book2

□自業自得
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自業自得


傷ついてる事に気がついた。
それでも、何も言えなかった。

ただ顔をしかめる事しかできなかった。
でも、きっとあの人が見ないようにしている事もわかっていた。

「(泣きそうだ。幸せなのにな。)」

今私は幸せで、きっとあの人も幸せで、何も悪い事なんてない。

それでもあの人と笑って話せない事がどうしようもなく悲しい。
それが辛いだなんて、言いたくてもとても言えないのだけれど。

そうして、思い出したように当時聞いていた曲を聴いた。
そんなものを聴いたところで、もはや優しい声は聞く事が出来ない事だってわかっているのに。

忘れない事と、忘れられない事と、忘れたくない事と。
その全ての意味が違う事なんて、きっと特別それを意識した事がない人にはわからないだろう。

変わらない事と、変えられない事と、変えたくない事と。
その全ての意味の違いがどんなに残酷かなんて、あの人はきっと知らない。

言の葉は私を拘束する。抱きしめたまま離してくれない。それが私の勘違いだとしても。
その拘束は、私をただ縛り付けるだけでなく、私がその言の葉を疑えば疑うほど、言の葉の体温が下がっていっていると感じるほど、私を強く抱きしめる。
いや、実際は、私が強く抱きしめているだけなのかもしれない。


もはやわからない。
私は、あの人の、あの時好きだった瞳や声を忘れたつもりで、それでも触れられないとわかるとこうやって花を咲かせたがっている。
二人、を思い浮かべてなきたがっている。

抱きしめながらその爪で自分を傷つけたがっている。そこにいるのは自傷無色。
自分なんていない方がいいと願う戯言スピーカー。

「きっともう嫌いなのね。」

そう思った方が早くて、それでもそうすると、どうしようもなく苦しくなる。

「きっともう忘れたのね。」

そう思った方が正しくて、それでもそうすると、どうしてか涙が止まらないのだ。

「(どんなに偽善だって言われたとして、そんな風にされたら、意味を失った自傷行為が止まらなくなるというのに。)」

あの日流した涙は嘘じゃなかったんだなんて、当たり前の事を今更に思う。

それでもきっと、あの人は何もしない。わかってる。
それでもきっと、私は待っている。

どこかで打ち忘れたピリオドを、あの人が打ってくれない限り、私はきっと。

わかっているのだ。自業自得だなんて事。
恋しくて、なんて言えない。そんな事言わない。

『もう君なんて嫌いだし、もう君への愛情すら忘れた。』

そうやってピリオドを打ってもらえればいいなんて、望んでないのに、そうしてくれたらいいのにと思う。

そうしてくれたら私は花と言の葉を強く抱きしめる事だってやめられるのに。



そうして、やっと本当に、

なんて、幸せなのに。死ぬ事なんて出来ないのに。

ただ、心做しが叫んでいる。

ごめんなさい。

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい


私なんて生まれて来なければよかった。そうすればあなたを苦しめる事もなかった。あなたを傷つける事もなかった。あなたの苦しそうな声を聞く事もなかった。あなたになみだを流させる事もなかった。あなたに触れた痛みを訴える事もなかった。そうしてあなたを苦しめる事もなかった。あなたにもうやめてくれなんて言わせる事もなかった。あなたを惑わせる事もなかった。あなたに迷惑をかける事もなかった。あなたが誰かを愛する為の時間だったものを私のせいで無駄にする事もなかった。あなたに私が好きなんて言わせる事もなかった。あなたが私の自傷行為に悲しむ事もなかった。あなたが花言葉を知る事もなかった。あなたにマーガレットやシオンの花を持たせる事もなかった。

全部全部私のせいでした。全部全部わたしの自業自得でした。謝っても何も変わらないけれど、もう何を求めているのかもわからないけれど、全て私が悪かったのです。今更それがわかりました。

ごめんなさい。

それでも勿忘草やキスツス•アルビドュスは、私の中で咲いていました。




自業自得


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