BOOK

□ 君に会えたとき、
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 ちょっと歩くと川があった。


 「大きな川があるね…」


 「この川の先にあるんだ」


 「え…じゃあ」



 「ああ…渡るぞ」





 偶然なのか、近くに船が
 あった。

 すごくボロボロ。

 こんなんで二人のれるのかなあ。






 「手え、絶対離すなよ」


 「うん」


 ぐらぐらしたけど、
 アツヤが支えてくれたから
 二人乗ることができた。


 「兄貴、暴れるなよ」

 「暴れないよ!子供じゃないんだから
 アツヤそれは自分に言いなよ」

 「はあ!?」

 くたばれ、と連呼してくる。

 やっぱり子供じゃん。


















 「兄貴、俺がいない間何してた?」


 川の真ん中くらいまで来たとき
 アツヤに聞かれた。


 「うーん…サッカーかなあ」

 「まあそうだよな」

 「うん、友達がいっぱいできたよ」

 「へえ…」

 「染岡くんって人は老けがおだけど
 困ってると助けてくれるし、」

 「ほー」

 「今の僕のチームのキャプテンは
 モテるのに鈍感なんだよ!」

 「お前とにてるな」

 「僕は鈍感じゃない!」

 「いやいや」

 「それからね…」










 「…なあ、兄貴」

 「ん?」


 「もしだけどさ、俺と暮らすと
 そいつらと会えなくなって、
 そいつらと暮らすと
 俺と会えなくなるんだったらさ…


 どっちとる?」


 「え…」


 「どっち?」


 「どっちも」


 「それ無し」

 「えー!」


 選べないよお、と言うと
 アツヤの動かしていた船が
 止まった。



 「アツヤ?」


 「手、離して」


 「え…」

 どく、と心臓が鳴った。


 僕のこと嫌いになったの?



 でも




 この手は離すわけにいかないよ。





 「や、やだ」


 「何でだよ」


 「離すな、って言ったじゃん!!」

 「気が変わったんだよ」

 「え…」


 「引き返すぞ」








 僕は必死にアツヤの手を握った。

 「やだやだ!!


 「兄貴っ!!」

 がた、とアツヤが立ち上がった。

 ぐらりと船が大きく揺れたけど
 僕はこの手を離さなかった。




 「離せよ!お前は…





 俺と居ちゃいけねえんだよ」






 強ばっていたアツヤの顔が

 一瞬、悲しい顔になった。




 「なんで…」


 「うっせえ!!」


 どん、アツヤが僕の肩を押した。





 「うっわ!!」



 「…士朗!」





 大きな音をたてて、
 船は逆さまになった。


 苦しいよ


 なんでだろ…


 なんでこんなに




 「…っしろ!しろお!!」

 ばしゃばしゃと音をたてる
 音が聞こえる。


 「…ぷはあ、あつや…?」



 どうやら川に落ちたらしい。




 「士朗!これに捕まれ!」


 僕は必死に船にしがみついた。



 「士朗、泳げるか?」

 「…うん…」



 「よし、こっちだ」

 そう言うとアツヤは
 泳ぎだした。




 「待っ…」


















 どんどんアツヤは離れていく。


 こんなに泳いだのに岸が見えない。



 僕の体力は限界間近。



 なんで


 待ってくれないの…







 気づいた時には





 繋いだ手はもう、離れてた。







 「ごほっごほ!!…うっ」


 ようやく岸についた。


 「大丈夫かよ…」

 立てるか?とアツヤが僕の
 肩を持ったけど
 全然、力が入らなかった。



 「しかたねえ…」

 アツヤはひょい、と僕を
 おんぶしてくれた。



 こんな力持ちだったんだ。



 あ、なんか意識が…




















 「士朗、ごめんな…」






 朦朧とした意識のなかで



 かすれたアツヤの声が



 微かに聞こえた。



















































 目を開けると、
 天井が見えた。


 「ふぶきいいい!!」


 この声は…






 ちら、と目線をそっちに
 向けると

 僕の仲間たちがいた。



 だけど、あれ?




 「なんで泣いているの?」




 そういや、アツヤは?



 「お前、何も覚えてないのか?」

 涙ぐんだキャプテンに
 聞かれる。




 だって
 さっきまでアツヤと…




 「お前、トラックに跳ねられたんだよ」




 え…



 「丸一日、生死をさまよってたんだよ!」


 「僕が…?」




 そうだ…

 確か練習中、飛び出した
 ボールを追いかけて…







 じゃあ…さっきのは?







 手に残る感触。


 大好きなアツヤの手。



 「心臓止まった時は
 本当焦ったでやんすね!!」















 そして気づいた。




 あの時、










 アツヤの体が冷たかったのを。







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