドの混じった焔の錬成陣がうすく透けていた。
彼女は何も言わずにシャツの上にバックの中から取り出したカーディガンを羽織る。
「やれやれ…。この様子だと、小降りになるまで待つしかないな」
言いながら濡れた髪をかきあげる私に、
彼女は、そうですねと落ちてくる雨粒を見上げながら答えた。
シャッターの下ろされた店の前で雨宿りする私たちの間には一人分のスペース。
それは、なかなか縮まることのない私と彼女の距離のようだった。
降り始めた雨はなかなかやむ気配がなく、
その勢いを強めては辺りを湿気で飲み込んでいった…。