book2

□染める
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この華が美しいために君が私を守ってくれないことを、私はどこかで知っていた。

「いたっ。」

ほら、こうやって。私の指先にできた朱が華を染めていっそう美しくなるところを君は嬉しそうに見つめるのだ。時に心に突き刺さって痛いだけのこの棘を、とりたくなったとしてもこうやって色づけるだけの役割で、今、私の中に残っている朱はどれぐらいだろう。頬にはまだ、朱はあるだろうか。指先はまだ動いて君に触れたがるから、それならいいかと思ってしまう私は、君にはどう映っているんだろう。

いつか、この棘が喉に突き刺さって、痛ささえ叫べなくなったらどうなるのだろう。その時君は気づいてくれるだろうか。もし私の涙がこの華を味気なく染めたとしても、君は私に触れてくれるだろうか。その時君は、この華の蜜に気がついてくれるだろうか。

そんな想像の先にきっと、朝露に触れた光ほどの美しさがあると信じているしかないのだろう。今日もきっと、いっそ華をちぎってしまいたい衝動を抑えながら、刺さった棘の熱情を感じながら、上手に君の華に触れては、その棘にすら喜んで手を添えるのだ。


「(棘は、ひどく固い。君の手のひらが恋しい。)」


染める

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