book2

□宇宙人と棲む
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「君らは、100回目に宇宙に浮上した知能を持つ生物"ヒト"だ。おめでとう。でも君らにはひどく失望したよ。まったく。」

目の前の彼女はそう言って微笑んだ。それは僕には到底理解のできない言葉で、僕はどうしても、何も言えない。は?という言葉にならなかった言葉すら出ない。それでも彼女は、綺麗な二重の瞳を細めたまま僕を見つめる。いや、見つめられても。照れますって。え、なにこれ。キスでもしたらいいの。違うか。…違うか。
というか。そもそもなんの話をしていたんだっけ。ん?何かを話してたか?いやいや、違う。彼女がいつもと変わらない物腰で話を始めたんだ。まるで、今日のお昼冷やし中華でいいかな。みたいな気軽さで。あ、冷やし中華食べたいなぁ。


て、そうではなく。

「えっと、何か悪いもの食べた?」

「君らは100回目の記念であることに、環境に恵まれていただろう。色の鮮やかさや音の静けさを感じることができたはずだ。今までに存在した"ヒト"たちの中には、君らの所謂、触覚が発達する代わりに色を持たない奴もいたからね。ともかく、君らは恵まれていた。」

「…うん。」

完全に無視ですかお嬢さん。
どうしよう。この子ついに壊れちゃったよ。どうしたらいいんだ。…ああ、壊れてるのはいつものことか。それにしても今回はずいぶんなんと言うか、変なものを拗らせたなぁ。夏風邪、にしては早いような気もするけど。


「それなのに君らときたら。それを当たり前のように使っているね。折角感じ取れる水の透き通る蒼も、鳥の囁きも、知らん顔じゃないか。それでも僕らにはなにもできないから、歯痒くて仕方ないよ。」

「…うーん。」

「いいかい。資源や自然と言うものは有限なんだ。君らが吸っている酸素すら、植物たちがいなければなくなっているんだよ。」

「つまり?」

「…つまり!!冷房をつけたまま寝るだなんて行為はやめるべきだよ!!」

「…。」

ずび、と鼻水をすすりながら、彼女はそう熱弁した。ああ、なるほどそうか。昨日の夜、暑かったからと冷房つけて寝たはいいけど、彼女は冷房に弱いんだった。すっかり忘れていた。それを伝えるために、環境に悪いって所から話を始めたのか。本当、どういう風に育ったらこういう思考回路になるんだろう。

「まだ夜風が気持ちいい時期だよ。」

「ごめんごめん、お詫びに今度、ピクニックに行こう。」

「!!うん!!」

ああ、彼女が本当に宇宙人じゃなくてよかった。



同棲し始めたっていう話。

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