book2
□幽霊は涙をふかない。
1ページ/1ページ
色のない幽霊が私の横にいるようになったのはいつからだろうか。
ふわふわと私の周りを漂い、夜になると少し声が大きくなって、色濃くなる。いや、本当に濃くなっているのか、はたまた夜の闇のせえで浮かびあがって見えるだけなのか。どちらなのかはわからない。
どちらにしろ昼よりも夜の方が喧しい。私がなにをしたっていうのだ。前世で人殺しでもしたか。それはもう記憶がないから謝るしかないが、幽霊は怨みを言うわけでもなく、むしろ少し優しく漂っているのだからわけがわからない。祟りの類ではなさそうなのが救いだ。私が眠れば幽霊はなにも言わない。とりあえず今のところ安眠は確保できている。
と言っても元々就寝時間が疎らな自分であるから、健康的な睡眠をとっているかは別なのだが。
「君はどこからきたの。」
私は幽霊に尋ねた。すると幽霊はただ私を見つめた。
「答えないならいいよ。」
ふう、と息を吐く。幽霊が少しだけ大きくなった。
平日の昼間の川辺というのはのどかでいい。背中の方では山櫻がいまかいまかと蕾をふくらませている。風が少しあって寒いものの日なたが暖かいから、ぼーっとするにはちょうどいいわけだ。
いやあ、春ダナア。
そんなふうに思いながらまた息を吐いた。風で幽霊が流される。それでも幽霊はにこにこしていた。
季節の中で1番好きなのは春だ。次に夏。そして秋、冬と続く。つまりは寒いのが嫌いなのだ。手先が冷え切って痛くて仕方がない。どんなに温めてもすぐ冷える。普段運動をしないせえだとわかってはいても、寒くては動く気にすらなれない。悪循環だ。
「おなじ、冷え症だよね。」
触れた指先がつめたいこと。なかなか触れたくても触れられなくてやきもきしたこと。
「寝起きはコーヒーだ。」
布団の中で感じた足先がつめたいこと。穏やかな寝顔が愛しいこと。
「汗は全然かかないね。」
それでもしがみついた背中が少ししめっぽいこと。くちづけした唇がやわらかいこと。
「忘れてないよ。ちゃんと覚えているんだよ。」
この色のない幽霊に捕われて一度傷つけてしまったことも。それでも許してくれたことも。愛してると囁いてくれたことも。全て。
「君のくれた色があまりに鮮やかであることをきちんと知っているから。」
まだ少しむつかしいけれど、幽霊に色を移してやるさ。
「なんてのは、また、強がりかな。」
私が弱いこと。泣き虫なこと。寒がりなこと。
君は知ってるね。全て。
泣くなよー、って笑ってつらくないふりで。
そんな君を愛してるんだよ。とっても好きなんだよ。触れてしまったんだよ。知ってしまったんだよ。感じてしまったんだよ。求めてしまうんだよ。声が聞きたいんだよ。会いたいんだよ。手を繋ぎたいんだよ。キスしたいんだよ。抱かれたいんだよ。ずっとずっとずっと一緒にいたいんだよ。寝起きに君の頭を撫でてコーヒーいれて君を起こして朝ごはんを作っておいしいねなんて言いながらコーヒーいれるの上手になったねなんて言われながら時間をすごして仕事の時間になって行ってきますのキスをして晩御飯のリクエストを聞いて私も仕事に行って、帰ったら晩御飯を作りながら君を待って君はたまに酔って帰ってきて勢いでセックスなんてしちゃって明日は休みだからもう少ししようか、なんて、妄想してるんだよ。その傍らで君に捨てられたらどうしようなんて怖がってるんだよ、愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。愛してるんだよ。ただ愛してるんだよ。君の子供ほしいななんて思うんだよ。
幽霊は涙をふかない。