book2
□涙痕に添える
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だから、涙など見せないで。
その海で溺れ死んでしまうから。
消えた笑顔が寂しそうだから。
涙の奥の色を知らないから。
塩化ナトリウムがもったいないから。
足跡が消えてしまうから。
涙を流す君はひどく美しくて、私にはとても触れられないから。その震える指先を握ってあげることだって怖いから。締め上げられた声帯を抱き締めてあげることさえかなわないから。
だから、涙など見せないで。
君の痛みも苦しみも悲しみもわかってあげられない苦しさで、私の心が叫ぶから。
私までその戸を開けてしまいそうになるから。
ただし、ひとつだけ、嬉し涙なら許してあげる。
その時は、少しだけ笑って、その涙を舐めさせて。
涙痕に添える